安定した会社経営のためには、会計帳簿の内容のほかにキャッシュフロー計算書で会社のお金の流れを知ることが重要です。キャッシュフローを理解すれば「手許現金がどれくらいあるのか」「資金調達はどのくらい必要か」など経営者にとって重要な情報を瞬時に把握できます。そこで今回は、経営に重要なキャッシュフローについて解説します。
キャッシュフローでわかる経営状況
キャッシュフローは、大きく分けると3つに分類されます。1つ目は営業活動によるキャッシュフロー、2つ目は投資活動によるキャッシュフロー、3つ目は財務活動によるキャッシュフローです。3種類のキャッシュフローにはそれぞれ役割があり、すべてを理解することで会社の経営に必要なお金の流れを理解できます。具体的には「どこからお金が入ってきてどこへお金が流出したか」を把握することができるのです。この3種類のキャッシュフローについて、それぞれもう少し詳しく解説します。
営業活動によるキャッシュフロー
会社の本来業務といえる「営業」により動いたお金の流れを表しているのが「営業活動によるキャッシュフロー」です。つまり「稼いだお金がどれだけ残っているか」を表した数字です。プラスの残高であればお金が残っていることを表し、マイナスであれば「売上不振」や「売掛債権の回収サイトが長い」など、資金繰りに関する改善策が必要になることを表しています。例えば、売上不振であれば営業方法を変更してみる、売掛債権の回収サイトが原因であれば回収サイトを短くするなど、改善策が考えられます。つまり、営業活動によるキャッシュフローが理解できれば「黒字倒産」を回避できるということです。
営業活動によるキャッシュフローの構成要素は次の5つです。
- 現金収入(商品や製品の販売)・・・プラス要素
- 現金支出(商品や製品の仕入)・・・マイナス要素
- 現金支給の人件費・・・マイナス要素
- 現金支払の経費・・・マイナス要素
- 投資活動並びに財務活動に含まれないもの・・・プラス・マイナス両要素
上記5つに該当する勘定科目のみをプラス・マイナスしてキャッシュの動きを把握します。
起業間もない会社でない限り、多くの場合で営業活動によるキャッシュフローはプラスになります。起業間もない会社の場合は、売上や売掛金回収サイトがしっかり確立する前に、支出の方が多くなるのでマイナスになることも珍しくありません。
自分で計算するのが難しいという場合には、専門家である税理士に相談すれば正確なキャッシュフローを提供してもらえるでしょう。
投資活動によるキャッシュフロー
資産運用により動いたお金の流れを表しているのが「投資活動によるキャッシュフロー」です。将来の利益のために、会社のお金を資産運用した資金の流れを可視化したものです。投資活動に含まれる投資の種類は、有価証券の投資に加えて設備投資も含まれています。この数字を見れば、会社は自社の将来のためにどれだけ投資ができているかを把握できます。
例えば将来の投資ではなく目先のお金を優先する場合、資金調達のために有価証券の売却や固定資産の売却などを行うでしょう。この場合、投資活動によるキャッシュフローはプラスになります。
その一方で、有価証券を購入したり設備投資をすると、支出が増加するので投資活動によるキャッシュフローはマイナスになります。これは将来の利益確保のために行っている行為なので、投資の内容さえ問題なければキャッシュフローがマイナスとなっても慌てる必要はありません。
投資活動によるキャッシュフローの構成要素は次の4つです。
- 有価証券の取得(支出)と売却(収入)
- 固定資産の取得(支出)と売却(収入)
- 貸付金の貸付(支出)と回収(収入)
- 3ヶ月を超える定期預金の預入(支出)と払出(収入)
例えば有価証券の場合、有価証券として持っているか現金に変えるのかという違いを表します。貸借対照表でいえば、現金という上位科目に来るか有価証券という現金よりも下の科目に来るかの違いです。
