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相続放棄の手続きに必要な書類とは?流れや費用についても解説

相続放棄の手続きに必要な書類とは?流れや費用についても解説

相続で受け取れる財産のすべてを、あえて受け取らないようにする手続きを相続放棄といいます。手続きを進めるには、必要な書類を準備しつつ、管轄の家庭裁判所での申立てを行います。

被相続人(亡くなった人)との関係によって、準備すべき戸籍謄本の枚数が変わるので注意しましょう。

当記事では相続放棄の手続きに必要な書類や相続放棄手続きの流れ、かかる費用の目安、手続きの代理を専門家へ依頼すべきか否かについて解説します。

相続放棄の手続きで必要な書類は?取得方法も解説

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相続放棄の手続きで必要となる書類は、主に次のとおりです。

  • 相続放棄申述書
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 申述人の戸籍謄本

申立ての手続きは家庭裁判所にて行います。

相続放棄申述書

相続放棄申述書とは、相続放棄することを家庭裁判所に認めてもらうために提出する書類です。家庭裁判所は申述書が提出された後に審査を行い、申述人が相続放棄をしてもよいか否かを判断します。相続放棄手続きを始めるためには必要な重要書類です。

記入内容は申述人の氏名や住所、被相続人の情報、相続開始(被相続人の死亡を知った日)、放棄する理由、相続財産の概略などです。

相続放棄申述書のフォーマットは、裁判所の公式サイトからダウンロードできます。

被相続人の住民票除票または戸籍附票

相続における人間関係を証明するために、被相続人最後の住所が載っている住民票除票または戸籍附票を用意します。

住民票除票:他の市区町村への引っ越しによる転出や死亡によって除かれた住民票
戸籍附票:本籍地の戸籍が作られてから、現在または除籍されるまでの住所を記録している書類

どちらも、被相続人が亡くなったときの本籍地の役所で入手できます。原則として遠方への郵送にも対応しているため、遠方地にお住まいの方は、必要に応じて役所に問い合わせてみてください。

申述人の戸籍謄本

申述人が本当に相続人であるかを証明するために、申述人の戸籍謄本も準備します。申述人の戸籍がある本籍地の役所にて入手しましょう。居住地の役所では手続きを受け付けていないので注意が必要です。

収入印紙・郵便切手

相続放棄の申述の際には、800円分の収入印紙が必要になります。コンビニや郵便局にて購入しましょう。200円分×4枚でも、400円分×2枚でも構いません。

相続放棄申述書に収入印紙の貼付け欄があるので、貼り付けた状態で提出してください。

また、収入印紙の他にも郵便切手が必要です。必要な分は裁判所によって異なりますが、おおよそ400円前後になります。事前に電話などで必要な値段を確認しておきましょう。

被相続人との関係ごとに必要な書類

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相続放棄の手続きで必要な書類は、申述人と被相続人との関係によっても変わります。原則としては相続順位が上位(子やその代襲者は1位、親や祖父母は2位、兄弟姉妹やその代襲者)の方ほど、必要なものは少なくなります。

配偶者、子や代襲者となる孫、親や祖父母、兄弟姉妹や代襲者となる甥姪の4パターンについてみていきましょう。

配偶者・子が相続放棄するケース

配偶者や第1順位である子が相続放棄するケースでは、「被相続人の死亡についての記載がある戸籍謄本(以下、書類1)」かつ、配偶者や子の戸籍が入っているものを用意します。

他のパターンと比べても必要な戸籍謄本は多くありません。

孫(代襲者)が相続放棄するケース

孫(代襲者)が相続放棄する場合は、書類1に加えて「被代襲者(配偶者や子)の死亡についての記載がある戸籍謄本」が必要です。

直系尊属(親や祖父母)が相続放棄するケース

第2順位の相続人である直系尊属(親や祖父母)が相続放棄する場合は、第1順位の相続人への相続が発生しないことを証明する必要があります。

そのため、親子関係を示す「被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本(以下、書類2)」や「配偶者または子の出生から死亡までのすべての戸籍謄本(以下、書類3)」取得しましょう。

