みなさんは消費税の納税義務の判定方法について、正しく理解できていますか?消費税の納税義務の判定については、「基準期間(その事業年度の前々年など)の売上で決まる」ということをすでに理解している人は多いと思います。しかし、消費税の納税義務の判定については、基準期間における判定以外にもあり、その1つが「特定期間における判定」です。
特定期間という言葉を聞いただけでは、
「消費税の特定期間とはどの期間のこと?」
「消費税の特定期間における判定基準は?」
と疑問に思う人は多いのではないでしょうか。
そこで今回は、
- 消費税の特定期間とは一体どの期間?
- 基準期間は特定期間とどこがちがう?
- その他の消費税の納税義務の判定項目は?
これらの疑問について、徹底的に解説していきます。
消費税の納税義務の判定においては、
- 基準期間
- 特定期間
といった、それぞれの期間によって判断する必要があるため、それぞれの期間がどの期間を指すのかをしっかりと理解し、消費税の納税義務があるのかを判断しなければなりません。
安易な判断をしてしまうと、消費税の申告が漏れ、「無申告加算税」などのペナルティが発生する場合もあります。
まずは、特定期間と基準期間の2つの期間の違いをしっかりと理解し、消費税の納税義務の判定を適切におこなえるように知識を深めていきましょう。
消費税の特定期間とは
消費税における特定期間とは「前事業年度の開始の日から6か月間」のことをいいます。
事業年度は法人と個人事業主で異なることから、具体的に次のように取り扱われます。
法人・・・その事業年度の前事業年度の開始の日から6カ月間
個人事業主・・・その年の前年1月1日~6月30日までの間
この特定期間における消費税の納税義務の判定については、次の2つの条件から選択できます。
- 課税売上高※1が1,000万円を超える場合
- 給与等※2の支払いが1,000万円を超える場合
そのため、特定期間における課税売上高が1,000万円を超える場合であっても、給与などの支払いが1,000万円を超えなければ納税義務は発生しません。
消費税の納税義務を判定する基準の1つである特定期間については、上記のとおりですが、これはあくまでも原則的な取り扱いであり、
- 年(事業年度)の途中で設立、開業した場合
- 法人の設立初年度の期間が7か月以下である場合
などについては取り扱いが異なるため、注意が必要です。
このように、特定期間は前事業年度の月数などによって該当する期間が異なるため、事業者ごとの適切な判断が必要になります。
※1 課税売上高とは
消費税の課税対象となる取引のことをいいます。
具体的には次のような取引が課税取引となります。
・商品の販売
・機械や建物等の事業用資産の売却
・事業のための資産の譲渡・貸付け
・サービスの提供
など
反対に、次のような取引は課税取引となりません。
・土地の譲渡、貸付け(一時的なものを除く。)など
・有価証券、支払手段の譲渡など
・利子、保証料、保険料など
・特定の場所で行う郵便切手、印紙などの譲渡
・商品券、プリペイドカードなどの譲渡
・住民票、戸籍抄本等の行政手数料など
・外国為替など
・社会保険医療など
・介護保険サービス・社会福祉事業など
・お産費用など
・埋葬料・火葬料
・一定の身体障害者用物品の譲渡・貸付けなど
・一定の学校の授業料、入学金、入学検定料、施設設備費など
・教科用図書の譲渡
・住宅の貸付け(一時的なものを除く。)
など
※2「給与等」に含まれるものは給与のほかに、賞与も含まれます。通勤手当などに関しては所得税の課税対象となる部分(非課税限度額を超える通勤手当)に関しては給与等の金額に含まれます。 「非課税限度額を超える通勤手当」については下記の表のとおりです。
区 分 | 非課税限度額 | |
---|---|---|
① 交通機関、または有料道路を利用している人に支給する通勤手当 | 1か月当たりの合理的な運賃等の額 (最高限度 150,000 円) |
|
② 自動車や自転車などの交通用具を使用している人に支給する通勤手当
※ 右記の距離に関しては、通勤距離における片道の距離を示しています |
55km 以上 | 31,600円 |
45km 以上 55km未満 | 28,000円 | |
