日本人にもなじみが深い株式や債券などの投資に代わる、オルタナティブ投資(代替投資)に注目が集まっています。オルタナティブ投資であれば、株式市場や債券相場に左右されにくい、新しい投資先が見つかるかもしれません。
当記事ではオルタナティブ投資の概要や種類、メリット・デメリットなどを解説します。
オルタナティブ投資(代替投資)とは?
オルタナティブ投資(代替投資)とは、上場株式や債券などのいわゆる伝統的な投資対象ではない、新しい投資対象および投資手法のことです。
「オルタナティブ(alternative)」は英語で、他の・代わりの・代替を表すことから、オルタナティブ投資は従来なかった資産に代替することを意味します。
投資先には金融商品に加え、モノや仮想の通貨、事業そのものなどが挙げられます。
オルタナティブ投資が注目される背景|機関投資家・富裕層も利用
オルタナティブ投資が注目される背景として、2000年代に発生した金融危機が挙げられます。
リーマンショックやITバブル崩壊などによって株式市場・企業業績が低迷した際、株式や債券の価格にも大きな影響が出ました。いくら複数の銘柄や地域に分散投資したとしても、株式や債券のみの保有だと、市場全体に影響する大きなリスクには対応しきれません。
そこで独自の相場を持つオルタナティブ投資をポートフォリオに組み込むことで、株式相場に左右されにくい分散投資が可能です。世界的な金融危機や日本の低金利環境などにも、長期間安定した運用を期待できます。
実際に年金基金や金融機関、保険会社などの機関投資家や富裕層によるオルタナティブ投資が、年々活発になっています。
厚生年金・国民年金のを運用する、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の業務概況書(2021年度)によると、GPIFが実施するオルタナティブ投資の時価総額は、2022年3月末時点で2兆1,586億円に上りました。
全体の1.07%ではあるものの、2017年3月時点だと1,006億円だったと考えると、確実にオルタナティブ投資を増やしていることがわかります。
出典 年金積立金管理運用独立行政法人 2021年度事業概況書
2022年現在では投資の小口化や情報端末の発達によって、富裕層だけでなく一般の個人投資家もオルタナティブ投資にも手が出しやすくなりつつあります。
オルタナティブ投資の種類
オルタナティブ投資は株式や債券以外の投資であり、実に多くの種類が存在します。今回は、次の8種類のオルタナティブ投資について解説します。
- ヘッジファンド
- デリバティブ
- プライベート・エクイティファンド
- コモディティ(商品)
- クラウドファンディング
- 不動産・REIT
- 暗号資産(仮想通貨)
- NFT(Non-Fungible Token・非代替性トークン)
1.ヘッジファンド
ヘッジファンドとは、主に機関投資家や富裕層をターゲットにした、市場の上下に関係なくプラスの利益を狙うファンドです。ヘッジ(Hedge)は避けるという意味があり、「市場相場が下がったときでも資産の目減りを避けること」を表しています。
「投資家から資金を集めて専門家が運用する」という仕組みは、投資信託と同じです。両者を比較すると、次の違いがあります。
- 運用成果をベンチマークと比較する相対収益ではなく、相場に関係なく利益を追求する絶対収益での運用
- 株式・債券以外にも、先物取引や信用取引などのデリバティブも投資対象
- レバレッジあり
- 私募ファンドに分類
- 管理・運用は専門家が実施
投資信託より高いリターンを狙える反面、損失を被るリスクも高いのが特徴です。
2.デリバティブ
デリバティブとは、株式や債券、通貨、金利などの原資産から派生した金融商品です。金融派生商品とも呼びます。
デリバティブの取引形態は、主に将来の売買をあらかじめ決めておく「先物取引」、担保を入れ証券会社から資金を借りて運用する「信用取引」、金利を交換する「スワップ取引」、約上から資金受渡しまでが営業日3日以内で終了する「フォワード取引(先渡取引)」です。