さらに相続人が祖父母の場合は、「被相続人の親の死亡の記載がある戸籍謄本(以下、書類4)」も準備します。

兄弟姉妹・甥姪が相続放棄するケース

第3順位の相続人である兄弟姉妹や甥姪(代襲者)が相続放棄する場合、関係性を証明する関係上、準備すべき書類が多くなります。具体的には次のとおりです。

  • 書類2
  • 書類3
  • 書類4
  • 甥姪の場合は「兄弟姉妹の死亡の記載のある戸籍謄本」

兄弟姉妹による相続放棄の場合だと、戸籍のある役所を探したり人間関係をチェックしたりなどを、素人だけで正確に実施するのは困難です。司法書士などの専門家に、戸籍の取得を依頼することも検討しましょう。

相続放棄の手続きの流れ

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ここからは相続放棄の手続きについて、大まかな流れを解説します。

相続放棄に必要な準備を済ませる

相続放棄をスムーズに行うために、各種書類の準備や財産関係の確認は事前に済ませておきましょう。

とくに注意すべきは財産関係の確認です。相続放棄を行う方には、原則として「相続するとマイナスの影響が大きい(被相続人に借金があるなど)」「財産関係のトラブルに巻き込まれたくない」といった目的があります。

しかし逆に言えば、相続放棄によって「後からプラスの財産の存在が発覚しても相続できない」「他の人に負債を押し付ける形になる」など、新しい問題が発生するケースもあります。

一度放棄の申請が通ると、原則として撤回はできません。実行する際は、事前に他の相続人と相談しておいたり、専門家に財産のチェックを依頼したりなどの対策を講じておきましょう。

相続放棄申述書に記入する

家庭裁判所に提出する相続放棄申述書に記入します。記入内容は次のとおりです。

  • 日付の記入
  • 申述人の署名捺印
  • 申述人の欄(本籍地・住所・氏名・生年月日・被相続人との間柄)
  • 申述人が未成年の場合は法定代理人の氏名、住所、連絡先
  • 被相続人の本籍地、最後の住所、氏名、死亡年月日
  • 相続の開始を知った日
  • 放棄する理由

書類に不備があると申請は却下されます。抜け・漏れがないよう提出前にしっかりと見直してください。

具体的な手続きに何が必要になるかについては、管轄の家庭裁判所にて事前に確認しておくのもよいでしょう。

家庭裁判所にて申立ての手続きを行う

必要な書類を揃えた後は、家庭裁判所にて申立ての手続きを行います。提出先の家庭裁判所となるのは、被相続人の最後の住所地を管轄するところです。

提出方法は「直接裁判所へ提出しに行く」または「郵送で提出する」の2通りになります。

相続放棄の照会書を返送する

申立てを行ったら、家庭裁判所から後日「相続放棄の照会書」が送られてきます。

この主旨は申述人の意思を確認する問い合わせのイメージです。「申述人本人の意思で相続放棄を行うのか、意思は変わらないのか」「申述内容は正しいのか」「死亡日は正しいのか」などが尋ねられます。

裁判所は申述書と照会書の内容を基に、放棄手続きを承認するか否かを決定します。両者が矛盾した内容とならないよう、正確に回答してください。

相続放棄の受理書を受け取る

照会書を提出した後、放棄手続きが認められれば、家庭裁判所は「相続放棄の受理書」を申述人へ送ります。これは

相続放棄を実施したという事実を証明する書類です。廃棄せず、大切に保管しておきましょう。より正式な証明書を求める場合は、あらためて家庭裁判所へ「相続放棄の証明書」の発行を申請します。

受理書や証明書は、不動産名義変更やその他の相続手続きにて使用できます。

相続放棄の期限はいつ?延長はできるのか

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相続放棄の期限は、原則として「相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月(熟慮期間)」です。被相続人の死亡が確定した日ではありません。被相続人が亡くなってしばらくしてから自分に相続権があると知った場合でも、問題なく手続きできます。

もし3ヶ月を過ぎた後に手続きした場合でも、相続放棄が認められるケースは多々あります。「借金の存在が後から判明した」「相続財産が存在しないと信じるのに相応の理由があった」といったケースです。

期限後の相続放棄を行う際は、家庭裁判所が納得する合理的な理由が説明できるようにしましょう。

また期限内であれば、申請によって相続放棄の期間を延長できる可能性があります。財産の調査に時間がかかったり、話し合いの時間が必要だったりする場合に申請してください。

相続放棄にかかる費用はいくら?