35km 以上 45km未満 | 24,400円 | |
25km 以上 35km未満 | 18,700円 | |
15km 以上 25km未満 | 12,900円 | |
10km 以上 15km未満 | 7,100円 | |
2km 以上 10km未満 | 4,200円 | |
2km 未満 | 支給額すべてが課税 | |
③ 交通機関を利用している人に支給する通勤用定期乗車券 | 1か月当たりの合理的な運賃等の額 (最高限度 150,000 円) |
|
④ 交通機関又は有料道路を利用するほか、交通用具も使用している人に支給する通勤手当や通勤用定期乗車券 | 1か月当たりの合理的な運賃等の額と②の金額との合計額 (最高限度 150,000 円) |
法人の特定期間(特殊なケース)
法人における特定期間の特殊なケースとしては
- 設立初年度の事業年度が8か月以上の場合
- 設立初年度の事業年度が8か月未満、かつ、月の途中で設立している場合
- 設立初年度の事業年度が7か月以下の場合
このようなケースがあげられます。月数の差が1か月程度の違いでも取り扱いが大きく異なる場合もあるため、間違えないように注意が必要です。
※ここより下記の事例では法人の決算月を3月31日としています。
①法人の特定期間(設立1期目が8カ月以上の場合)
法人の設立1期目において、事業年度が8カ月以上である場合は、設立日から6カ月間を特定期間とします。
②法人の特定期間(設立1期目が8カ月未満かつ、月の途中に設立している場合)
法人の設立1期目において、事業年度が8カ月未満かつ、月の途中で設立している場合は、設立日から6カ月後ではなく、その前月の末日が特定期間となります。図の例ですと、8/15に設立しているので、その6か月後は2/14です。そして2/14の前月の末日は1/31ですので、特定期間は8/15から1/31となります。
③法人の特定期間(設立1期目が7カ月以下の場合)
法人の設立1期目において、事業年度が7カ月以下である場合は、設立日から事業年度終了日まで6カ月間の期間がありますが、特定期間はないものとされます。
これは「短期事業年度」という制度によるもので、次のいずれかに該当する場合は前事業年度における特定期間はないものとされます。
- 前事業年度が7カ月以下である場合
- 前事業年度が7カ月超、8カ月未満の場合であって、前事業年度開始の日以後6カ月の期間の末日の翌日から前事業年度終了の日までの期間が2カ月未満の場合
ただし、特定期間がなく消費税の納税義務がないとされる場合であっても、事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額が1,000万円以上である場合は、消費税の課税事業者となるため、注意が必要です。
また、上記の事例以外にも、新たに設立した法人で、事業年度の途中で決算期変更をおこなった法人などについては、その法人の「設立日」や、「決算期変更の時期がいつであるか」などにより、特定期間の取扱いが異なる場合があります。詳しくは下記を参考にしてください。
事業者免税点の判定について ~ 新たに設立した法人等の特定期間 ~
個人事業主の特定期間(特殊なケース)
個人事業主の特定期間における特殊なケースとしては、
- 前年の3月1日に開業した場合(原則的な特定期間の途中で開業した場合)
- 前年の7月1日に開業した場合(原則的な特定期間を過ぎて開業した場合)
このようなケースがあげられます。個人事業主も法人と同様で、月数の差が1か月程度の違いでも取り扱いが大きく異なる場合もあるため、間違えないように注意が必要です。
①個人事業主の特定期間(前年の3月1日に開業した場合)
前年の3月31日に開業した場合については、3月1日から6月30日までの期間を特定期間とします。
②個人事業主の特定期間(前年の7月1日に開業した場合)
前年の7月1日に開業した場合については、原則である1月1日から6月30日までの期間が存在しないため、特定期間はないこととされます。
消費税の基準期間とは
消費税の基準期間は特定期間よりも、さらに1年前における一定期間のことをいいます。
基準期間における課税売上高が1,000万円を超えると、消費税の納税義務が生じます。
