経理業務の中で、現金や預金の管理をしながら日々の入金処理と出金処理をすすめる出納業務は、現預金の実態と企業とを結びつけるインターフェースの働きをしていると言えます。
出納業務を、ある程度続けていると入出金のトレンドや直近の傾向などを体得し、経験値に裏付けられた正確でスピーディーな処理が可能になります。そのとき、入出金管理の書式がとても複雑で操作性が悪いものでは困ります。優れたユーザーインターフェースとなりうる入出金管理表を見つけましょう。
出納業務における入出金管理とは?
経理業務における出納業務は日々の業務の中でも重要度の高い仕事です。企業と外部とのお金に関連する取引はすべて出納業務を経て出入りしているからです。
出納業務における入出金管理では、3つの業務を柱とします。
それは、「現金管理」と「預金管理」、そしてそれら現預金の「残高管理」です。つまり、現金と預金について「取引」と「残高」の両方の管理です。
現預金管理は企業の規模によって、複数人で担当する場合も一人で完結する場合もありますが、取引件数が増えれば、入金処理と出金処理に分けて処理をします。
キャッシュレスが進み、現金に変わる「電子マネー」も登場していますが、社内でポイント管理まで含めた本格的な電子マネーを管理するとなると、それぞれの電子マネーの特性を考慮する必要もあるため、ここでは「現金」に含めて考えます。
現預金の管理について、まずは企業になにが求められるのかから整理していきましょう。
入出金管理に求められるものとは?
確立された現預金管理は、企業におけるガバナンスの一環です。
企業におけるガバナンスとは、健全な企業経営をめざす企業自身による管理体制のことを指します。また、リスクマネジメントとは将来に想定される経営のリスクを事前に把握するための管理手法です。
現金や預金を管理する部署においては、業務上の横領、着服といったリスクをはじめ、不正や誤りによって社内外の信頼を損ねる危険性が他の部署より高いと言えます。
ICTの発展によりリスクが減ったと思われる反面、新たな手口やルートが構えています。
現預金管理そのものに高度な技術が求められなくても、企業がどのような管理体制のもとで、リスク回避策を講じているのかを整然と説明できるようにした上に出納業務があるのが望ましい姿です。
企業においては担当に任せきりにせず、組織としての現預金管理が求められます。
入出金管理の目的とは?
入出金管理の目的は、その時点における適正な残高管理です。
入出金管理は、原則、「その日」のうちに「正しく」処理され、残高を照合する必要があります。ここで、「原則」としたのは「費用対効果」を考えるということで、取引数や人員配置との兼ね合いによります。
入金管理では、売掛金や未収入金などが期日までに確実に入金されたかどうかをチェックします。 最低チェック項目としては、次の4項目です。
- 入金日
- 入金元の名義
- 入金理由 売掛金の回収、貸付金の返済など
- 請求金額と入金額の照合
入金明細を取得し、売掛金の消込や予定の取引に照らし合わせます。このとき、不明な入金については、いったん仮受金などに計上した上で、関係部署や取引先に確認します。
売掛金は合算で入金される場合も多いため、得意先に内容を照会するのはよくあることで、得意先の担当者と連絡しやすい状況を作っておくのも入出金管理者の役割の一つです。
出金管理はその前段となる支払管理や債務管理と密接な関係にあります。
すなわち、支払管理によって、買掛金や未払金、給与等を実際支払う前に次のことが決まっています。
- 支払日
- 支払先の名義
- 支払理由 買掛金、未払金の決済、給与、賞与の支給、借入金の返済など
- 支払金額と根拠資料の照合、支払権限者の確認
出金管理においては出金明細より予定されていた支払が滞りなく実行されたかのチェックをします。光熱費などの支払いで、口座から引き落とされてから認識することもあるため、支払伝票を作成します。
現預金の管理表残高と口座残高や現金有高帳残高との照合結果を証拠として残しておきます。
不正な入出金がなかったかどうかは、時間がたってしまってからではリカバリーが難しいこともあります。 「正しく」「早く」が入出金管理のモットーです。
出金伝票を詳しく知りたい方はこちらを参考にしてください。
入金や預金の理由
自社の現預金の出入りにはどのような傾向があるかをまとめておくと、入出金管理は格段にスピードが上がります。過去の入出金を分析し、例えば「毎月25日にはA社とB社の入金あり、休日なら前営業日」、「毎月10日は源泉税の支払い、休日なら翌営業日」などとまとめます。
入出金の例
入金の理由 | |
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営業の入金 | 現金仕入 |
現金売上 | |
売掛金の回収 | |
受取手形の期日決済 | |
期日前の手形決済 | |
前受金の入金 | |
受取利息、受取配当金 | |
財務投資の入金 | 社債の募集による入金 |
貸付金の返済 | |
金融機関などからの資金借入 | |
有価証券などの売却 | |
受取保険金 |
出金の理由 | |
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営業の出金 | 現金仕入 |
買掛金、未払金の支払 | |
支払手形の期日決済 | |
前払金の支払 | |
諸費用、税金の支払い | |
固定資産の購入 | |
支払利息 | |
財務・投資の出金 | 社債の償還 |
貸付金 | |
借入金の返済 | |
有価証券などの売却 | |
保険金、配当金の支払 | |
有価証券などの購入 |
資金繰りには、日頃の入出金の管理を通して常に「先を読む」目を求められます。
