ボーナス(通常賞与)と決算賞与の意味は知っていても、詳しい手続きやルールを知らない人も多いのではないでしょうか。2つの賞与の違い、賞与にかかる保険料、どういった使い方をすれば企業にとってメリットが大きいのかなど、知りたいポイントがたくさんあるはずです。
そこでこの記事では、賞与を扱うなら知っておきたい手続き方法、ルール、メリット・デメリットをまとめてご紹介します。流れを押さえておき、実務に活かしてみてください。
ボーナスと決算賞与の違いとは?
ボーナス(通常賞与)は支給する企業が多いため、細かい内容を把握している方も多いですが、決算賞与の方をあまりご存じない方も多いのではないでしょうか。正しく認識するために、ボーナスと決算賞与の定義について知っておきましょう。
ボーナス(通常賞与)とは?
- 回数・支給タイミング:年1~2回で夏と冬が多い傾向。全賞与あわせて支給が年3回以下でないと報酬に区分される。
- 金額:企業によってまちまちだが、人数規模の多い方が高い傾向
- 就業規則や法令:法的義務はなく、法令で支給時期などは決められていない。就業規則に支給に関連する内容を明示。
ボーナスは一般的に「賞与」と呼ばれ、毎月の給料とは別にもらえる賃金のことを指します。給料とは異なり、支払いの法的義務はありません。就業規則に支給内容や支給額の決定方法・支給時期などを記述してあります。
多くは夏(6月)と冬(12月)に支給される傾向にあり、この時期に合わせて、多くの商業施設屋アパレル・ECサイトなどがセールを行っているため、賞与の支給時期を認識している人も多いでしょう。
また、ボーナスは景気に連動して支給金額が変わることも多いため、毎年のボーナス増減のニュースで景気のアップダウンを感じる人も多いのではないでしょうか。
金額については企業によって異なりますが、2019年の夏のボーナスは調査した全産業の平均が38万1520円。500人以上の規模は平均65万3688円、100名以上500人未満は43万1227円、30名以上~100名以下は33万1267円、5名以上30名未満は26万1268円と規模に応じて減少傾向が見られます。
冬の全産業のボーナス平均は38万9394円と夏に比べて多く、人数規模に応じて減少傾向となるのは同じでした。
※出典: 厚生労働省ホームページ「毎月勤労統計調査 令和元年9月分結果速報 表2 令和元年夏季賞与の支給状況」
※出典:厚生労働省ホームページ「 毎月勤労統計調査 令和2年2月分結果速報 表2 令和元年年末賞与の支給状況」
このデータから夏より冬のボーナスの支給額が大きく、人数規模が大きくなるにつれてボーナス額も増えていくという傾向が見て取れます。
決算賞与とは?
- 回数・支給タイミング:その企業の決算後の年1回。遅くとも決算日の翌日から1ヶ月以内。全賞与あわせて支給が年3回以下でないと報酬に区分される。
- 金額:業績・企業によってまちまち。
- 就業規則や法令:業績が良ければ支払う賞与。こちらも支払うための法的義務はない。支給する場合は、法令で支給時期が決められているためそれに従う必要がある。就業規則にも決算賞与の支給可能性と支給額決定時期・支給時期について明示する
決算賞与は通常賞与とは異なり、文字通り決算後に支払うのが特徴です。あくまで業績が良かった場合に支払う賞与であるため、通常賞与とは異なり、毎年支給する必要はありません。企業の業績によって支給するかどうか、支給額についても決められる賞与です。
全賞与あわせて支給が年3回以下でないと報酬に区分されると記述しましたが、これは日本年金機構の定時決定(算定基礎届)によって決まっています。
報酬に区分されると、賞与だとしても毎月の給料に上乗せして社会保険料が計算されます。その結果、保険料が高くなってしまうのです。会社と個人で半分ずつ負担するため、年3回以下の賞与支給にしなければ、負担する額が大きくなりますので注意しましょう。
決算賞与・ボーナスのメリット
ではここから決算賞与とボーナスのメリット・デメリットを詳しくご紹介します。まずはメリットからご紹介しましょう。
ボーナスのメリット:人件費を調整できる
ボーナスのメリットは毎月の給料とは違ってその額を変動させられることにあります。業績に応じて額を変えられるようにしておけば、業績不振でも融通をきかせた支払いが可能です。人件費がキャッシュを圧迫するような状況を避けられるため、業績不振の場合でも乗り切れるレベルの支給条件にしておくといいでしょう。
決算賞与のメリット:会社全体の士気が上がる
業績が良かったことに加えて決算賞与が出れば、「次もまた決算賞与が出るくらいの業績を上げよう」という気持ちが生まれ、会社全体の士気が上がるでしょう。副次的な効果として、全社で業績を上げるためにノウハウの共有や、仲間と協力する気持ちも醸成される可能性が高まります。
決算賞与のメリット:税額控除を受けられることがある
業績好調で決算賞与を出した場合、事業年度全体で会社全体の給与額が増える場合があります。
法人税には前年と比べて給与の支給額が増えたときに、条件に合えば税額控除を受けられる賃上げ税制もありますので、節税効果も期待できます。
しかしこの賃上げ税制はあくまで法人税での税額控除であり、決算賞与の支払いでまずキャッシュアウトが先にあることは忘れてはいけません。
決算賞与・ボーナスのデメリット
