株式会社を立ち上げる場合、創業者だけで集まって行うのか、それとも広く出資を募りその上で立ち上げるのか、この違いによって必要な手続きが変わります。「発起設立」と「募集設立」に分かれますが、ここでは特に発起設立についてその手続きを解説していきます。
株式会社設立の大きな流れとして、まずは定款の作成、そして取締役などの機関を備え、株主となる者の出資履行、最後に設立の登記を行い会社が成立します。
この過程でミスがあっても、会社が設立してしまうことはあります。ただその結果損害が生じてしまうと、創業者が責任を負わなければならない場合もあるため、間違いのないよう十分に注意しなければなりません。この損害賠償は会社に対してする場合や、第三者にする場合などがあり、会社に対して責任を負う場合はすべての株主の許しがあれば身内の問題として賠償責任から免除されます。しかし、第三者に対しては株主にこれを許す権利はないため、損害賠償責任を免れません。
さらに、会社設立の手続きに瑕疵があれば、これを理由に設立が無効になり、会社を解体することにもありえます。創業者はこうしたリスクがあることを理解しておく必要があります。
ちなみに「創業者」という言葉は明確な定義のもと使用される言葉ではありません。「起業者」も同様です。これらの言葉と実質的に類似する用語には「発起人」があり、こちらは法律上の用語として使われています。発起人とは、定款に発起人であるとして記名・押印した者のことであり、会社設立に参画することになります。創業者等は通常、この発起人になることが考えられます。
発起設立と募集設立
会社を設立する上で「発起設立」および「募集設立」という2つの方法があることを知っておきましょう。発起人だけで設立するなら発起設立、発起人以外にも出資を募る場合は募集設立となります。それぞれ設立手続きで、共通する点・異なる点があります。
発起設立と募集設立の主な違い
最も大きな違いは、発起人以外が設立段階で登場すること。多くの出資が必要な場合は募集設立をすると良いかもしれません。ただし、手続きが募集設立では比較的複雑になり、発起設立であれば簡単に手続きを完了させられます。
募集設立の手続きが複雑なのは、「創立総会」が関係しています。創立総会とは会社成立前の株主総会のようなもので、設立中のさまざまな取り決めを行うために開催の必要があります。原則2週間前までに通知を出さなければならないこと、話し合う内容をその通知内に「目的」として定めておかなければ決議できないなど、厳格なルールが設けられています。
募集設立で集められた出資者は、将来株主になることが予定されています。そのため、これらの者に不平等がないようにこうした手続きを要しているのです。
しかし発起設立では実際に手続きを行う発起人しか登場人物がいません。そのため創立総会のような大きな話し合いの場を設ける必要はなく、発起人間で同意さえあればいろんなことを決定していくことができ、迅速に会社を立ち上げることができます。実際のところ多くの起業ではこの発起設立が採用されています。すでに会社を経営している者が新たにそのグループ会社を立ち上げるなど、多くの出資が期待できる状況もしくはそれだけ出資が必要であるという場合に募集設立が採用されます。
発起設立と募集設立に共通する手続き
発起設立と募集設立、どちらの場合も定款作成をするまでの段階では特に違いはありません。手続きの最後に、本店所在地で設立登記を行うという点も共通しています。登記を済ませることで法人格が与えられ、株式会社として成立します。
またこの登記では、取り決めの内容に応じて添付書類が変わってきます。例えば現物出資をした場合には、その調査を検査役が行うことがあります。そしてその調査報告によって、現物出資に関する事項に変更があると、設立登記の申請書には変更に関する裁判の謄本を添付しなくてはなりません。
ただし、この検査役の調査は変態設立事項の相当性を判断するために行われるのであり、発起人の出資の履行を示すものではないため、設立登記に検査役の調査報告書を添付する必要はありません。このこともどちらの設立方法であるかに関係なく共通します。
発起設立による役員等の選任
発起設立では創立総会を開催する必要がありません。そこで発起設立で役員等の選任をする場合にどのような過程となるのか、このときのルールや注意点などをまとめていきます。
発起設立のポイント①役員
株式会社では取締役が必須です。そのため会社設立後に取締役となる人物を選任しなければなりません。これを「設立時取締役」と呼びます。このほか、設立する会社にどのような機関をもつかによって必要な役員等が異なります。例えば会計参与は必要に応じて会社に設置することができ、会計参与設置会社とするのであれば「設立時会計参与」を選任する必要があります。
同様に会計監査人設置会社とするなら「設立時会計監査人」を選任します。ただしすべての会社で自由に機関設計できるわけではありません。取締役や会計参与のように選任条件が緩やかな役員とは違い、会計監査人はこれを設置するため、監査役の設置が前提になるなどの条件が課せられています。
逆に、大会社の場合には会計監査人を置かなければならないなどの規程もあります。さらに「設立時監査役」の選任、そして設立する会社を監査等委員会設置会社とする場合には、取締役にも2種類あるため設立時にこの区別をして選任しなければなりません。「監査等委員である取締役」とそれ以外の取締役に分かれます。監査等委員である取締役については、取締役会において議決権を有する監査役と解釈するといいでしょう。つまり監査役としての役割も持ちながら業務執行の決定機関としても機能するのです。通常の監査役にはない権限を持っているため、利益相反や競業について制約が課されます。
このように発起人は、設立時取締役を含むさまざまな役員等について選任していくことになります。
発起設立のポイント②選任のタイミング