どの科目も、売却時の時価で益が出るか損が出るかは異なります。設備投資を行っている企業であれば、投資活動のキャッシュフローの金額が大きく動くことになりますので、売却のタイミングは慎重に検討しなければなりません。
売却のタイミングは税理士に相談することで的確なアドバイスが受けられますので、「益」が出るタイミングを見分けるためにも、日頃から専門家である税理士と連携をとり、密に相談して進めるのが良いでしょう。
財務活動によるキャッシュフロー
営業活動や投資活動を支えるためのお金の動きを表しているのが「税務活動によるキャッシュフロー」です。銀行融資を受けた場合の借入金や、投資活動により得た配当金などが、財務活動によるキャッシュフローでわかります。財務活動によるキャッシュフローの構成要素は次の4つです。
- 借入による収入・借入金の返済による支出
- 新株式発行による収入
- 自己株式取得による支出・自己株式売却による収入
- 配当金の支払による支出
構成要素のほとんどは、株式にまつわるものです。日本の中小企業の場合、新株式発行や自己株式取得または売却という動きは頻繁に起こるものではないでしょう。配当金の支払いは、グループ会社間の資金調達手段として配当金を活用するケースがあるので、子会社が多い企業には比較的数字の動きがある項目です。配当金がどのくらい出せるのか、税務上の取り扱いの注意点などは、専門家である税理士に相談すれば安心です。
キャッシュフロー経営について解説
3種類のキャッシュフローの役割を理解したところで「キャッシュフロー経営」とはどのような経営なのかを解説します。ポイントは「資金調達の方法と資金の使い方」です。
キャッシュフロー経営と他の経営手法で異なる点とは
キャッシュフロー経営のポイントは「いかにお金を生み出すか」という「キャッシュ」に焦点を絞って経営することです。もちろん損益計算書からわかる「利益確保」の経営もあれば、貸借対照表を意識した「財務状況」による経営も大切です。しかし、会社経営を継続させるためにお金は必要不可欠。資金が不足しそうであれば、金融機関へ融資を申し込むか、経費を節約するのか、そして何にお金使ったかを知る必要があります。
例えば、設備投資をした結果お金がいつもより多く減っているという場合であれば、早ければ翌月に回復しますし資金使途もわかっているので問題ありません。銀行融資を受けたのであれば、借入金は増えますが手元資金は確保できます。さらに、設備投資の多くは減価償却費として「お金の支出を伴わない経費」として計上できますから、プラス要因です。
モノを購入し経費を使いすぎている場合は、出費の内容を精査して削減できるものであれば節約できます。使いすぎていたとしても、資金使途はわかっているので改善の余地があり問題はありません。ここで資金使途が不明なものが出てきた場合には、何か不測の事態が起きている可能性があります。
キャッシュフロー経営が貸借対照表や損益計算書を使用した経営方法と異なるのは、お金の出入りを中心にした経営方法ということです。お金を使用しない経営はありません。重要なのは「お金を何に使ったか」と資金繰りです。
キャッシュフロー経営が必要となるとき
例えば、売上高はあるものの売掛金が多く回収に苦戦している場合、売掛金が回収されるまでの間、キャッシュが手元にない期間が発生します。手元にキャッシュがなければ、運転資金を確保するために金融機関から融資を受けるかどうか検討しなければなりません。しかし、既存の借入金残高が多い場合には、追加融資を受けられない可能性があります。追加融資が受けられなければ、会社は「黒字倒産」してしまうことも考えられます。
貸借対照表で現預金の残高を把握し、損益計算書で利益を把握していても、売掛金の回収ができなければ運転資金は不足します。このように、黒字倒産回避のために必要なのがキャッシュフロー経営です。
キャッシュフロー経営のメリット
売掛金の回収、借入金の返済など「実際のお金の動き」をもとにキャッシュフローは作成されます。キャッシュフローを確認しておけば、お金が不足するタイミングや、自社の経営は何に一番お金を使用しているのかを一目で知ることができます。
