税金・税務

繰越欠損金って説明できる?節税効果や要件、控除限度額もわかりやすく解説!

繰越欠損金って説明できる?節税効果や要件、控除限度額もわかりやすく解説!

経営者であれば節税対策について考えることは多く、繰越欠損金という言葉も、一度は聞いたことがある、という人も多いのではないでしょうか。実際、繰越欠損金の控除により助けられている企業も多いです。とはいえ、まだ対策として行ったことがない経営者にとっては一体どのような制度なのか、注意点なども分からない場合もあるでしょう。

そこで今回はこの記事で、繰越欠損金について理解を深めるために、制度の概要をはじめ、繰越期限、控除限度額などの適用条件、活用する際の注意点などについて解説します。活用するにあたっては税理士や専門家の力を借りるにしても、繰越欠損金についての基礎的な知識を押さえておきましょう。

繰越欠損金とは?

そもそも「欠損金」とは、法人税の所得計算において、会社の益金から損金を差し引いた所得がマイナスの状態、つまり「赤字」を意味します。ただ、法人税法において、青色申告の承認を受けている場合に、一定期間は欠損金を翌事業年度に繰り越すことができます。

さらに、欠損金は将来の一定期間の間に生じた課税所得(黒字)と、確定申告において相殺できることが認められています。このように、法人税法の規定に基づいて、繰越をしている過去の赤字により生じた欠損金のことを「繰越欠損金」といいます。

繰越欠損金を活用するメリットとは

繰越欠損金を活用するメリットは、一定期間において赤字の金額を繰り越し、将来出た黒字の金額(課税所得)と相殺できることにあります。つまり、将来の黒字を現在の赤字で相殺できるということです。

<例>

  • 平成28年度 ▲300万円
  • 平成29年度  500万円

例えば上記のように、平成28年度が300万円の赤字だったとします。この場合、28年度の課税所得は0円となり、赤字の300万円は繰越欠損金として翌事業年度に繰り越します。

その後、平成29年度は500万円の黒字(課税所得)になったとします。本来であれば500万円に対し法人税が発生しますが、平成28年度の赤字と相殺できるので、課税所得は「500-300=200万円」となります。平成29年度の法人税は、赤字分と相殺して残った200万円に対して算出されます。

このように、繰越欠損金と相殺することにより課税所得の額を減らすことができ、本来であれば納めるべきだった法人税よりも節税することが可能です。

繰越欠損金は上場企業等における「税効果会計の対象」のひとつ

上場会社や会計監査人を設置する大企業等では、「税効果会計」を行う必要があります。税効果会計は、会計上の利益と税務上の課税所得から計算される法人税額とを正しく対応させるために行われる会計です。繰越欠損金も、会計上税効果会計の対象となります。

繰越欠損金は一定期間を過ぎると効果を失うため、繰越欠損金の税効果会計により、将来の税金を減らす効果を、正しく会計上に反映させる必要があります。そこで「回収可能性の適用指針」に従い、過去の課税所得などから「回収可能性」を見積もり、繰越欠損金の税効果を計上します。回収可能性の見積もりの結果、業績が不安定な場合だと税効果会計の計上額に制限が加わることもあります。

なお、税効果会計は非常に専門的な分野であり、慎重な判断も必要です。適切な処理を行うためには、詳しくは税理士に相談するのが望ましいでしょう。

繰越欠損金の適用要件とは

繰越欠損金は、青色申告の法人にだけ認められています。したがって、繰越欠損金を活用するには、青色申告の承認申請書を税務署へ申請しておく必要があります。基本的に申請はどの法人でも認められており、これから事業を始める場合は会社設立後、あらかじめ申請をしておきましょう。

また、欠損金が生じた事業年度以降も連続して確定申告書の提出が必要です。ただし、青色申告書である確定申告書の提出ができていれば、その後の事業年度で提出した確定申告書が白色申告書でも適用を受けることができます。その他、帳簿書類等を適切に保存していることも適用要件のひとつとなっています。

<繰越欠損金の適用要件(すべて満たすこと)>

  • 青色申告の承認申請書を提出している法人であること
  • その後の事業年度でも連続して確定申告書を提出(白色申告書でも可)している法人であること
  • 帳簿書類等を適切に保存している法人であること
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繰越欠損金を繰り越せる期間

繰越欠損金は、適用期間と額に上限があります。無限に繰り越せるわけではないので、ポイントを押さえておきましょう。

繰越欠損金を繰り越せる期間は、欠損金が発生した事業年度によって異なります。現在のところ、平成20年度~29年度は9年間(平成30年度以後に生じた繰越欠損金については10年間)です。

事業年度 欠損金の繰越期間
平成13年4月1日以前 5年
平成13年度~19年度 (平成13年4月1日以降~平成20年3月31日以前) 7年
平成20年度~29年度 (平成20年4月1日~平成30年3月31日以前) 9年
平成30年度以後(平成30年4月1日以後) 10年

