2021年(令和3年)11月末までを予定していた「雇用調整助成金コロナ特例措置」でしたが、2022年3月末までの延長を決定したと厚生労働省がアナウンスしました。コロナ禍で経営にダメージを受けた中小企業・個人事業主は、従業員への休業手当に関して引き続き助成金を受け取れます。
当記事では制度の概要・条件や支給額の計算、コロナ禍におけるその他の資金繰り支援について解説します。
※当記事の情報は2021年11月時点での情報です。
雇用調整助成金コロナ特例措置とは?
「雇用調整助成金コロナ特例措置」とは、新型コロナウイルス感染症の影響で事業活動の縮小する際、従業員を辞めさないようにやむなく「雇用調整」を行ったすべての業種の事業主へ支給される助成金です。
具体的には従業員に休業やそれに類することを行わせたときに、休業手当の額をもとに助成金を受け取れます。コロナ禍で売上や生産量が落ちてなお従業員を守る事業主に対して、国が事業継続のためのお金を補助してくれる制度なのです。
コロナ特例措置は通常の「雇用調整助成金」よりも、助成率(助成対象の経費のうち交付される割合)と1日あたりの支給上限額が引き上げられています。支給条件も売上が3ヶ月10%以上減少から、1ヶ月5%以上減少という緩めの条件に変更されました。
助成金は融資制度とは違い返済が必要ありません。コロナ禍の影響を強く受けた事業主にとって心強い制度といえます。
雇用調整助成金コロナ特例措置の支給を受けるには?
雇用調整助成金コロナ特例措置の支給を受けるための、基本的な条件は次のとおりです。
- 新型コロナウイルス感染症の影響で事業規模の縮小を余儀なくされた
- 新型コロナウイルスの影響で生活指標(売上高や生産量など)が前年と同じ月から5%以上減少している(※)
- 労使協定にしたがって従業員を休業させたり出向させたりして休業手当を支払っている
※前年度と比較が難しいときは「前々年度との同じ月との比較」や「前年と同じ月の1ヶ月前」との比較などの特例措置あり
助成対象になる労働者は雇用保険被保険者です。アルバイトやパートなど雇用保険に入っていない労働者は、緊急雇用安定助成金の対象になります(ほぼ同じ制度)。
もし事前に労使協定を結ぶのが難しいときは、代わりに労働組合などとの確約書等で対応できます。大勢が集まって話し合う機会がないときは検討してみてください。
対象となる新型コロナウイルスの影響について
新型コロナウイルス感染症の影響とは具体的にどのようなものか、厚生労働省が以下を例として挙げています。
- 観光客のキャンセルが相次ぎ、客数が減って売上も減少した
- 市民活動が自粛されたことで客数が減って売上も減少した
- 行政からの営業自粛要請を受けて休業したことで客数が減って売上が減少した
上記のような「新型コロナウイルスによって経営活動が悪化した事業主」がコロナ特例措置を利用できます。
たとえば売上が落ちても、コロナと関係ない事由と判断されたときは助成金を受け取れません。
どのような休業が対象になるのか
今回の特別措置における助成対象になる休業とは、以下6つのすべてに当てはまるものです。
- 労使協定によって実施されるもの
- 事業主があらかじめ労使協定で決めた対象期間に行うもの
- 判定基礎期間中に休業を実施した日が所定労働日数の合計の1/40(大企業は1/30)以上であるもの
- 休業中の休業手当が平均賃金(※)の60%以上であるもの
- 所定労働日の所定労働時間内において休業を行ったもの
- 所定労働日の丸1日または1時間以上の短時間休業であるもの
※判定基礎期間の初日以前から3ヵ月に労働者に支払われた賃金の総額を総日数で除した金額
たとえば、いくら良心的に休業計画を立てたとしても、労使協定の内容とは違う実施になると助成金の対象外になります。
また休業手当の金額は60%以上となっていますが、「従業員が安心して休めるよう60%を超えて(たとえば100%)支給してほしい」と厚生労働省の見解があります。
後述しますが、100%支払っても条件さえ合致すれば、その分だけ多くの金額が助成されます。従業員との信頼関係や従業員の生活を守る意味でも、できる限り多めの休業手当を出すことも検討してみてください(とはいえ一旦は建て替えて支払うことになるのでキャッシュフローにもよります)。
