株主名簿は会社法により、株式会社に記載が義務付けられている書類のひとつです。とはいえ、そもそも株主名簿とは何か、名前は聞いたことがあっても、どうやって株主名簿を作成すればいいか分からない、という人も多いのではないでしょうか。
今回はこの記事で、株主名簿の概要とともに、株式会社を設立する際どうやって株主名簿を作成すればいいか、記載するべき項目や管理方法などのポイント、注意点についてご紹介します。
株主名簿は株主の基本情報が記載された書類
株主名簿は、会社の各株主についての基本情報をまとめた書類です。株主名簿の作成は、株主や株式発行数が多い大企業では、信託銀行が作成・管理することが多いです。しかし、中小企業の場合は自社で名簿を作成、管理することになるでしょう。
株主名簿は法人設立届の添付書類としても必要
株式会社設立に伴い作成した株主名簿は、本店等に備え置く以外に、会社設立後に税務署へ提出する「法人設立届出書」の添付書類としても提出する必要があります。法人設立届出書の提出は、会社設立日から2か月以内と提出期限が決められています。提出に間に合うよう、株主名簿を作成する必要があるでしょう。
株主名簿は一人会社でも作る必要がある
株主名簿は、株主の人数、株券発行の有無に関わらず、すべての株式会社で会社設立時に作成が義務付けられている書類です。会社法(121条)において、株主の人数に関わらず作成しなければならないと定められているからです。したがって、一人会社でも自らが株主となり、株主名簿を作成する必要があります。
株主名簿を作らない場合は罰金の可能性も
株主名簿の整備ができていない場合は、過料が科せられる可能性があります。会社法において、代表取締役に対し「100万円以下の過料(976条)」とする規定があるからです。一人会社の場合は面倒に感じるかもしれませんが、必ず作成するように注意しましょう。
株主名簿と株主リストとの違い
株主名簿と混同しやすい書類として株主リストがあります。株主名簿は前述したとおり、株式会社設立時の登記申請や、設立後の税務署に「法人設立届出書」の添付書類として提出します。
一方、株主リストは、株主総会の決議や、株主全員の同意が必要となる事項の登記申請を行う場合に、提出が義務付けられている書類です。商業登記規則の改正によって、2016年10月以降に下記の登記の変更申請を行う場合は、添付が必要となりました。
【株主リストの添付が必要となる場合】
- 登記すべき事項につき株主総会の決議(種類株主総会の決議)を要する場合
- 登記すべき事項につき株主全員の同意(種類株主全員の同意)を要する場合
(参考:法務省:「株主リスト」が登記の添付書面となりました)
ちなみに株主リストは、株主名簿やその他書類で代用できません。それぞれ性質が異なるものなので、違いや重要性を理解した上で管理する必要があるでしょう。
株主名簿を作る意味や重要性
株主名簿の作成が義務付けられているのは、株式会社において株主は、会社に対し大きな権力を有するからです。例えば株主総会における役員選任の権利や、議決権、剰余金の配当請求権などの権利です。さらに、51%以上の株式を保有する株主は、独断で株主総会を開催し、役員選任や解任を行える力も持っています。
会社にとって大きな影響をもたらす存在だからこそ、会社としては株主をきちんと把握する必要があります。株主名簿の作成は、各株主を特定するために、重要な意味を持つと考えられます。特に大企業で大株主がいる場合は、しっかりした対応が求められるため、株主名簿もきちんと管理することが求められるでしょう。
株主名簿を作るメリット
わざわざ株主名簿を作成するのは面倒に感じる人もいるかもしれません。ですが、株主名簿で株主を把握することは、知らない間に株主の一人が亡くなり、違う人が株主になっていて、会社の経営について見直しを求められるなど、トラブルを防ぐことにつながります。
株主に対する通知や催告の際も株主名簿があることでメリットがあります。株主名簿に記載されている住所に宛てて通知や催告を行えば、たとえ株主に到達しなかったとしても、「到達したものとみなされる」からです。(会社法126条)さらに、もし継続して5年間到達しない場合は、その株主に対し、通知や催告をしなくてもよいとされています。(会社法196条)
また、会社に出資したい人が現れた場合も、株主名簿を作成していれば、開示を求められたとしてもすぐに対応できます。さらに、会社の登記変更では、法務局に株主総会議事録の提出が必要です。株主総会議事録には、株主リストの提出も求められますが、株主名簿があれば作成しやすくなります。
株主名簿を作るのに必要な記載事項
株主名簿を作成する場合は、会社法121条に基づき、下記の項目の記載が必要です。
【株主名簿の記載事項】
- 株主の氏名または名称、および住所
- 各株主が保有する株式数と種類(※種類株式発行会社の場合は、株式の種類および種類ごとの数)
- 各株主の株式取得年月日
- 株券の番号(※株券発行会社の場合)
株主の氏名または名称、および住所は、株主が個人の場合は正確な氏名と住所、法人の場合は法人の名称と本社等所在地を記載します。
各株主が保有する株式数と種類は、例えば普通株式を所有する場合は「普通株式100株」のように種類と所有株式数を記載します。
また、普通株式を含む、優先株や劣等株など2種類以上の株式(種類株式)を発行する会社は、種類別に株式数を記載します。
