法人や個人事業主など、事業を営んでいるとやってくる可能性のある税務調査。
日常で触れることがないため、いったいどこまで調べられるのか不安な方も多いでしょう。
この記事では税務調査で調べられる対象や範囲について、事例や対策などを交えて解説していきます。
なお、税務調査には一般の納税者を対象にした任意調査と、脱税の疑いのある人を対象にした強制調査があります。
この記事では基本的に任意調査についてお伝えしていきます。
税務調査はどこまで調べられる?
まずは税務調査の対象となる人や範囲についてお伝えしていきます。
税務調査については国税通則法に規定があり、調査の範囲についても定められています。
聞き取りの対象となる人
税務調査での聞き取りの対象になる人は、取引先を含めた関係者全員です。
具体的には
- 社長や役員
- 従業員
- 金融機関
- 得意先
- 仕入先
- 外注先
- その他金品や商品などの受け渡しのある人
(法令の根拠:国税通則法74条の2)
調査官には「質問検査権」というものがあり、基本的に税務調査に必要があれば上記の誰にでも質問ができる決まりになっています。
対象の範囲は広く、さらに質問に対して無視したり嘘をつくと罰則もあるため、質問に対しては正直に答えましょう。
税務調査については上記の関係者を一度に聞き取りすることはなく次のような順序で行います。
- まず社長や役員
- 従業員のうち事業責任者クラスや経理責任者
- 詳しく聞きたい場合は従業員のうち担当者クラス
- 怪しい部分について金融機関や取引先など(後日の場合もあり)
調査の順序としてはまず全体像の聞き取りから入り、書類の確認も並行しながら、細かい論点や個別の取引を調べていきます。
そのため、全体像を知っている社長や役員から聞き取りをはじめ、事業責任者や担当者へどんどん細かくヒアリングしていきます。
金融機関や取引先に聞き取りをする場合は、社内での聞き取りでは事実確認が不十分であったときや、その取引先などに不正が疑われたときなど。
あくまで聞き取りのメインは社内の役員や従業員といえます。
役員や従業員は当日調査官に聞き取りを依頼される可能性があるため、調査当日は内勤などにして、対応ができるようにしておきましょう。
「担当者は不在です」と答えても、日をあらためて質問されることになり、調査の日程が伸びることもあります。
調査の日程が伸びるほど業務への影響が出やすいので、なるべくスピーディーな対応を心がけましょう。
調査対象の書類
税務調査では多くの書類や帳簿が調査対象に。
調査の前にはあらかじめ税務署より、用意してほしい書類の案内がされます。求められた書類については事前に用意しておく必要があります。
調査の進展によっては追加の書類を求められますので日頃から書類の保存や整理は行って置きましょう。
調査の対象になる書類関係は「事業に関する帳簿書類その他の物件」と定められており、広範囲にわたります。
具体的な書類としては次のようなものが挙げられます。
- 3~5年分の決算書・申告書
- 3~5年分の総勘定元帳
- 給与台帳
- 契約書
- 通帳
なお、帳簿書類については印刷のほか、パソコンのモニターに表示して見せることも認められています。
パソコン・メールの記録
税務調査ではパソコンのデータやメールの履歴も対象となることがあります。
過去には税務調査に際して、都合の悪い事実を隠ぺいするため、「証拠隠し」の指示をしたメールが露呈する事例もありました。
メールは消去しても復元が可能ですので、調査官も怪しいと感じたら深く追及してくるでしょう。
資料などを持ち帰ることもある
内容の精査をするため、「留め置き」といって調査官が資料やデータを持ち変えることがあります。(法令の根拠:国税通則法74条の7)
ただし、資料はすべて原本を持ち帰るわけではありません。
たとえば書類に関してはコピーを渡せば十分なことがほとんど。データについてもコピーや印刷で済みます。
原本などを持ち帰る場合は、コピーが難しいものや、コピーでは不十分と判断された場合といえます。
本社だけでなく倉庫や社長の自宅も対象
さきほど、調査の対象になるものは「事業に関する帳簿書類その他の物件」とご案内しました。
もし会社の倉庫や社長の自宅に「事業に関する帳簿書類その他の物件」があると判断されれば、調査官が確認をしたいと申し出ることがあります。
具体的には次のような場合が考えられます。
- 倉庫内の商品などの棚卸を確認したい
- 社長の自宅に重要な書類がある
- 社長が会社の資産を私物化している可能性がある
それでも任意調査の場合、いきなり自宅に押しかけることはなく、基本的に「見せてください」とお願いする形で依頼されます。