役員等を選任するタイミングは、出資の履行後遅滞なく、です。これは出資の履行が完了すればすぐに選任しなければならないという意味でもあり、出資の履行までは選任してはならないという意味でもあります。後述しますが、会社の意思決定に関しては出資を履行することが大きな意味を持つためこのような規定ができているのです。
発起設立のポイント③定款でも選任できる
選任されるのは出資の履行以後ですが、定款でこれを指名することは許されています。そもそも発起設立のように比較的少人数で会社設立を行う場合、すでに意見が一致して取締役などにあてる人物が決まっているケースも珍しくありません。そのため最初に作成される原始定款に付則としてこれを指名することが実務上多いのです。 ただし、あくまでも選任は出資の履行後ですので、定款で指名していた場合でも、出資の履行時に選任されたものとみなされます。定款作成時に選任されるわけではありません。
発起設立のポイント④選任の決議
定款で設立時役員等の指名をしていない場合、発起人間の決議を経て選任することになります。そのための要件を見てみましょう。
一部、設立にあたり最重要事項である定款の作成などは発起人全員の同意が求められますが、原則は発起人の数の過半数で業務執行の方針が決まるとされています。しかし設立時取締役を選任することは、その後の企業活動における支配権を左右する事項になります。企業活動は基本的に資本主義に則り行われなければならず、株主総会においても出資の大きさに応じて議決権が与えられ、多くのお金を出した者がより強い権力を得るという構図になっています。設立時役員等の選任は会社設立手続きの1つではありますが、会社の将来に関わることですので、この決議については出資の履行に応じた議決権をもって決せられます。つまり、より多くの出資を履行した発起人が、設立時役員等の選任により強く関与できるということです。発起人1人が1つの議決権ではなく、引受け株式数1株につき1議決権となります。逆に取締役の選任につき議決権のない種類株式を引き受けた発起人にはここでの議決権はありません。
単元株式総数を定款で定めず、種類株式発行会社でないとすれば、出資の履行をした設立時発行株式のうち5割超を1人が保有した場合、その者単独で設立時取締役の選任ができることになります。
発起設立のポイント⑤役員等の登記
役員等の氏名等は登記事項です。そして選任された者の記載をするだけでなく、発起人の決議によって選任が決まった場合には、発起人の議決権の過半数の一致を証する書面を添付しなければなりません。さらに、設立時役員等について就任承諾書も一緒に必要とされます。これは会社成立後の役員と会社との関係と同じで委任関係にあたり相手方の承諾を要するのです。
また設立時会計参与・設立時会計監査人については就任できる人物に制限が設けられています。税理士や公認会計士などの有資格者であることを要しますので、このことを証する書面を添付しなければなりません。またこれらは法人がなることもできますのでその場合だと登記事項証明書、もしくは会社法人等番号が必要です。このあたりの規定は会社成立後に役員変更をする場合と同様となっていますので、覚えておいて損はないでしょう。
発起設立のポイント⑥解任する場合
発起人は、設立時役員等の選任をしたとしてもその後会社成立までの間、それらの者の解任をすることもできます。原始定款で定められていた設立時役員等も同様です。これを決定する場合も選任のときと同じく発起人の議決権の過半数が要件ですが、一部例外があります。それは設立時監査役や監査等委員である取締役の解任における決議要件です。この場合、発起人の議決権の3分の2以上の賛成が必要になります。
発起設立時の取締役による調査
設立時取締役として選任された者には職務が与えられます。ある調査を行いそのことの報告をしなければなりません。
発起設立時の調査内容
設立時取締役は選任後遅滞なく「調査」をしなければなりません。その内容は、現物出資・財産引受けの価額が相当であるかどうか、現物出資等についての弁護士等の証明が相当であるかどうか、出資の履行が完了しているかどうか、設立手続きに法令違反や定款違反がないかどうか、です。
設立時取締役全員の調査が必要です。また現物出資・財産引受けの価額相当性の調査については、総額500万円以下のケースもしくは市場価格のある有価証券の場合に必要となり、つまりは検査役が調査を行わない場合にその代わりとして調査を行わなければならないということです。
発起設立時の調査報告
設立時取締役が行った調査の結果、会社設立の手続きに法令違反や定款違反、その他不同な事項が見つかった場合、このことを発起人に通知しなければなりません。しかしその後の対応については発起人に委ねられ、さらに発起人は調査報告に対して何か作為義務が発生するわけでもありません。逆に、何も問題が見つからなければ通知をする義務もなく、そのままスルーすればいいだけです。
原則はこのように発起人に対して調査の通知をするだけですが、設立する会社が指名委員会等設置会社であれば、調査の完了や違反の発見について、設立時代表執行役にも通知する義務が発生しますので覚えておきましょう。
まとめ
発起設立では創立総会が開催されないため発起人の意思決定がそのまま会社設立に反映されていきます。募集設立よりも簡素で、迅速に手続きが進められるでしょう。
定款作成や出資の履行までは発起設立に限らず共通の手続きを要し、最終ステップである設立登記を行うということも共通事項です。ただし役員の選任を行うような、各種決議を行う段階で大きな違いが出てきます。発起人以外の出資者が存在しないためすべて発起人が決めていきますが、設立時役員等の選任には出資額に応じた議決権の過半数で決せられることはポイントとなるでしょう。発起人の頭数の過半数が要件とされる原則の例外と言えます。
また、実務上はあらかじめ定款で定めて選任とみなす、ということもよく行われているため、定款作成の時点でほとんどの取り決めをしておくとより簡単に会社設立ができるようになるでしょう。