なお、複数の事業年度で繰越欠損金が生じた場合は、最も古い事業年度において生じた欠損金から順次損金に算入します。ただし、欠損金は累積できるため、1年に1事業分しか損金算入できないということではありません。

<例>

  • 平成26年度 ▲300万円
  • 平成27年度 ▲100万円
  • 平成28年度 ▲300万円
  • 平成29年度  800万円

例えば上記のようにケースだと、平成29年度は黒字でも、以前の繰越欠損金が合計700万円あるので、「800万円―700万円=100万円」が法人税の発生する課税所得になります。

<例2>

  • 平成19年度 ▲100万円
  • 平成20年度 ▲100万円
  • 平成21年度 ▲100万円
  • 平成22年度 ▲100万円
  • 平成23年度 ▲100万円
  • 平成24年度 ▲100万円
  • 平成25年度 ▲100万円
  • 平成26年度 ▲100万円
  • 平成27年度 ▲100万円
  • 平成28年度 ▲100万円
  • 平成29年度 1,000万円

上記のような場合だと、平成29年度は1,000万円の黒字(課税所得)が発生しますが、平成20年度から28年度の9年分に900万円の赤字(欠損金)を繰り越しているため、課税所得は「1,000-900=100万円」となります。また、平成19年度の赤字は、9年を経過しているので相殺することはできません。

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繰越欠損金を損金算入できる限度額

繰越欠損金を損金算入できる限度額は、会社の規模によって異なります。基本的に中小企業であれば、全額を繰り越すことができます。

一方、大企業の場合は、該当する事業年度の所得金額に、一定の割合をかけた金額が控除限度額として設定されています。下記の表の通り、年々繰り越せる欠損金の控除限度額が減少傾向にあります。なお、この場合の中小企業とは100%子法人を除く、資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下である法人とされています。

繰越欠損金の期間や限度額については、改正が頻繁に行われているため、活用する際は事前に最新の割合を確認しましょう。

大企業(資本金1億円超)の控除限度 中小企業(資本金1億円以下)の控除限度額
~平成27年3月31日 80% 100%
~平成29年3月31日 65% 100%
~平成30年3月31日 60% 100%
平成30年4月1日~ 50% 100%

繰越欠損金は別表に記載が必要

繰越欠損金による控除を行う場合は、確定申告の際に繰越欠損金に関する事項について別表7(一)と別表1(一)を用意する必要があります。別表7(一)には欠損金に関する事項について、当期に発生した欠損金額や繰越欠損金等の詳細を記載します。

別表1(一)には、欠損金の当期控除額や翌事業年度への繰越欠損金額を記載します。課税額は別表に記載する欠損金額に基づき決定されるため、正確な記載を行う必要があります。

繰越欠損金の注意点とは

繰越欠損金の制度は、特に大企業において繰り越しの限度額が縮小傾向にあり、厳しくなっているのが実情です。中小企業にとっては、短期的な資金繰り対策として効果的ですが、今後も改正が行われ、制度が複雑化する可能性は高いでしょう。

現在は中小企業にとって非常に有利な節税対策のひとつとなっていますが、今後の改正によっては不利な面も出てくるかもしれません。繰越欠損金だけに節税対策を頼るのは避けたほうが無難と考えられます。顧問税理士等と相談しながら適切な範囲で節税を行うのがよいでしょう。

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まとめ

繰越欠損金は、翌年度以降に繰り越す赤字の金額のことです。繰り越した欠損金は一定期間のうちに生じた黒字と相殺することができ、将来支払うべき税金を節税することが可能です。多額の赤字が出た場合や、黒字と赤字を行ったり来たりする会社にとっては、活用したい制度のひとつでしょう。

ただし、欠損金を繰り越すには青色申告をしていることなどが条件です。欠損金が発生した事業年度に応じて繰り越しができる期間も異なるので注意が必要です。

また、欠損金を全額控除できる中小企業にとっては非常に効果的な節税対策となりますが、大企業の場合は欠損金の控除額にも限度があることも留意しましょう。さらに、繰越欠損金制度は税制改正が頻繁で複雑化する傾向にあるため、中小企業にとっても繰越欠損金に頼りきりになるのも考え物です。顧問税理士等とも相談しながら、適切な範囲で繰越欠損金の制度を活用していきましょう。

企業の教科書
記事の監修者 宮崎 慎也
税理士法人 きわみ事務所 代表税理士

税理士法人きわみ事務所の代表税理士。
会社の立ち上げ・経営に強い「ビジネスドクター」として、業種問わず税理士事業を展開。ITベンチャーをV字回復させた実績があり、現場を踏まえた的確なアドバイスが強み。会社経営の問題を洞察したうえで、未来を拓くための手法を提案することをモットーにしている。

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