次に決算賞与・ボーナスのデメリットをご紹介します。
決算賞与・ボーナスのデメリット:キャッシュフローの一次悪化
キャッシュフローの一次悪化は、どちらにも共通するデメリットです。ボーナスは決まった時期に一気にキャッシュが出ていく形になるため、それを見越したキャッシュ管理が必要です。
決算賞与の場合は支払いの有無も決められてコントロールしやすいですが、手元のキャッシュが大幅に減ることには変わりありません。賞与を支払った後に残るキャッシュと、今後の支払いや予期せぬ出来事があった場合の余剰資金を確保しましょう。その上で支給額を決定しなければ、手元のキャッシュがなくなって倒産ということにもなりかねませんので、注意が必要です。
決算賞与のデメリット:離職の可能性が高まる
ずっと業績好調で決算賞与を支払い続けてきた企業が、業績不振になって決算賞与なしになった場合、決算賞与込みで生活をしてきた社員は離職を検討する可能性も考えられます。
リーマンショックやコロナ禍など世の中全体の景気が下がってしまう場合には、決算賞与が支払えなくなってもすぐ離職とはならないでしょう。しかし、その企業だけが業績不振で決算賞与が支払えないとなった場合には、離職され、競合に転職される可能性がありますので、注意しましょう。
決算賞与のデメリット:処理を誤ると損金に入れられない
税金計算上、原則として決算賞与は損金に入れることができます。しかし処理の方法を誤ると損金に入れられなくなることもあるため、注意が必要です。
今期末に決算賞与を払うキャッシュがない場合、未払い計上をしようと考える人も多いでしょう。しかし、以下3つの条件をクリアしていない場合は損金と認められません。
- ①賞与を支払う全従業員に対して、同時期に一人ひとり支給額を通知していること
- ②①で通知した全従業員に対して、金額を通知した日の事業年度終了の翌日から1ヶ月以内に支払っていること
- ③賞与支給額を通知した事業年度で損金処理をしていること
未払い処理のみで損金経理ができたと思いこむことのないよう、条件をよく確認して対応することが重要です。
出典:国税庁ホームページ No.5350 使用人賞与の損金算入時期
決算賞与の手続き方法をまとめてご紹介
では次に、決算賞与の手続きについてご紹介します。
賞与支払届の提出
賞与を支給するとき、協会けんぽの場合は年金事務所・事務センターのどちらかに賞与支払届と賞与支払届総括表を提出しなければなりません。協会けんぽ以外の場合はその企業グループ専用の健康保険があるため、日本年金機構とその健康保険組合に提出が必要です。また、賞与支払届総括表は賞与不支給の場合でも、賞与の支払い予定月に提出が必要です。不支給だからと提出を忘れないようにしてください。
先述したように年3回以下の賞与が提出対象で、支給日より5日以内の提出が義務付けられています。
社会保険料は標準賞与額(賞与総支給額の1000円未満切り捨て)に健康保険と厚生年金の保険料率をかけて計算され、その半額が企業負担となります。
厚生年金の保険料率は平成29年9月に一律18.3%になりましたが、加入している厚生年金基金によって免除保険料率(2.4%~5.0%)が変わります。また、健康保険は都道府県ごとに異なりますので、事前にチェックしておきましょう。
※参考:全国健康保険協会(協会けんぽ)「被保険者の方の健康保険料額(令和2年9月~)」
出典:日本年金機構ホームページ「被保険者賞与支払届 記入例」
出典:日本年金機構ホームページ「被保険者賞与支払届総括表 記入例」
申請の形式
管轄の年金事務所に窓口持参・電子申請・電子媒体申請をするか、郵送であれば管轄の事務センターへの提出となります。
出典:日本年金機構ホームページ「従業員に賞与を支給したときの手続き」、「全国の事務センター一覧(健康保険・厚生年金保険の適用に関する届書等を郵送される場合)」
電子申請・電子媒体申請の場合は下記のページから「GビズID」を使って電子申請・電子媒体申請が可能です。ご利用案内の動画も載っていますので、ぜひ参考にしてください。書面での提出に比べ、事務所などに出向く時間・郵送費・交通費などが節約でき、メンテナンス時期を除いて24時間いつでも申請が可能です。
申請する際の注意点
申請の際には、標準賞与額の上限を超えていないか事前の確認が必要です。年の累計額が健康保険は573万円以上、厚生年金は1ヶ月の合計が150万円という上限があります。健康保険の上限を超えた場合は「健康保険標準賞与額累計申出書」が必要です。厚生年金の上限を超えた場合は、150万円に保険料率をかけた額の半額が企業負担となります。金額が大きく変動する可能性がありますので、注意しましょう。
出典:日本年金機構ホームページ「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届」
まとめ
意外と知らないボーナスと決算賞与の違いやメリット・デメリット、詳しい手続き方法までまとめてご紹介しました。不支給の場合も手続きが必要であったり、支給金額の上限が設定されていたりと、見逃しがちなポイントも多いため注意しましょう。
どのような方法が会社にとってプラスとなるのかをよく理解した上で決算賞与支払いを行えば、会社の士気を上げられる良い方法となります。会社・従業員にとって良い結果を生むよう、うまく活用してください。