対象期間・判定基礎期間・支給限度日数について
対象期間は、助成金を受け取ろうとする事業主が決めます。期間は1年間です。
対象期間内での実績を元にして助成される金額が決まります。実績の判定を行う基準になる期間は「判定基礎期間」と言います。期間は原則として、従業員の賃金締日の翌日から次の締日までの1ヵ月です(特定の締日がない場合は暦月)。
助成金の申請は判定基礎期間である1ヵ月ごとに実施しなければなりません。なおこの基準日の初日が2021年の5月1日以後かそうでないかで、助成率が変わります。
支払限度日数は1年間で100日分、3年間で150日分です。
ただし2020年4月1日から2021年11月30日の休業は、支給限度日数とは別に支給があります。たとえば1年の上限100日+2021年8月に実施した休業30日を合計して130日分を受け取れます。
当助成金を受けられない事業主
以下の条件に当てはまる事業主は、当助成金を受けられません。
- 事業主が暴力団・暴力団員、またはその関係者である
- 事業主または事業主の役員などが破壊活動防止法第4条に該当する行為を行うまたは実施する団体に所属している
- 倒産している
- 雇用関係助成金の不正受給が原因で支給決定をなしになったとき、労働局が事業主名などを公表することを承諾していない
上記の条件に当てはまる事業主はあまりいないと思われますが、助成金を受け取る前に倒産してしまうことは考えられます。
もし助成金が支払われる前に事業の体力が持たないという場合は、新型コロナウイルス特別貸付や月次支援金など、別の融資制度や助成金・補助金の利用も視野に入れましょう。
雇用調整助成金コロナ特例措置だとどれくらい貰える?計算方法について
当助成金がいくらになるかは、企業規模や生産指標の減少幅などによって変わります。企業規模の判別基準は次のとおりです。
企業規模 | 判別基準 |
小規模事業者 |
|
中小企業 |
|
大企業 | 中小企業に該当しないすべての企業 |
雇用調整助成金コロナ特例措置における助成金支給額の計算
1日あたりの支給額は、事業主が支払った休業手当(雇用主の責任でまだ働ける人を休ませるときに支払う手当)を元にした金額に、助成率を乗じて計算します。後は実際に支払った日数を乗じて総額が算出します。
雇用調整助成金コロナ特例措置支給額=(休業手当相当額×助成率)×支払った日数
コロナ特例措置下における1日あたりの支給額の上限は13,500円です。判定基礎期間の最初の日が2021年4月30日以前、または事業主が業況特例・地域特例に該当するときは15,000円になります
上限金額は企業規模に関係なく一律です。
企業規模・状況別の助成率一覧
コロナ特例措置下における助成率は、中小企業・大企業によって異なります。それぞれの数値は次のとおりです。
()内は判定基礎期間の最初の日がいつになるかを表しています。2021年の5月以降か、4月30日以前で助成率が変わります。
企業規模 | 助成率(5月以降) | 助成率(4月30日以前) |
中小企業 | 4/5 | 4/5 |
大企業 | 2/3 | 2/3 |
もし事業主が解雇等を行わず雇用を維持している場合は、助成率の割合が上がります。
企業規模 | 助成率(5月以降) | 助成率(4月30日以前) |
中小企業 | 9/10 | 10/10 |
大企業 | 3/4 | 3/4 |
解雇等を行わず雇用を維持するとは、特定の条件に当てはまることなく「正社員・契約社員などと派遣社員の合計が、判定基準期間の末日までに、月末の事業所労働者数における平均数の4/5以上であること」です。
特定の条件とは次のとおりです。
直接雇用している定めのない労働契約を締結する労働者を事業主都合で解雇した、または解雇とみなされる雇い止め・中途契約解除とした
派遣労働者の契約期間満了まで事業主都合で契約を解除した
つまり雇っている人の事業主からクビを宣告せず、4/5以上の従業員の雇用を確保し続けると助成率が上がります。
さらに事業主が「生産指標が最近3ヵ月平均で前年または前々年同期より30%以上減少(業況特例)」または「緊急事態宣言またはまん延防止等充填措置の対象区域で時短等の要請に協力(地域特例)」に当てはまるときは、以下の助成率が適用されます。
