会社の利益から分け与えられる「分配可能額」。管理部門として、あまり詳しくないという人は注意が必要です。
受け取り側が内容を理解せずにただ配当された額を受け取ている場合には、損をしていることや最悪ペナルティが課せられる可能性もあるのです。
そこで、分配可能額の定義や法律上の注意点、計算方法などについて理解していきましょう。
分配可能額とは
分配可能額とは、なかなか聞き慣れない用語だと思います。しかし、この用語は株式会社からの配当金をもらう上でとても重要となってくる用語です。
分配可能額は「会社に利益を残しながら債権者に払える財産」
分配可能額の定義は、株式会社が、債権者や株主への支払いを確保できる財産の額のことです。
株式会社は、事業によって得た利益を株主へ分配する仕組みです。しかし、制限なく分配し続けると会社自体に利益が残らなくなってしまいます。
利益が残らなければ、会社に融資をしてくれている銀行や取引先への支払いが行えません。それを防ぐために必要な制度が分配可能額です。
つまり、分配可能額は「会社に利益を残しながら株主や銀行などの債権者にお金を支払える可能額」と言えるでしょう。
分配可能額は会社法で定義されている
分配可能額は、会社独自に確立しているものではなく「会社法」という法律のなかで定義されています。
前述した定義とは別に、法律的な解釈で分配可能額は「会社法第461条第2項にしたがって計算される額」のことを指すものです。
書いてある内容はやや硬い文章で理解しにくいですが、意味自体は前述した定義とほとんど同じです
分配可能額は会社側が自由に決められる
分配可能額は「会社法第461条第2項にしたがって計算される額」であるものの、実は計算した額の範囲内であれば会社の取締役が、支払額を自由に決定することが可能です。
そのため、「分配可能額=自分が受け取れる配当金」ではないことを理解しておきましょう。
そして、この決定された支払額に関しては株主が「もらえる額が少ないぞ!」と、意見を述べる権利を持っていないこともおさえておきましょう。
多くの株式会社の場合、自社にある程度の利益と貯金を行うために株主の支払い金額を調整していることがほとんどです。
分配可能額を超えた額を株主が受け取ってしまった場合は?
基本的にはあまり起こることは少ないですが、分配可能額を超えた額を株式会社側が支払ってしまうケースが存在します。このようなケースは「違法配当」となるため注意が必要です。
例えば、分配可能額が1000万円であったにも関わらず、会社側が2000万円の分配を行ってしまった場合、受け取った株主には分配可能額からオーバーした分を返金する義務があります。
つまり、今回の例では1000万円までの分配可能額に対して実際は2000万円受け取っているため、差額の1000万円を会社側へ返金しなくてはなりません。
この義務は、たとえ株主側に落ち度がなかったとしても有効となるので、あらかじめ株式を保有している株式会社の分配可能額がどの程度か知っておく必要があります。
違法配当は罰せられるの?
結論から言うと、違法配当をした場合には関係した者に金銭の支払い義務が発生します。
違法配当は文字通り違法です。そのため、発覚した場合には会社法第462条に基づいてペナルティが課せられるのです。
分配可能額の計算をする前に知っておきたい用語を3つ解説!