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相続放棄の手続きや書類準備に必要な費用がいくらかを、以下の表にておおまかにまとめました。参考にしてください。

必要なもの おおよその費用
収入印紙代(1人あたり) 800円
郵便切手 400~500円前後
申述人の戸籍謄本 450円
被相続人の死亡の記載のある除籍謄本 750円
被相続人の住民票除票 300円前後
司法書士の代理をお願いする場合 約3~5万円
弁護士の代理をお願いする場合 約5~10万円

自分だけで手続きを進める場合だと、おおよそ3,000~4,000円程度の出費に抑えられます。

とはいえ、自分だけで進めると手続きの不備や調査不足によるトラブルの発生も考えられます。不安がある方は、司法書士または弁護士の協力を仰ぐとよいでしょう。

なお、申請期限である3ヶ月経過後の代理については、依頼料を高く設定されていることが一般的です。相続財産調査など他の依頼をする場合も、別途費用がかかります。

相続放棄と単純承認・限定承認の違いとは?

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相続においては、相続放棄の他に「単純承認」と「限定承認」が存在します。それぞれの違いについて簡単に解説します。

単純承認とは

単純承認とは、プラス・マイナスを含めたすべての財産を相続すると認める手続きです。多くの方がイメージする普通の相続となります。

単純承認を選ぶ際、特別な手続きは必要ありません。相続開始を知った日から3ヶ月以内に、限定承認も放棄も選ばなかった場合は、自動的に単純承認を選択したとみなされます。

また、「相続財産のすべてまたは一部を処分した」「相続財産を故意に隠した」などの行動が認められたときも、自動的に単純承認となります。

限定承認とは

限定承認とは、被相続人のプラスの財産の範囲内において、マイナスの財産を相続することです。

例えばプラスが1,000万円、マイナスが1,500万円だった場合は、プラスで相殺できる1,000万円までを相続します。もしプラスが1,000万円、マイナスが500万円の場合はプラス500万円での相続です。

限定承認の手続きは非常に複雑で、「相続人全員が共同で行う必要がある」「マイナス財産の債権者を把握や詳細な財産調査を行う」などの条件をクリアしなければなりません。

また、譲渡所得税の発生によって税金が増えたり準確定申告が必要となったりなど、手続きや費用も増加する可能性があります。実務上だと、ほとんど使われることがない制度となっています。

相続放棄の手続きは弁護士に依頼すべきか

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相続放棄の手続きは、司法書士や弁護士の先生に代理を依頼できます。依頼するメリットは次のとおりです。

  • 相続財産調査も並行して依頼できる
  • 専門的な手続きを不備なく行ってもらえる
  • 申請期限が過ぎた後の手続きも請け負ってくれる
  • その他、相続に関するさまざまな相談にのってくれる

では実際に手続きを依頼すべきか否かですが、「準備する時間が十分かつ後からプラスの財産が出てきても気にならない」という方であれば、依頼する必要性はあまり高くありません。家庭裁判所に問い合わせつつ進めれば、自分だけで手続きを終えられるでしょう。

一方で「時間的に余裕がない」「知らない間に期限が過ぎてしまっていた」といったケースでは、専門家への依頼をおすすめします。

期限経過後の申請には、家庭裁判所が納得する合理的な説明がなければ相続放棄が認められません。そのため、法的な観点や実務経験を持つ専門家の意見・論理展開を含めた申請がカギになるでしょう。

また、代理申請以外にも相続に関するさまざまな相談があるときは、専門家へ相談してください。

相続放棄に必要な書類を不備なく準備しよう

相続放棄を行うには、相続放棄申述書や各種戸籍謄本など、さまざまな書類の準備が必要になります。

とくに兄弟姉妹や代襲者となった甥姪は、関係証明のために多くの戸籍謄本を取得しなければなりません。事前に必要となるものを調査しておき、手続きで不備が出ないようしっかりと集めておきましょう。

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増山 晋哉
記事の監修者 増山 晋哉
弁護士法人 きわみ事務所 代表弁護士

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