企業規模 | 助成率(5月以降) | 助成率(4月30日以前) |
中小企業 |
|
業況特例・地域特例による変更はなし(4/5もしくは10/10になる) |
大企業 |
|
|
算出方法は以下2つのいずれかです。
- 「前年1年間の雇用保険料算定の基礎になる賃金総額」に、「前年度1年間の1ヵ月平均の雇用保険被保険者数および年間所定労働日数」で割った額に「休業手当の支払率(※)」を乗じた額
- 所得税徴収高計算書(源泉所得税の納付書)に書いてある賃金額と人数をもとに計算した額
※算出した平均賃金の従業員へ支払った割合で60%以上が必要
やや複雑な計算式なので、以下では1について簡単な計算式で例をみていきます(2021年5月以降)。金額や率は仮定の数値です。
<1.1人あたりの休業手当相当額を計算>
前年度の賃金総額1億円÷前年1年間の平均従業員数25名÷年間所定労働日数160日(※)=25,000円
上限日数100日+緊急対応期間中60日と仮定
<2.助成率80%(4/5)と休業手当の支払率60%をかけて1日あたりの助成金額を計算>
1人あたりの休業手当相当額25,000円×80%×60%=12,000円
<3.1日あたりの支給額の上限確認>
上限の13,500円より低い金額であるため、1日あたり12,000円がそのまま支給される。
<4.助成金の計算>
1日あたりの助成金額12,000円×従業員数25人×年間所定労働日数160日=4,800万円
なお従業員数が20人以下の小規模事業者は、特例として休業手当相当額が「実際に支払った休業手当の総額」になります。
たとえば従業員15人に1日あたり10,000円を支給したときは、「15万円×所定労働日数×助成率×休業手当の支払率」が助成金支給額になります。
休業ではなく出向させた場合
もし休業ではなく従業員を出向させて雇用調整を行ったときも、雇用調整助成金の対象になります。
この場合の出向とは、事業の縮小によって人員に余りが出たとき、浮いた人材に新型コロナウイルスの影響で人手不足となった業界・団体での業務へ就いてもらうことです。出向終了後は、元の事業主のところに戻って働く予定があることが前提になります。
出向元が出向労働者の賃金の一部を負担するとき、以下のいずれかの低い額に助成率を乗じて助成金が支払われます。
- 出向元の出向労働者の賃金に対する負担額
- 出向前の通常賃金の1/2の金額
普段の雇用調整助成金の出向期間要件は3ヵ月以上1年以内ですが、緊急対応期間中に出向を始めたときは1ヵ月以上1年以内に拡充されました。
教育訓練を実施した場合
もし休業ではなく教育訓練の実施で雇用調整をした場合も、コロナ特例措置が適用されています。
教育訓練とは、職業に関する知識や技能、技術の習得・向上を目的に実施するものです。コロナ特例措置での範囲拡大として、以下の内容も助成金の対象になります。
- 自宅・サテライトオフィスで行う訓練
- マナー研修やハラスメント研修など職業人の基礎能力を養成する訓練
- 繰り返しの教育訓練が必要なもので過去に行った教育訓練を同じ労働者に実施する場合
- 事業主の下で行う通常の教育カリキュラムで通常と違う形態で実施する場合
- 自社職員の指導員による訓練
教育訓練を実施した日に関しては、以下の加算額・助成率が適用されます。
コロナ特例措置中 | 特例以外 | |
加算額 |
|
1,200円 |
助成率 |
|
|
助成率(業況特例、地域特例) |
|
なし |
※解雇等を行わなかった場合の助成率は()内
雇用調整助成金コロナ特例措置を支給されるまでの流れ
コロナ特例措置の場合は、通常の雇用調整助成金と違い計画届の提出が必要ありません。
支給までのおおまかな流れは次のとおりです。
支給までの流れ | 概要 |
休業等計画・労使協定 | 休業や出向などについて具体的に検討し、労使協定を締結 |
休業等の実施 | 計画に基づいて休業や出向などを実施 |
支給申請 | 実績に基づき、支給対象期間ごとに申請 |
労働局の審査 | 申請内容の審査 |
支給決定 | 支給決定額の振込 |
必要書類は厚生労働省の「雇用調整助成金のダウンロード」ページにて質問に答えることで、必要な分だけダウンロードできます。
特例でない通常の雇用調整助成金はどんな制度?
