リーンスタートアップというと、書店に行けば関連した本が並んでいますから、一度は目にした事はあるのではないでしょうか。特にエリック・リースの書籍、リーン・スタートアップ(無駄のない起業プロセスでイノベーションを生みだす)が有名です。 かつての起業というのは誰かのアイデアや才能、運などによって成功が大きく左右される、いわば占いのようでした。
企画や計画を事前にじっくりと練り上げてそれを一斉に実行に移す。そして、時間をかけて作った計画が、実は誰も欲しくないものを作るための計画だったということに気づく。こうした事例は多くあるでしょう。そんななか登場したスタートアップの手法が、リーンスタートアップです。
当記事では、リーンスタートアップの成功プロセスや、本質について一から理解できるように構成していきます。冒頭には、当記事の要約も載せていますので、まずはそちらから見ていただいてもいいでしょう。
リーンスタートアップとは
リーンスタートアップはそもそもどのような定義になっているのでしょうか。まずはリーンスタートアップの定義から、順を追って確認していきましょう。
スタートアップとは
そもそもスタートアップという言葉にはどのような意味があるのでしょうか。
スタートアップ (start up)は直訳すると、「行動開始」「操業開始」という意味になります。 もともと、シリコンバレーから来た言葉だと言われています。
スタートアップであるためには、以下の4つの要件が必要です。
- 新たなビジネスモデルを創出
- 市場を新たに開拓し続けていく
- 高い確率で成長し続けていく
- 社会貢献性を兼ね備えている
リーンスタートアップのリーンとは
次に、リーンスタートアップのリーンという言葉にフォーカスしていきたいと思います。
リーンとは、直訳すると「痩せた」「脂肪のない」「無駄のない」といった意味になります。1980年代にアメリカのマサチューセッツ工科大学で研究されたトヨタ生産方式をもとにして、「リーン生産方式」や「リーン開発」という呼び名が生まれた。
トヨタ生産方式とは
先に説明したトヨタ生産方式とはどのようなものかを簡単にご説明します。
トヨタ生産方式の根底には、「徹底的な無駄の排除」という理念が流れていました。当時のフォードなどの他の自動車企業が大量生産、「量」にフォーカスしていたのに対して、質にこだわりぬいたアプローチを採用しているとして、話題になりました。
トヨタ生産方式は主に2つの考え方を柱にしています。
- 「ジャストインタイム」元々はスーパーマーケット方式と呼ばれていました。作業の前工程をスーパーマーケット、後工程をスーパーの顧客に見立てて、前工程では「顧客」に必要な量の部品を想定して生産し、後工程ではそれを補う(足りないものはスーパーに取りに行く)だけというもので、徹底的に必要なものだけを利用する方式。「かんばん」という帳票を使って足りないものを受け取りに行くため、かんばん方式などとも呼ばれました。
- 「自働化」何か不良が発生した際には、マシーンが自動停止し、後工程に影響を及ぼさないという事。そして、マシーンを安全に停止させる事を言う。無駄の徹底的な排除のために自動化・機械化をしていく。ただ、それだけにこだわって、従業員の人間性や労働意欲を無視してはならないということで、亻(にんべん)が付いている。
リーンスタートアップの定義
つまり、徹底的な生産効率の向上と問題の顕在化プロセスを導入することで得られる「徹底的な無駄の排除」が、リーンスタートアップというマネジメント手法ということになります。
リーンスタートアップはトヨタ生産方式の、「7つのムダを省いて生産性を最適化していく」という理念に本質論があるので、MVPやリーンキャンバスなどの方法論がどうしてもフォーカスされがちですが、方法論を駆使して、PSF(Problem Solution Fit、後述で説明)、PMF(Product Market Fit、後述で説明)を果たすのが最大の目的です。この点がリーンスタートアップの本質です。
リーンスタートアップのプロセス
ここまでリーンスタートアップの定義とその本質について考察してきましたが、ここからは具体的なリーンスタートアップの実施手順やプロセスについて確認をしていきたいと思います。
仮説→実験→学び→意思決定
リーンスタートアップは、以下のプロセスを経て実行されます。
仮説→実験→学び→意思決定です。
しかし、このプロセスは何も新しいものではなく、こう言い変えるとわかりやすいのではないでしょうか。
Plan→Do→Check→ActionつまりPDCAサイクルです。
リーンスタートアップは、顧客メリットを価値として設定した上で、無駄の徹底的な排除に本質を置くため、このPDCAを高速で回し続けることが重要です。
