監査とは、企業の経営活動とそこから得られる結果について、法令や社内規定などの基準に照らし、有効性を合理的かつ正確に判断することです。経営活動やその結果である計算書類が法令や規則などに照らして正しいことを株主や債権者に対して証明し、報告することを目的としています。
監査には内部監査と外部監査があり、資本金5億円以上の「大会社」に対しては「会社法監査」が義務付けられています。会社法監査をひも解き、監査の種類や内容について詳しく説明します。
監査の目的・種類・意義
監査の大きな目的は、経営活動や財務情報を法律や社内規則に照らして精査し、株主をはじめとする利害関係者に適正性を保証することです。監査の種類や意義についてみていきましょう。
会社法監査の種類
監査には、企業内部でおこなう「内部監査」と企業組織の外部の専門家がおこなう「外部監査」があります。それぞれ目的と内容が異なります。資本金5億円以上の株式会社を「大会社」といい、会社法に基づいて監査が義務付けられています。
会社法のもとでの内部監査では、取締役の執行を「監査役」が監視する義務があります。また、最近ではコーポレートガバナンス(企業統治)を強固にする目的で「内部監査人」を設置するケースが多いです。
一方、外部監査は監査法人などの専門家が企業の財務情報の適正性を会社法の会社計算規則に基づいて適正性を判断します。
会社法監査の目的とは?
会社法監査の大きな目的は、信頼される企業として継続的に経営していくことです。株式会社にとって、安心して投資できる企業であることが保証されなければ、存続が危ぶまれてしまいます。株主や債権者の信頼を得てはじめて、企業の社会的存在価値が保証されるのです。
株式会社は、株式を発行した会社に投資した株主が持ち主だといえます。個人事業から設立した株式会社の場合は、経営主体と持ち主が同じ場合が多いので、経営責任を株主から問われるケースは少ないでしょう。
一方、大会社といわれる資本金5億円以上の株式会社には多くの株主が存在します。株主は実際の経営を監視するわけにはいかず、決算が終わってから株主総会で結果を知るだけです。そのとき、はじめて株主は投資した会社の実態に触れることになります。
株主は決算期ごとに投資に見合う配当を受け取る権利がありますが、決算で作成された計算書類が正確であるかどうかを判断する術がありません。そのため、外部の専門家による監査によって、会社法に基づき適正であることの保証が必要となるのです。
監査役と内部監査人による内部監査
会社法では監査役を設置する内部監査が義務となっています。ほかに法律には定められてはいませんが、内部監査人を設置して、監査役監査とは異なるアプローチをする内部監査もあります。それぞれについてみていきましょう。
監査役の職務
株主総会で選任される監査役は、取締役の職務の執行を監査します。監査にふくまれるのは、業務監査と会計監査です。
取締役の業務監査
株式会社の業務執行の意思決定機関は取締役で構成される取締役会です。取締役会も取締役の職務執行を監督しますが、監督機関としての機能がじゅうぶんに果たせていないことが危惧されます。
そこで、会社法381条1項に基づき監査役が取締役の職務執行を監査します。監査役の職務は、各事業部門の業務の監査にとどまりません。取締役会の意思決定が適正であるか、取締役がほかの取締役の職務執行を監督する善管注意義務を果たしているか、なども監視し確認する必要があるのです。
監査役としての職務を果たすために、監査役は取締役会に出席して意見陳述する義務が、会社法383条1項に規定されています。もしも不正や法令違反などの事実を認めたときは、会社法383条2項・3項で監査役に対して取締役会を招集する権利を付与しています。
監査役による会計監査
会計監査は、定時株主総会への計算書類提出前におこなわれます。株主総会の招集通知に、会計監査と業務監査の結果を記載した監査報告を株主に提供します。実際に会計監査をおこなうとなると、わずか数名の監査役がすべてを把握できないのが実情でしょう。
監査役は監査法人など外部の会計の専門家による監査と連携し、監査の方法や結果の相当性を判断する必要があります。
監査の範囲を会計に限定するときの定款および登記
監査役による監査に関して、資本金1億円以下で負債200億円未満の株式会社であり、発行する株式のすべてに譲渡制限がある株式会社を対象として会社法が改正されました。
平成27年5月1日に施行された改正会社法では「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定め」がある株式会社は、その旨を登記する必要があるとしています。(会社法第911条第3項)