通常の雇用調整助成金とは、経済上の理由により事業活動の縮小した事業主が一時的に雇用調整したときに支給される助成金です。
概要は次のとおりです。
- 生産指標がその最近の3ヵ月の月平均が前年同期比べて10%以上減少が条件
- 雇用被保険者のみが対象(6ヵ月以上)
- 助成率が中小企業2/3、大企業1/2
- 日額上限額8,265円
- 支払限度日数は1年100日、3年150日
- 休業規模要件が中小企業1/20、大企業1/15 など
詳細は厚生労働省の「雇用調整助成金」のページにて確認できます。
通常のものはコロナ禍でなくても利用できるため、アフターコロナ以降の経営で必要になったときのために、覚えておくことをおすすめします。
【中小企業・小規模事業者】コロナ関係で使える資金繰<り・支援
雇用調整助成金以外にも、新型コロナウイルスの影響を受けた事業主向けの資金繰り・支援が利用できるかもしれません。当記事ではコロナ関係で使える、以下3つの融資制度・補助金制度を解説します。
- 新型コロナウイルス特別貸付
- 月次支援金
- 事業再構築補助金
なお上記以外にもさまざまな既存の支援制度や、今後設立されるであろう給付制度があります。今回は需要が高いであろう3つに絞って解説します。
新型コロナウイルス感染症特別貸付
新型コロナウイルス感染症特別貸付とは、新型コロナウイルスが原因で経営が悪化しているものの、中長期的に回復が見込める事業主を支援する融資制度です。
特別利子補給制度との併用で、実質的な無利子での貸付を受けられます。日本政策金融公庫または商工組合中央金庫のものがあります。
月次支援金
月次支援金とは、中小企業や個人事業主を対象にした緊急事態措置・まん延防止等重点措置の緩和を目的する支援金です。
「2019年または2020年の基準月の売上分-2021年の対象月の売上分」の金額が支給されます。中小企業は上限20万円、個人事業主は上限10万円です。ただし売上が比較月より50%以上減少していることが条件です。
事業再構築補助金
事業再構築補助金とは、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた中小企業・個人事業主などを対象に、事業の再構築を支援するために支給される補助金です。
売上の減少に加え、新分野展開や業態転換、事業・業種転換などの実施、認定経営革新等支援機関との事業計画策定など「新しい何かを始めること」が条件になります。100万円~1億円までの間で、返済不要の補助金が受け取れます。
公的機関の資金繰り支援を活用しよう!
2022年3月末まで延長された雇用調整助成金コロナ特例措置は、従業員の雇用を守るための助成金です。大切な従業員を解雇しなくて済むよう、申請できる事業主は忘れずに申し込みましょう。また当助成金以外のさまざまな資金繰り支援も最大限活用してください。
2021年11月には、中小企業向けに最大250万円を支給する新たな給付金が発表されました。年間売上5億円以上の事業主には250万円、1億円未満の事業主には100万円、個人事業主には50万円とする方針です(2021年11月時点での情報)。
もし雇用調整助成金コロナ特例措置やその他の資金繰り支援を効率的に活用したいときは、資金繰りに強い税理士や社会保険労務士、最寄りの商工会議所などに相談しましょう。申請のやり方やアフターコロナ後の経営計画についてもアドバイスを受けられるはずです。