PDCAを繰り返し、顧客のメリットを研ぎ澄ませていく中で、早期にPMF(Product Market Fit)が訪れる事でしょう。
顧客開発モデル
リーンスタートアップと合わせて語られる起業家手法が、顧客開発モデルです。
リーンスタートアップの考え方の大本が、この顧客開発モデルと言われています。
顧客開発モデルという言葉を提唱した、スティーブンブランク氏の著書「アントレプレナーの教科書」では、以下の通り「顧客開発モデル」について言及しています。
ヒト・モノ・カネを散々投じた挙句に、誰も欲しがらないものを開発してしまうという新事業、新商品の典型的な失敗を避けるための4プロセスを提唱。
- 顧客発見
- 顧客実証
- 顧客開拓
- 組織構築
- 聞いて検証
- 売って検証
- リーチを検証
- 本格拡大
という4プロセスになります。
上記4プロセスで、顧客を相手に仮説検証を繰り返し、再現可能でスケーラブルなビジネスモデルを探索するのが、顧客開発モデルです。
ただし、スティーブンブランク氏は、顧客の声を聞くとは、求められるものを全て充足させていくことではないと言われています。
顧客の声を鵜呑みにするのではなく、その声から課題を読み取り、ソリューションをさまざまな角度で考える事が顧客開発モデルの本質ということです。
リーンスタートアップとMVP(Minimum Viable Product)
ここからはリーンスタートアップの実行をする上で使われる思考ワークフレームについてご説明したいと思います。
MVP(Minimum Viable Product)とは
MVP(Minimum Viable Product)とは、必要最低限でもターゲットに価値を感じてもらえるソリューションであり、プロダクトのことを言います。
リーンスタートアップのターゲットは、新しい商品やサービスにすぐに飛びつく「アーリーアダプター」です。
まずは仮説に基づいたMVP(Minimum Viable Product)を世に出して、アーリーアダプターに導入し、徹底的に検証をしていき、無駄を徹底的に排除するという目的をMVPは持っています。
MVP(Minimum Viable Product)を活用するメリット
それではMVP(Minimum Viable Product)にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
主に以下3つのメリットがあります。
- 市場調査→製品が市場にとって必要なものであるかどうか。
- 顧客インサイトの掘り出し→顧客のニーズを素早く把握し、顧客インサイトを掘り下げることで、開発における改良をいち早く実行できます。
- タイムロスの削減→開発をある程度進めてからマーケットに投入し、そこからフィードバックを集めていては時間がいくらあっても足りません。そうした無駄な時間を削減することがMVP(Minimum Viable Product)はできます。
リーンスタートアップとLean Canvas(リーンキャンバス)
次にもう一つのリーンスタートアップのツールとしてLean Canvas(リーンキャンバス)についてご説明します。
Lean Canvas(リーンキャンバス)とは
まずは、リーンスタートアップのプロセスをおさらいすると、仮説→実験→学び→意思決定となります。
このうち無駄を省くという観点で最も重要なのが、仮説です。
仮説が的確であれば、早いPMFを実現できるからです。
この仮説に対して的確な要素を盛り込ませるために図式化されたのが、Lean Canvas(リーンキャンバス)です。
Lean Canvas(リーンキャンバス)の9項目
Lean Canvas(リーンキャンバス)には、ビジネスモデルを構成する要素が9つに分解されています。その9つとは、以下です。
- Problem: 抱えている課題は何か。
- Customer Segment: どのような人がターゲットなのか。
- Unique Value Proposition: 競合に対してどのような独自性があるか。
- Solution: 課題を解決する方法は何か。
- Channel: 顧客に対してどのようにアプローチするのか。
- Revenue Streams: どのような収益モデルか。
- Cost Structure: どれだけのコストが発生するか。
- Key Metrics: このビジネスモデルを評価する上で大切になる指標は何か。
- Unfair Advantage: 競合に対しての参入障壁は何か。
まとめ
リーンスタートアップは無駄の徹底的な排除という言葉が前面に出がちですが、一番大事なのは「顧客メリットからの逆算」です。ぜひ、これから起業される方は、リーンスタートアップ、そして顧客開発モデルを参考にされてはいかがでしょうか。