したがって、日常の営業取引の量や傾向を前もって把握しておくことが重要で、入出金明細を入手してから、「さて、何の入金だろう?」と考えているようでは遅いと言えます。
認識の違いや先方とのタイミングのずれなどもありますが、取引の情報を事前にキャッチしておきましょう。
入出金管理と資金繰りの関係
入出金管理の結果はそれ以降の入出金に大きく影響します。
資金繰りとは、会社の資金である現金や預金の出入りを管理して、将来の「支払い」に困ることがないように調整することです。現金と預金について、過去の取引と残高を管理して将来の現預金の動きを予想し、将来のある時点での資金ショートが起こることがないように運用する「資金繰り」を支えるのが入出金管理の目指すところです。大型投資や賞与支給といった企業におけるイベントは事前に期日がわかりますので、ターゲットとなる時期に合わせて将来の残高シミュレーションできるようになると、入出金管理の最終目的が果たせたと言えます。
会計ソフトから出力される現金出納帳、現金管理表などが入手できる場合は、「過去分」の入出金、すなわち既に金銭の取引が終わったものについては、会計ソフトから情報を得ることができます。
しかしながら、将来の入出金の入力を求められても、いきなり入力できるとは限りません。
資金繰り表の予定を作成するためには、それまでの入出金を踏まえて傾向をつかんでおく必要があります。
ここでは、資金繰りまでを視野に入れた入出金管理を考えていきましょう。
以下では、すべてエクセルベースでの入出金管理を考えています。現金と預金は種類が異なるだけで、同様に作成できますが、ここではサンプルとして現金勘定で作成します。
会計ソフトのデータを利用できる場合や、また会計ソフトに入出金管理機能が備わっている場合がありますので、現状にあわせて工夫してください。
入出金管理表のテンプレート
ここではひな型として現金出納帳を作成してみましょう。
現金出納帳も預金出納帳も同様に作成します。取引が少なければ同じ表の上下に分けてもよいでしょう。
【入出金管理のテンプレート】出納帳への記録について
現金出納帳のテンプレートに必要なものは、日付、入出金の別と現金の相手勘定科目、摘要です。エクセルで作成する場合は残高欄には最後に式を入れて、自動計算にしておきます。
インターネット上で「現金出納帳 エクセル テンプレート」などと検索しても、多くのテンプレートをダウンロードできますが、最初は最低限必要な項目から始めましょう。入出金管理をする人が作業しやすいテンプレートがよいテンプレートと言えます。取引の内容や使う勘定科目などは企業によって異なるだけでなく、入出金管理者の会計スキルにも依存するからです。
現金は日単位で実際の有高と出納帳を照合しますが、照合者氏名欄なども必要であれば追加します。現金出納帳は現金照合が目的ですが、「チェック状況」を管理表に記載するのもリスク対策として有効です。
なお、「現金出納帳」と総勘定元帳の1つである「現金元帳」は、ほぼ同じ形式です。管理項目が「入金・出金」となっているか「借方・貸方」となっているかが異なるだけです。
現金出納帳は複式簿記を行う場合の「補助簿」ですが、会計ソフトを利用する場合に得られる情報は現金元帳と変わりません。具体的には次の「現金出納帳」のようなイメージです。
入出金管理を実施するには、直前の現金や預金の残高が会計帳簿と合っていることが前提です。 もし、前営業日の入金や出金の管理で抜けているものがあれば、日付が古いものから処理しましょう。後で、エクセルの並べ替え機能を使って日付順に並べ替えればよいだけです。
ひと月分の取引の記載ができたら、月単位で集計をとります。ひと月の現金や預金の出入りは、多くの場合残高よりも多くなっています。
入金合計より出金合計のほうが多くなった場合には、次のようなことが考えられます。
- 売掛金の回収が遅れている
- 前月末の支払いが今月初にずれ込んだ
- 前月の売上が少なかった
- 当月の支払いに前払い分が含まれている など
予定日が休日でずれ込んでいるような場合は問題ありませんが、各得意先や支払先の元帳を見て、いつもと異なる動きをしているものはないかを探します。それも入出金管理の一環です。
したがって、出納帳に盛り込む項目は最低限にし、「正確に」「早く」できるテンプレートにしておきましょう。
【入出金管理のテンプレート】月計表から資金繰り表へ
次に、現金出納帳と資金繰り表の橋渡しをする月計表を作成します。
取引があまり多くない場合は現金や預金の出納帳から直接、資金繰り表を作成することも可能ですが、現金と預金を合算し、さらに資金の出入りを分類するための表があれば便利だといえます。
入出金管理表のエクセルシートをコピーして「月計表」とし、資金繰り表の準備にとりかかりましょう。 月計表は、入金や出金の種類ごとに並べ替えます。例えば、勘定科目で並べ替えてもよいし、摘要を資金繰り表の項目に書き換えてもよいでしょう。エクセルの並べ替え機能を利用します。
当月の現金出納帳や預金出納帳から資金繰り表を作っておけば、当月末の現預金残高がどれだけであり、翌月に予定している支払のために、どの程度の資金調達が必要かも予想できます。
資金繰り表においても決まったものはありませんが、月単位で推移するテンプレートを利用すると使いやすいでしょう。
入出金管理のテンプレートを有効活用しよう!
入出金の管理は毎日、同じようなことの繰り返しで単調だと思われるかもしれません。 しかし、それが企業の取引の実態なのです。地味な繰り返しを蓄積して、赤字や大きな損失を乗り越え、投資を続けている過程をその都度リアルタイムにわかるのも入出金管理の醍醐味でもあります。
入出金管理の経験を蓄積し、資金ショートなどが発生しないよう会社を守り続けてください。
より詳しい情報を知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。