社長のプライベートにも踏み込んで聞く
ときには調査官は社長のプライベートについても踏み込んで聞いてくることがあります。
たとえば会社の銀行口座から社長個人や家族への不明な送金があったときには、その使い道について細かく聞き取りや確認をしてきます。
実際にあった税務調査の事例
以上が税務調査で聞き取りや検査の対象になる範囲ですが、イメージがしやすいよう、事例も紹介します。実際にあった調査事例でいったいどこまで調べられるのか、イメージを持ちましょう。
税務調査の事例①:社長の妻が会社の金を横領して男と逃げた
これは関東を中心に複数店舗をもつ和食の会社に税務調査が入ったときの話です。
そこの調査において、銀行口座から不明な出金があったことが発覚。
出金先が社長の妻だったことから、調査官は社長に聞きとりをしました。
そこで社長は「妻が不正にお金を引き出し、男と逃げた」ことを説明しました。
これだけでも人に話すのは十分イヤなはずですが、調査官は
「いつから不倫していたのか」
「引き出されたお金は総額いくらか」
「不倫相手はだれか」
「社長に愛人はいるか」
など、根ほり葉ほり聞いてきます。
調査に必要だからなのか、調査官の個人的な興味なのか、判断に迷う質問も含まれ、細かい暇では不明です。
このように調査官によっては質問検査権を理由に、本人が言いたくないことまで突っ込んで聞いてきます。
税務調査の事例②:社長の愛人に架空の給料を払っていた
税務調査においては給与台帳の従業員がきちんと勤務しているか、という点も確認してきます。
よくあるのが社長の愛人を会社の従業員として在籍させ、勤務の実態はないものの、給与として愛人に金銭を振り込むパターン。
もちろん勤務実態のない給与は、法人税の計算上では費用と認められませんので、追徴課税の対象となります。
そのため調査官は怪しい従業員がいた場合、その従業員のデスクやタイムカードの利用実態などを調べて勤務実態を確認します。
とある会社では、税務調査で愛人への支払いの発覚を防ぐため、毎日愛人のタイムカードを別の社員に押させていました。
しかしその社員と愛人のタイムカードの時間が毎日同じであったため、調査官が不正を見抜いたことに。
調査官もプロですので、かなり細かいところまでチェックしている事例といえます。
税務調査の事例③:元社員の無申告がばれる
ある運輸系の会社での税務調査のこと。その会社では元社員に外注費を支払っていました。
その業務の内容は、源泉徴収が不要のものであったので、その元社員は確定申告をする必要がありました。
調査官はその元社員への外注費を発見。確認を進めるとその元社員が確定申告をしていなかったことが発覚しました。その元社員は調査官に呼び出されたうえ、無申告加算税というペナルティを課されることとなりました。
このように、税務調査においては芋づる式に不正がばれることがあります。
自分のところに調査が来なかったとしても、関係者への調査で不正がばれることもあります。
税務調査で見られやすい項目と対策
【税務調査でよく見られるトピック】
- 売上
- 役員報酬・従業員給与
- 会社と社長個人との金銭のやりとり
- 印紙
- 交際費
- 国外関連費用
税務調査で見られやすい項目:売上
まず税務調査で確認されるのが売上。
とくに「期ずれ」と呼ばれる、決算期前後の売上がチェックの対象となることが多いです。
当期に計上すべきだった売上を翌期に計上した場合、その当期については売上の計上もれということになり、追加の税額が生じます。
取引実態をよく把握して、業種ごとに適切なタイミングで売上を計上しましょう。
とくに2021年4月には「収益認識基準」と呼ばれる、いつのタイミングで売上を計上するかを定めた会計ルールの改正があり、調査時には追及が予想されます。
基本的な収益の計上タイミングは商品が引き渡されたときや、サービスが提供されたときです。(法令の根拠:法人税法22条の2)
このほか、業種や取引内容によって収益の計上タイミングについてはさまざまなタイミングが認められています。
重要なのは「収益認識基準」をよく理解したうえで、その収益認識基準を自社の事業内容に当てはめた際の取り扱いをきちんと検討しておくこと。
税理士などの専門家を交えて、収益の計上タイミングについて確認しておきましょう。
税務調査で見られやすい項目:役員報酬・従業員給与
役員報酬や従業員給与などの人件費も税務調査でよくチェックされる項目のひとつ。
役員報酬の金額は改定のタイミングや、適正な金額が厳格に制限されているため、処理が正しくないと一目でわかります。