そのため、特定期間と基準期間については、対象となる期間が大きく異なります。どちらも「〇〇期間」という似ている名称であるため、「どちらがどの期間なのか」と混乱しないように違いをしっかりと抑えておきましょう。
法人の基準期間
法人における原則的な基準期間は下図のとおりです。
個人事業主の基準期間
個人における原則的な基準期間は下図のとおりです。
法人の基準期間(基準期間が1年未満の場合)
法人における基準期間が1年未満である場合、その基準期間における課税売上高の計算は、その基準期間の課税売上高を12か月相当の金額に換算しておこないます。
ここでは、下記の条件における法人について、基準期間の課税売上高の計算がどのようにおこなわれるのかをみていきましょう。
<条件>
区分:法人
設立日:平成30年9月1日 決算日:3月31日
資本金:500万円
設立初年度:平成30年9月1日~平成31年3月31日
設立初年度における課税売上高:700万円
当年度:平成31年4月1日~令和2年3月31日
課税売上高 | 700万円 |
---|---|
判定基礎となる換算後課税売上高 | 1,200万円 (700万円 ÷ 7か月 × 12か月) |
当年度における消費税の納税義務の判定 | 課税事業者 (判定基礎の課税売上高が1,000万円を超えるため) |
個人事業主の基準期間(基準期間が1年未満の場合)
個人事業主における基準期間が1年未満である場合、その基準期間における課税売上高の計算は、その基準期間の課税売上高がそのまま判定基準となります。そのため、基準期間が1年未満である場合においても、その基準期間の課税売上高が1,000万円以下であれば消費税の納税義務は発生しません。
<条件>
区分:個人事業主
開業日:平成30年9月1日
決算月:12月31日
開業初年度:平成30年9月1日~平成30年12月31日
開業初年度における課税売上高:900万円
当年:令和2年1月1日~令和2年12月31日
課税売上高 | 900万円 |
---|---|
判定基礎となる課税売上高 | 900万円 |
当年における消費税の納税義務の判定 | 免税事業者 (判定基礎の課税売上高が1,000万円以下であるため) |
消費税の納税義務の判定方法とは
消費税の納税義務の判定方法については、上記の「特定期間」「基準期間」のちがいを正しく理解したうえで、
- 設立時の資本金の金額
- 消費税に関する届出書の提出の有無
などによっても判定しなければなりません。
判定項目が多いため、
「どの項目で消費税の納税義務について判定しなければならないのかわからない」
と混乱してしまう人も多いかと思います。
そこで、まずは上記の特定期間や基準期間の判定を含めた、基本的な判定項目を1つ1つ確認していくことで、混乱せずに判定していくことができます。
具体的には、
- 消費税の納税義務の判定項目① 基準期間における判定
- 消費税の納税義務の判定項目② 消費税に関する届出書における判定
- 消費税の納税義務の判定項目③ 特定期間における判定
- 消費税の納税義務の判定項目④ 法人設立時における資本金などの金額による判定
これらの項目に区分して確認していくことをおすすめします。
また、上記以外にも、「新規開業事業者」や「新規設立法人」の場合は、
- 相続
- 合併および分割
などの状況によって別の判定項目があるため、注意が必要です。
消費税の納税義務の判定項目① 基準期間における判定
まずは、当課税期間の基準期間において、「課税売上高が1,000万円を超えているのか」ということを確認しましょう。
基準期間については、上記で解説したとおり、事業者によっては12か月に満たない場合も想定されます。
そのため、開業日などを踏まえたうえで、
- 基準期間があるのか
- 基準期間は何か月なのか
- 基準期間の課税売上高はいくらなのか
- 基準期間の課税売上高を12か月に換算する必要があるのか(法人のみ)
といった流れで確認していくとよいでしょう。
消費税の納税義務の判定項目② 消費税に関する届出書における判定
消費税に関する届出書の1つである「消費税課税事業者選択届出書」を提出していないか確認しましょう。
この届出書は、消費税の納税義務の有無にかかわらず、消費税の課税事業者を選択するというものです。