高いリターンが得られる反面、レバレッジによって自身の保有資産以上の損害になる可能性があります。
3.プライベート・エクイティ(PE)
プライベート・エクイティ(Private Equity、PE)投資とは、いわゆる証券取引所に上場していない、未上場株(未公開株)への投資です。
投資先は、新規のベンチャー企業や大企業の子会社・非主流部門、その他さまざまな中小企業が中心です。投資することで投資先の企業を成長させ、上場させるなどで企業価値を上げてからリターンを狙います。
また、事業再生・組織構造見直しによるM&Aや再上場を狙うケースもあります。
プライベートエクイティ投資をするには、クラウドファンディングやプライベートバンク、ファンドを通じた投資などの方法が一般的です。富裕層向けの投資方法といえます。
4.コモディティ(商品)
コモディティ(Commodity、商品)投資とは、名前の通り株式や債券などの有価証券ではなく、具体的な「モノ」に投資する方法です。主に農作物、貴金属・美術品、インフラストラクチャーなどが挙げられます。
コモディティ投資は、主に先物取引にて行います。農業法人やインフラファンドへの投資でも可能です。コモディティを投資対象とした、ETF(上場投資信託)もあります。
以下では農作物、貴金属・美術品、インフラストラクチャー投資についてまとめました。
農作物
コモディティの農作物として挙げられるのは、主に次のとおりです。
- とうもろこし
- 大豆
- 小麦
- ゴム
- お米
- 畜産物
- 砂糖
農作物は、天候・気候などに左右されやすいという独自の値動きをする投資対象です。地域の金融機関にて、地元の農業関連の出資募集が出ている可能性もあります。
貴金属・美術品
金、銀、プラチナ、銅、アルミニウムなどの貴金属や、絵画、骨董品(アンティーク)、オブジェなどの美術品を、投資対象とする富裕層の方が増えてきました。
売却によるリターンを狙った投資もさることながら、展示による集客効果や美術品好きの方との交流、減価償却費による節税効果なども期待できます。ただし、贋作のリスクや保管コスト、値動きの大きさなどのデメリットには注意が必要です。
投資方法は、自分がオークションにて落札したり、アートファンドへ出資したりなどが考えられます。
インフラストラクチャー(インフラ)
インフラストラクチャー(インフラ)投資は、ガソリンや原油、天然ガス、灯油、太陽光などの天然資源およびエネルギー関係施設や、道路、鉄道、上下水道、発電所、港湾施設などのインフラ施設を投資対象としています。
投資先が社会基盤として機能していることから、インフレーションなどの景気動向に左右されないのが、インフラストラクチャー投資のメリットです。また、投資自体が国や地方のインフラ整備の促進につながるので、社会的なやりがいも感じられるでしょう。
5.クラウドファンディング
クラウドファンディングとは、企業や個人がネットを通じて不特定多数の投資家から資金を募る新しい投資の形です。プロジェクトの内容を見た投資家が、クラウドファンディングサイトを通じて投資するのが一般的な形となっています。
クラウドファンディングの種類は、主に「購入型」「寄付型」「投資型」の3つです。資産運用といった意味では、投資型のクラウドファンディングが他の金融商品の運用と似ています。
投資型で最近注目されているのは、企業や個人へお金を貸す形で投資し高利回りを狙う「融資型クラウドファンディング(貸付型クラウドファンディング、ソーシャルレンディング)」です。
ただし融資型クラウドファンディングは悪質な事業者も多いので、投資を検討する際は募集者の経歴や実績などをしっかりとチェックしておきましょう。
なお、募集者との人脈を形成するための投資という意味では、購入型や寄付型の利用も効果的です。
6.不動産・REIT
不動産投資は、マンションや一戸建てなどの物件を購入して第三者へ貸し出して家賃収入を得たり、売買して売却益を得たりといった不動産に関する投資活動のことです。
オルタナティブ投資の1つと言われるものの、不動産自体は古くから資産としてポピュラーではありました。
出典 一般社団法人 投資信託協会 そもそもJ-REITとは?