各株主の株式取得年月日は、いつ取得したかを記載します。取得日は、株主が株式を取得する代金の支払いを完了した日を記載するのが一般的です。会社設立時に株主名簿を作成する場合は、会社設立日でもよいでしょう。
株券の番号は、会社法214条に基づいて、定款に株券を発行する旨の記載があり、実際に株券を発行している会社のみが記載します。各株主が所有する株券の番号を正確に記載しましょう。
ただし、2006年の会社法改正によって、株券不発行が原則となっています。したがって、現在は株券を発行しない会社のほうが多いでしょう。株券不発行の場合は、備考欄を設け、「株券不発行」と記載しましょう。
上記以外に、質権を設定している場合は質権の登録、信託契約をしている場合は信託財産の表示、振替株式を行っている場合などは、その旨も記載が必要です。
法人設立届出書に添付する株主名簿の記載事項
会社設立に必要な株主名簿と、設立後に法人設立届出書に添付する株主名簿とでは、必要な記載事項が若干異なります。確認してから作成するようにしましょう。
【法人設立届出書に添付する株主名簿の記載事項】
- 株主の氏名・住所
- 株主が有する株式数
- 株主が有する株式の金額
- 役職名及び当該法人の役員またはほかの株主当との関係
株主名簿の様式は特になし
株主名簿について、法定様式は特にありません。必要な記載事項が記入されていれば、どのような形式で作成しても問題ないですし、記載事項について、「株主の氏名・名称」と「住所」、「株式の種類」、「株式数」、「取得年月日」など、細かく項目欄を分けてもOKです。
様式については、大型文具店の中には、株主名簿用紙が販売されていることもありますし、インターネットのサイトでも株主名簿のテンプレートを入手できるので、活用するのもひとつです。パソコンのwordやexcelなどを使って作成する方法もあるでしょう。
株主名簿の管理の仕方
作成した株主名簿の管理方法についても、会社法によって定められています。それぞれの会社で、適切な方法による管理・保管が求められます。
会社の本店所在地に保管する
作成した株主名簿は、会社法(125条)において、原則として会社の本店所在地に備え置くことが義務付けられています。ただし、株主名簿管理人を別途定めている場合(株主名簿管理人設置会社)は、その管理人および管理会社の営業所に保管することも可能です。
株主名簿管理人とは、会社に委託され、株主名簿の作成や備え置きなど、株主名簿に関する事務を代行する人のことです。従来の名義書換代理人に相当し、証券代行機関や株式事務代行機関と呼ばれることもあります。株主名簿管理人は、主に上場会社や上場を目指す会社によって、証券代行専門会社や信託銀行に委託されることが多いです。
本店等に保管するのは、株主や債権者からの正当な理由に基づいて株主名簿の閲覧、コピーの請求があった場合、株主名簿記載事項証明書を交付できるようにするためです。株主名簿記載事項証明書とは、発行した株主名簿記載事項に、会社の代表取締役が署名、または記名押印した書面のことです。
ただし、下記の事由に該当する場合は、閲覧・コピーの請求を拒否することもできます。(会社法125条)
- 当該請求を行う株主又は債権者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき
- 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的請求を行ったとき
- 請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき
- 請求者が株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき
- 請求者が、過去2年以内において、株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき
(参考:会社法の条文と解説Web)
株主名簿の記載事項の更新
株主名簿は下記の事由が発生した場合、株主名簿の記載情報の変更・更新が必要です。
- 株主の住所が変更された場合
- 株式を相続または譲渡された場合
例えば、株式の譲渡が行われた場合は、原則として株式譲渡人と株式取得者とが共同で会社に対し請求を行った場合に、株主名簿に株式を取得した人の住所、氏名等を記載し、名義の書換を行います。(会社法133条)
ただ、株主名簿を変更するべき事由が発生しない場合でも、事業年度末を過ぎたら1年に1回は定時株主総会の準備として、名簿を見返すほうがよいでしょう。もし開示請求があった場合、株主名簿の更新ができていなければ、ペナルティを科せられるだけでなく、株主からの信頼も損なうことになるからです。株価の下落や解任要請などに発展する恐れもあるため、更新も大切な業務として行うことが大切です。
株主名簿作りで困ったら税理士に相談を!
株式会社を設立する場合は、たとえ一人会社であっても株主名簿を作成しなければなりません。さらに、作成した株主名簿は、本店等に保管し、更新が必要であれば名義の書換を行うなどして管理する必要もあります。
名簿には株主の氏名や住所、株の数や種類、取得年月日などの記載が必要ですが、様式は任意です。ただ、作成しないでいると、ペナルティとして過料が科せられる可能性があるので注意が必要です。使い勝手のよい雛形、テンプレートの活用や、分からないことや不明な点は専門家に相談するなどして忘れずに作成するようにしましょう。