旧商法のもと(平成18年5月1日より前)に設立された小会社は、監査役について会計監査限定の定款の定めがあるもの、とみなされていました。したがって、会計監査限定の定めを廃止していなければ、登記しなければなりません。新たに設立する会社も注意が必要です。
内部監査人の職務
また、非上場企業が上場を目指してコーポレートガバナンスを強化する場合などにおいて、内部監査人を設置して内部監査を任意におこなう場合があります。企業組織内部から選任され、原則として最高経営者に直属します。
内部監査人の職務は、社内でコンプライアンスにそって業務がおこなわれているかチェックしたり、従業員の士気を高めるために労務管理を改善したりすることです。
コンプライアンスについて詳しい内容が知りたい方はこちらを参考にしてください。
内部監査人監査の目的と対象範囲
内部監査の目的は、企業における経営目標の効果的な達成と社会的な信頼性の確保です。監査対象には、リスク・マネジメント、リスクコントロール、ガバナンス・プロセスの評価など広範囲で専門的な内容がふくまれます。
不適切な会計について詳しい内容が知りたい方はこちらを参考にしてください。
内部監査人の求人
内部監査人には、重大な誤りや不正、不当事項や法令違反の兆候を発見するためのじゅうぶんな知識が求められます。内部統制システムの妥当性と有効性を評価して、不正発生の防止を支援する責任があるからです。
したがって、内部監査を充実させるためには、社内で新たに資格取得を推奨したり、新たにエキスパートを求人をおこなったりする必要があるかもしれません。
会社法に基づく外部監査と目的
会社法に基づく外部監査では、「計算書類及びその附属明細書」(会社法第436条2項1号)が適正に作成されているかどうかを判断します。企業外部の専門家は公認会計士または監査法人です。
会社法監査の目的
決算後に作成される計算書類は、株式会社の運営状況および財務状況を示す資料です。事業報告書とともに定時株主総会で株主に提供されます。適正に作成されていない場合、会社の経営実態を正しく判断できず、株主や債権者の利益を大きく損ねる可能性があります。
会社法監査は、株主や債権者など利害関係者の保護を目的としています。そのために、計算書類の監査をおこない、外部の第三者によって保証し、信頼を担保するのです。
会計監査人設置違反の罰則
会社法監査は大会社の義務のため、会計監査人を設置せず放置すれば、法律違反になり罰則が適用され、100万円以下の過料が科される可能性があります。(会社法976条22号)
ほかに大会社には内部統制の基本方針を決定する義務があり、事業報告書に記載しなければなりません。会計監査人の設置違反は基本方針の虚偽記載などの不正につながるかもしれませんので、注意が必要です。
会社法監査における必要書類
会社法463条2項1号の計算書類が4つあります。
監査に必要な書類:賃借対照表
貸借対照表は、資産や負債などの会社の財産状態を示しています。監査では資産の実在性や資産評価の妥当性、負債の網羅性が求められます。とくに銀行預金などと異なり棚卸資産や売掛金は会社が恣意的にあつかいやすいので注意が必要です。
監査に必要な書類:損益計算書
損益計算書には、会計期間の経営成績が表されています。収益と費用の差で利益が計算されます。監査において注意すべき点は、売上高や仕入高、販売費および一般管理費の正当性や、営業外損益や特別損益などの計算の整合性、計算結果の妥当性などです。
期間損益について詳しい内容が知りたい方はこちらを参考にしてください。
監査に必要な書類:株主資本等変動計算表
株主資本等変動計算表は、会計期間における純資産の変動を明らかにするものです。貸借対照表のようにすべての資産や負債を記載するのではなく、株主に帰属する部分である株主資本の変動事由を表します。
監査では、貸借対照表や損益計算書と照合して整合性があるか確認します。
監査に必要な書類:個別注記表
個別注記表には、重要な会計方針、貸借対照表、損益計算書などに関する注記を一覧にして表示します。以前はそれぞれの計算書類に注記が記載されていましたが、会社法により、新たに計算書類として設定されたものです。
監査においては、会計方針や表示方式の変更に注意し、保証債務や担保設定などの確認をおこないます。
監査の目的は企業の存続
監査の業務や内容を理解し、その目的を正確に捉えれば、企業経営のあり方を見つめることになります。監査役や内部監査人、外部の会計監査人だけでなく、取締役や一般社員にとっても監査の知識を得ることは重要です。
なぜなら、株主や債権者など社外で企業を支える人たちから信頼を得られれば、企業が未来に向かって存続していけるからです。監査の深い理解のためにこの記事を役立ててください。