貸借対照表でも現金残高は把握できますが、お金の回収サイトの把握はできません。貸借対照表では「売掛金や買掛金の残高が前年同月と比べて多い、または少ない」という現預金の残高はわかりますが「何に使ったか」がわかりません。
キャッシュフローを理解すれば、売掛金の残高が多い理由が「たまたま多い」のか「回収遅延がある」のかを把握できます。また、回収サイトを短くすることで資金調達がスムーズになるのであれば、取引先に交渉するといった方法も検討できます。
キャッシュフロー経営が必要な状況
キャッシュフロー経営が必要な状況は、次にあげるような検討事項が発生した場合です。
- 資金調達を検討中
- 資金使途が知りたい
このような状況が発生した場合、貸借対照表と損益計算書だけでは最適な判断ができません。なぜ最適な判断ができないのか、資金調達と資金使途に分けて解説します。
資金調達を検討中の場合
資金調達を検討している場合、なぜキャッシュフロー経営が必要になるのでしょうか。資金調達といっても理由は企業により異なりますので、ここでは次の2つの理由で資金調達を検討していると仮定しましょう。
- 事業継続のための資金調達
- 設備投資のための資金調達
「事業継続のための資金調達」の場合、改善のために注目しなければいけないポイントが2つあります。1つは売掛金(未収入金)の回収サイト、もう1つは買掛金(未払金など)の支払いサイトです。
例えば、売掛金の回収サイトが30日、買掛金の支払サイトが45日であれば、15日間は手元に回収できたお金が残ることになります。しかし、売掛金の回収サイトが45日で買掛金の支払いサイトが30日だった場合、売掛金が回収できる前に買掛金の支払いが到来します。売掛金が回収できるまでの15日間は、手許現金が少ない状況になるということです。この15日間に別の支払いが発生した場合は、資金が足りないので支払いを行うことができません。このような場合、金融機関に融資を申し出るのも1つの方法ですが、回収サイトを変更する方法もあります。回収サイトの変更で改善できる場合は、借入をするよりも得策です。
「設備投資のための資金調達」を検討している場合、注目すべきポイントは借入金と減価償却費です。一例として、機械や備品を購入するとき、常に金融機関で借入金を起こして購入すると決めている企業が多くあります。すでに購入している設備の借入金が残っている状態で設備投資を行う場合、現在の返済額にプラスアルファで返済していかなければなりません。つまり、返済余力がなければ、設備投資の資金を確保していても返済できないことになります。
ここで注目するのは減価償却費です。損益計算書上では費用ですが、キャッシュフロー計算書では非資金損益項目なので、営業キャッシュフローでは「加算」項目になります。支出を伴わない経費で、現金と同じ扱いということです。そのため、減価償却資産の未償却残高が少なくなり、費用自体が少ないのであれば設備投資のチャンスといえます。
このように、資金調達をする場合でも目的によってキャッシュフローの見方が変わります。どちらの場合も貸借対照表と損益計算書では見えてこない部分なので、キャッシュフロー経営が効果的だということです。
キャッシュフロー経営を効果的に活用するために
これまで解説したキャッシュフロー経営を進める中で、設備投資のタイミングや売掛金の回収サイトなどに不安を感じることもあるでしょう。そのような時は、専門家である税理士に相談することをおすすめします。税理士の視点から読み解いた数字をもとに経営判断を下していくことで、キャッシュフロー経営を効果的に活用する方法が見えてくるでしょう。
キャッシュフロー経営は、貸借対照表で把握できる資産の残高の中身を明確にし、損益計算書にある変動費と固定費を分けてお金の流れを把握できる経営手法です。経営者にとって利益も大切ですが、キャッシュフローを読み取る経営力もまた重要です。キャッシュフローを理解し、キャッシュフロー経営を活用して、少しでも資金繰りが楽になる経営につなげましょう。