具体的には役員報酬は次の3つのいずれかの方法によってのみ、税務上の取り扱いが認められています。
- 定期同額給与(毎月同じ額を支給する)
- 事前確定届出給与(事前に毎月の支給額を報告する)
- 業績連動給与(業績に応じて給与を決める)
たとえば定期同額給与は事業年度開始から原則3ヵ月以内に改定しなければなりません。
実務上、多く利用されているのは定期同額給与と事前確定届出給与。
たまに内部懲罰で役員報酬を一時的に減額することがありますが、そのような一時的な減額は一定の場合を除き、税務上は不利な取り扱いとなります。
以上のように役員報酬については税務上、取り扱いの制限が設けられており、社長や役員の一存で増減するにはリスクがあるでしょう。
改定のタイミングと増減額については税理士と相談することをおすすめします。
また、調査において従業員についても本当にその従業員が働いているかの実態を確認することがあります。
過去には給与の支払いがあるにもかかわらず、実際には勤務実態のない社員がいることが税務調査で明らかになったことも。実体のない給与については税務上は費用と認められず、追加の納税が生じることとなりました。
税務調査で見られやすい項目:会社と社長個人との金銭のやりとり
会社と社長個人との金銭のやり取りがあると厳しく追及されることも。
会社のお金を社長の個人的な支出に使っていると判断されると、そのお金は役員報酬とされる可能性が高いです。
さらにこの役員報酬は税務上の費用とは認められないため、会社にとっては不利な処理となります。会社にとってキャッシュアウトしているものの、税務上の費用とは認められず、納付する税額が増えることに。
さらに社長個人にとっては追加で役員報酬を受け取ったことになるため、所得税を追加で納めるよう求められます。
このように会社と社長個人の金銭のやり取りは2重の痛手となるでしょう。
また、金銭のやり取りだけでなく、社長が法人カードを利用して私的な買い物などをした場合にも同様に役員報酬の支払いがあったとされます。
会社と社長個人については、仕事をプライベートのように、明確な線引きを意識しておく必要があります。
税務調査で見られやすい項目:印紙
5万円以上の領収書や一定の契約書には印紙を貼ることとされています。
実務上、どうしても印紙の貼り忘れが生じやすいため、調査官は必ずと言っていいほど印紙のチェックを行います。
飲食店や小売店については領収書、会社全体では契約書にはり付けもれがないように日頃から注意しましょう。
参考:国税庁 印紙税
税務調査で見られやすい項目:交際費
取引先の接待などのために使う交際費は調査のトピックになりやすいです。
交際費は法人税の計算上、一定額までしか費用として認められません。そのため、税務調査では多額の交際費を使う会社については、申告書上で正しく処理がされているか確認がされます。
交際費は毎月生じやすいうえに、福利厚生費などとも混同されやすい科目です。毎月きちんとチェックしてくれる税理士がいると、交際費の間違いも少なくなるでしょう。
税務調査で見られやすい項目:国外関連費用
海外での取引が多い、海外出張が多い、または海外に拠点がある会社は国外での支出が多くなりがち。このような国外関連費用は税務上の論点を多く含むため、税務調査では詳しく見られる可能性が高いです。
たとえば外国子会社とのやり取りをするうえで、国内親会社がなんらかの費用負担をした場合、次のような点を税務調査で追及されることがあります
- 親会社が費用負担をする業務上の必要性があったか
- 取引について子会社に対して贈与や無料でサービスをしたのではないか
一定の場合には親会社から子会社に対する寄附金とされ、税務上の費用から除かれる可能性があります。
子会社とはいえ、取引を行う際には契約書や合意書などをあらかじめ用意し、取引の整合性を確保しておく必要があります。
海外取引は取引経路も複雑になることが多いため、取引実態をきちんと把握したうえで適切なアドバイスをしてくれる税理士がいると頼もしいでしょう。
税務調査には税理士の立ち合いを
以上が税務調査で見られる範囲や、よく見られるトピックです。
税務調査には普段からの税務論点の整理や準備が必要であるとお分かりいただけたでしょうか。
また、税務調査当日についても調査官はさまざまな指摘や要求を行ってきます。
調査に立ち合い、調査官の指摘に対して適切に反論して納税者の権利を守ることができるのは税理士だけ。
ぜひ優秀な税理士を顧問に迎え、会社の利益を守っていきましょう。
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