REITとは、いわゆる不動産の投資信託のことです。設立したファンドへ不特定多数の投資家が投資し、ファンド側は集めた資金で不動産を運用します。日本のREITは頭文字にJを付けて、J-REITと呼ばれます。
REITであれば少額から始められる上に、不動産の運用を専門家に任せられるのがメリットです。ただし他の投資信託と同様、運用・管理費がかかります。
不動産は株式相場とは別の賃貸市場、売買市場、金利環境、消費者の経済状況などにリスク・リターンが左右される投資先です。
7.暗号資産(仮想通貨)
暗号資産(仮想通貨)とは、インターネット上でやり取りできる財産的価値のことです。ビットコインやリップルなどの名前を、一度は聞いたことある方も多いのではないでしょうか。
資産決算に関する法律では、暗号資産について以下の定義がされています。
- 不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、法定通貨(日本円や米国ドル等)と相互に交換できる
- 電子的に記録され、移転できる
- 法定通貨または法定通貨建ての資産(プリペイドカード等)ではない
取引は原則として、暗号資産交換業者が運営する交換所や取引所で行われます。
暗号資産は、国家や中央銀行が発行した法定通貨ではありません。しかし、ブロックチェーンと呼ばれる技術によって、取引情報の改ざんやシステムダウンなどのリスクに対応できるようになっています。
出典 総務省|平成30年版 情報通信白書|ブロックチェーンの概要
暗号資産は裏付け資産を持っていないため、非常に価値変動が発生しやすいのが特徴です。
「億り人」といった言葉が流行るほど価値が上がったり、経済状況によっては一気に暴落したりなど、リスク・リターンが非常に高くなっています。1日で数十倍~数百倍になることも珍しくありません。
8.NFT(Non-Fungible Token・非代替性トークン)
NFT(Non-Fungible Token・非代替性トークン)とは、暗号資産と同じくブロックチェーン技術を用いた、固有の価値を持つデジタルデータのことです。2017年にイーサリアムブロックチェーン上で誕生した、「クリプトキティ(Cryptkitties)」がきっかけで普及しました。
簡単に言えば、改ざんやコピーを防げる特定のデジタルデータが、宝石や絵画のような資産価値を持つようになったものです。
貴金属・美術品のようなイメージで、株式や債券と異なる値動きをする投資先として注目されています。また、インターネット上の仮想空間であるメタバースへの投資も広まっています。
オルタナティブ投資のメリット
オルタナティブ投資のメリットは次のとおりです。
- 分散投資先としてリスク低減に寄与する
- 利回りが高い傾向がある
- 投資機会・チャンスが拡大する
分散投資先としてリスク低減に寄与する
株式や債券の相場との相関性が低いオルタナティブ投資は、市場下落・低迷時の価格変動の影響を受けづらい投資です。リスク分散のための分散投資先として、非常に適しています。
つまり、市場下落・低迷時にも収益を上げられる可能性があるのが、オルタナティブ投資です。投資先も豊富な点も、特徴といえるでしょう。逆に言えば、市場が好調なときも大きな損害を被るリスクもあります。
利回りが高い傾向にある
オルタナティブ投資は、株式・債券よりも利回りが高い傾向にあります。利回りが低い代わりに安定運用が狙える、投資信託や債券と組み合わせるのも1つの手です。
投資の機会・チャンスが拡大する
株式や債券などの伝統資産は、銘柄やファンドの種類が多いものの限界があります。そこでオルタナティブ投資へ視野を広げることで、これまで気づかなかったさまざまな投資先の存在を認識できます。投資の機会やチャンスの拡大が狙えるでしょう。
オルタナティブ投資のデメリット
オルタナティブ投資のデメリットは次のとおりです。
- 機関投資家向けの商品が多い傾向がある
- 投資前にある程度の知識を有する
機関投資家向けの商品が多い傾向がある
ヘッジファンドといったオルタナティブ投資は、機関投資家や富裕層向けの仕組みとなっているケースが多い傾向があります。投資に必要な最低投資金額が高いので、一般投資家には手が出しにくいものがあるのも事実です。
また、流動性の低さから投資の回収に時間がかかるものが多く、利益が出るまで長期的に投資を続けられる資金力も必要になります。
とはいえ、REITやコモディティファンドといった、少額から始められるものもあります。一般投資家向けのオルタナティブ投資を探すことは可能です。
投資前にある程度の知識を有する
オルタナティブ投資は、普段の生活でも聞き慣れない商品が多く、収益の仕組みも複雑となっている傾向があります。そのため、投資前に商品・仕組みに関する専門知識を理解する必要があるかもしれません。
投資初心者の場合は、専門家(ファンドマネージャー)からのアドバイスも活用しながら進めるとよいでしょう。
オルタナティブ投資で投資の視野を広げよう!
株式や債券などの伝統資産とは別にオルタナティブ投資を併せて行うことで、投資先の幅や視野が広がります。分散投資や新たなる投資先の発見に、非常に有効な投資方法といえるでしょう。
ただし、投資には専門知識や投資経験も必要になる可能性もあります。初心者でも始めやすい少額ファンドから始めたり、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)といった専門家へ相談したりなどをしながら、オルタナティブ投資を始めてみてはいかがでしょうか。