そのため、
「 この届出書を提出している = 消費税の課税事業者 」
ということになります。
消費税の納税義務の判定項目③ 特定期間における判定
特定期間における判定においては、
- 特定期間の課税売上高が1,000万円を超えているのか
- 特定期間の給与等の支払額が1,000万円を超えているのか
ということを確認していく必要があります。
特定期間においては、
「課税売上高は、1,000万円を超えているが、給与等は1,000万円を超えていない」
「給与等は1,000万円を超えているが、課税売上高は1,000万円を超えていない」
といったように、片方の条件に該当している場合でも、もう片方の条件に該当していなければ、消費税の納税義務はありません。
しかし、上記で解説したとおり、事業者によっては特定期間の判定が特殊な事例に該当する場合もあります。
そのため、設立日などを踏まえたうえで、
- 特定期間があるのか
- 特定期間は何か月なのか
- 特定期間の課税売上高はいくらなのか
- 特定期間の給与等支払額はいくらなのか
といった流れで確認していくとよいでしょう。
消費税の納税義務の判定項目④ 法人設立時における資本金等の金額による判定
その事業年度の基準期間がない法人であっても、当該事業年度開始の日時点の資本金、または、出資金の金額が1,000万円以上である法人については、無条件で消費税の納税義務が発生します。
これは「新設法人の特例」と呼ばれる制度によるものであり、そのため、法人を設立する際には、資本金等の金額にも注意しておく必要があります。
消費税の納税義務の判定フローチャート
上記の消費税の納税義務の判定項目①~④の流れをまとめると次のようになります。
設立初年度で活用できる消費税の節税対策はある?
法人を設立する場合、設立1期目の事業年度を7か月以下にすることで、設立1期目と2期目における消費税の納税義務は免除されます。(資本金等が1,000万円未満の場合)
これは「短期事業年度」という特例制度によって得られる効果であり、短期事業年度に該当することで、特定期間における課税売上高の判定が不要になるためです。
短期事業年度とは次の①と②のいずれかに該当する前事業年度のことをいいます。
- 前事業年度が7か月以下である場合
- 前事業年度が7か月を超え、8か月未満の場合で、前事業年度開始の日以後6か月の期間の末日の翌日から前事業年度終了の日までの期間が2か月未満の場合
そのため、法人設立から半年間で課税売上高および、給与等支給額が1,000万円を超えると見込まれる場合は、設立初年度の事業年度を7か月以下にすることで、2期目においても消費税の免税事業者となります。(前事業年度が7か月以下であれば特定期間が存在しないため)
また、設立初年度の期中で事業年度を変更することで、短期事業年度の特例を活用できます。そうすることで、設立初年度から2期目までは免税事業者となり、消費税の納税負担を減少させることができます。しかし、事業年度を変更する際は手続きが複雑となってしまうため、事業年度を変更する際には一度、税理士に相談するようにしましょう。
事業年度の途中で決算期の変更をおこなった場合における、短期事業年度の判定などについては下記を参考にしてください。
まとめ
消費税の納税義務の判定は、「基準期間」や「特定期間」といった期間が、どの期間を指すのかを正しく理解しておかなければなりません。しかし、消費税についての知識が少ない事業者がこれらの判断をおこなうことは、非常にリスクが高いといえます。
誤った判断のまま事業をおこなっていると、
「無申告加算税などの思いがけないペナルティが課せられる」
という可能性があることだけではなく、
「本来であれば納める必要がなかった消費税を納めている」
という可能性があることも考えられます。
そうならないためにも、法人設立の際や進行年度における消費税の納税義務の判定は、慎重におこなっていかなければなりません。消費税の納税義務の判定方法は、特定期間や基準期間といった判定項目が多く、より専門的な知識を必要とするため、少しでも疑問がある人や自分の判断に不安がある人は、「法人設立手続き」や「開業手続き」に詳しい税理士に相談しましょう。