次章で触れる分配可能額の計算方法を理解するためには、聞きなれないたくさんの用語がでてきて混乱してしまいます。
そこで、まずは分配可能額に関係してくる3つの用語について整理していきます。
分配可能額を知るために理解しておきたい用語:資本金
資本金は、株主が株式会社へと払い込んだ金額そのものを指します。
会社法第445条第1項では堅苦しい文章で解説されていますが、簡単に言い換えれば、「資本金とは会社が事業を行い利益を上げるための元金」と言えます。
資本金は会社が大きくなろうと、資本金を自由に変えてはいけないという規則も存在しているので、合わせて覚えておきましょう。
資本準備金
資本準備金は、資本金の1/2を超えない額を準備金として積み立てている(準備している)金銭のことをいいます。
例えば、1000万円の資本金があった場合には、その半分の500万円までを資本準備金とすることができます。
株主から払い込まれたお金をすべて資本金とするのではなく、資本準備金として積み立てておけば、会社の業績が悪化した際に積み立てを切り崩すことで会社の倒産を回避できます。会社として、とても重要な資金なのです。
簡単に言い換えるならば、「会社が倒産しないための貯金」と言えるでしょう。
分配可能額を知るために理解しておきたい用語:資本剰余金
前述した資本金と資本準備金は、株式会社が資本取引を行い会社に利益をもたらすための資金と考えられます。
資本剰余金は、その資本取引から生じた額を(資本金+資本準備金)から引いた余りの額のことです。
また、資本余剰金は株主に配当金を分配する際の元金となります。株式会社は資本金や資本準備金を切り崩して資本余剰金を増額させた後に配当金として株主へ分配することも可能ということも合わせて覚えておきましょう。
分配可能額の計算方法
自分が保有している株式の会社の分配可能額がいくらなのかを計算して、事前に知っておくことは法律を犯さないためにも、自分が損をしないためにも重要なことです。
しかし、分配可能額の計算方法の中には、聞き慣れない用語が多く理解することがとても大変だと想定できます
そのため、難しいと感じる人は「大まかな分配可能額」のみ覚えておくようにしましょう。
分配可能額を計算する際に必要になる貸借対照表
分配可能額を計算する上で必要不可欠なのが「貸借対照表」です。あまり聞き慣れない用語ですが、この表は株式会社の決済報告書に添付されているので、確認できる機会があればチェックしてみてください。
貸借対照表の内容は以下の3つに大別されます。
- 資産の部
- 負債の部
- 純資産の部(会社の全資産から負債を再引いた金額)
基本的には、純資産額がプラスの場合には、その会社は負債を全て返しても手元に財産が残ることを意味します。
反対に純資産がマイナスの場合には、財産を全て負債にあてても返済しきれない状態、つまり債務超過であることを意味します。
「純資産イコール分配可能額になるのでは?」と考えられそうですが、実はそうではありません。
純資産額には規制がある
純資産額にも株式会社や株主、銀行などの債権者が損をしないための担保として規制が設けられています。
規制内容は次の通りです。
会社法第453条から前条までの規定は、「純資産額が300万円を下回る場合には、余剰金の配当はできない」ということになります。
条文内で出てくる第453条から前条までの規定は以下の通りです。
- 株主に対する剰余金の配当
- 余剰金の配当に関する事項の決定
- 金銭分配請求権の行使
- 基準株式数を定めた場合の処理
- 配当財産の交付の方法等
分配可能額=その他資本剰余金+その他利益剰余金で大まかに導ける
純資産額をさらに細分化すると以下の5項目になります。
- 資本金
- 資本準備金
- その他資本剰余金
- 利益準備金
- その他利益剰余金
この中の「その他資本剰余金」と「その他利益剰余金」を足した額が、大まかな分配可能額であると認識しておいてもよいでしょう。
大まかな分配可能額の算出方法は比較的理解しやすい内容なので、「これ以上複雑な説明は苦手!」という人は、ここまでの説明をしっかりと覚えておくだけでも良いでしょう。
これより先は、より複雑な用語や計算方法になりますが詳細を算出するためには必要な内容です。
分配可能額の計算手順1:決済日における剰余金を算定
剰余金=資産+自己株式の帳簿価額の合計-負債-資本金・準備金-法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額決算日における剰余金の額
その他法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額を控除することにより算定できます。
計算方法ステップ1では、決済日における余剰金を算定しました。
ここまでは比較的スムーズに計算できるのではないでしょうか?この先ではより多くの項目が登場するので、実際の資料を手元におきながらぜひ、計算してみてください。
分配可能額の計算手順2:分配時における剰余金の額を算定
分配時点における剰余金=決算日における剰余金+下記調整額の加減で求められます。
- 最終事業年度末日後の自己株式処分損益・減資差益・準備金減少差益
- ▲ 最終事業年度末日後の自己株式消却額・剰余金の配当額
- ▲ 法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
※「▲」はマイナスを意味します。
分配可能額の計算手順3:分配可能額の算定
分配可能額=分配時点における剰余金+下記調整額 の加減で求められます。
- ▲ 分配時点の自己株式の帳簿価額
- ▲ 事業年度末日後に自己株式を処分した場合の処分対価
- ▲ その他法務省令で定める額
分配可能額は確実な計算を
分配可能額は、株式会社にある程度の利益を残しながらも株主や銀行などの債権者に適切な額を支払うための制度です。
この制度は、株主側も損をしたりペナルティを課せられたりしないためにもしっかり理解しておくことが大切です
分配可能額の計算方法はやや複雑ですが、大まかな額だけでも一度算出することをおすすめします。株主とのトラブルとなる可能性を極力減らしましょう。