「労働者名簿」とは、従業員の氏名などが書かれた名簿のことをいいます。労働者名簿は人事管理を行ううえで非常に重要な書類です。この労働者名簿の持つ意味と労働者名簿の書き方、そして労働者名簿のテンプレートを紹介します。
従業員一人ひとりの情報を記載した「労働者名簿」は、数ある書類のなかでも非常に重要な意味を持ちます。これを元として交通費を計算などを行います。労働者名簿は必ず作成しなければならない書類なのです。
ここではこの労働者名簿の意味と運用方法をお教えするとともに、労働者名簿の書き方やテンプレートを紹介していきます。また、労働者名簿の保管期間などについても取り上げます。
労働者名簿は「法定三帳簿」の一つであり非常に重要な意味を持つ
労働者名簿は、従業員の名前や住所、性別や生年月日、雇用年月日などを記した書類をいいます。
この書類は非常に重要なもので、「法定三帳簿」のうちの一つと数えられています。なお「法定三帳簿」とは、労働基準法によって、「どのような規模の会社であっても必ず作らなければならない」と決められている帳簿です。
【法定三帳簿の種類】
- 労働者名簿
- 賃金台帳
- 出勤簿
労働者名簿はどんな会社でも作らなければならないものです。だれか1人でも従業員を雇っているのならば必ず作成しなければならないもので、これが作られていない場合は30万円以下の罰金が科せられます。内容も正確で、落としがないものであることが求められます。
(法令の根拠:労働基準法107条、108条、109条、120条など)
労働者名簿は従業員一人ひとりの情報を記載するものです。正社員はもちろんのこと、アルバイトであっても記載しなければなりません。日雇い労働者以外の従業員はみんなこれを記載する必要があります。
なお、労働者名簿を書くのは原則として「従業員本人」ではありません。労働者名簿を作成するのは、労務を担当する部署です(労務部や労務課。ただし、経理や総務が行うこともある)。
現状では従業員本人に記入させる会社もありますが、それをきちんと整理し、作り上げるのは労務担当の役割です。また、保管は各事業場で行います。労働者名簿は個人情報そのものなので、慎重に取り扱わなければなりません。
労働者名簿に必要な要点とはどんなもの?~労働者名簿のテンプレート
労働者名簿は、単純に名前だけを記せばいいというものではありません。労働者名簿に記すこととして、以下の要項が挙げられます。
【労働者名簿の記載事項】
- 名前
- 生年月日
- 性別
- 住所
- 業務の内容や種類
- 従業員の履歴
- 雇用した日
- 退職した日と退職事由
- 死亡した日と死因
それぞれ解説していきます。
名前
「名前」は、個人を識別するための大元となるものです。フルネームで書きましょう。また、ふりがなをふるのが望ましいといえます。
生年月日
生年月日を記します。生年月日は西暦(例:2020年)でも和暦(元号。例:平成)でもどちらでも構いません。ただ、「雇用した日」は和暦で生年月日は西暦で……となると分かりにくいので、どちらかに統一する方がよいでしょう。
性別
男性か女性かのいずれかを記します。現在は会社側からもLGBTに対する配慮をという声が上がっており、「男女に分けられない性別」の記載についての議論が上がっています。ただ現状としては、未だ「戸籍上の性別」に従って記載することが一般的なようです。
住所
現住所を記します。番地やアパート名なども略さず、すべて記すようにします。
業務の内容や種類
業務の内容や種類を簡単に記します。たとえば、「経理」「事務」「技術者」などです。一目見ただけで、だいたいの業務内容が把握できるように簡潔に記しましょう。
ただし、この項目は一部の条件下(労働者の数が29人以下の事業所)の場合は記入しなくてもよいと労働基準法によって定められています。
従業員の履歴
書くべきなのは、「その従業員の立場が、会社内でどのように変わっていったか」です。たとえば昇進したときや異動したときなどにこれを記します。
これは任意での記入となりますが、その従業員の学歴などを記すこともあります。学歴を記す場合は最終学歴のみとし、それ以前の学歴は記さないケースが多いといえます。また、その会社に入った後の履歴だけでなく、社外での履歴を記すこともあります。
雇用した日
雇用した日を記します。「生年月日」のところで触れたように、西暦・和暦の表記はほかの項目と統一するようにします。
退職した日と退職事由
盲点になりがちなのですが、労働者名簿は「現在進行形でその会社で働いている人」のことだけを記録するものではありません。「以前にその会社で働いていて、なんらかの理由でその会社から離れた人」についても記載する必要があるものなのです。
そのため、退職した日も書き加えることになります。またその退職の理由が、いわゆる「解雇」の場合はその旨を明記しなければなりません。
死亡した日とその死因
その会社に在籍している間に不幸にも亡くなってしまった場合、その亡くなった日を記す必要があります。また、亡くなった理由も書く必要があります。
これは単純に「亡くなった事実だけ」記載されるものではないからです。死因をしっかりと記すことで、「亡くなった原因が労災(労働災害。業務中あるいは通勤途上などに起きたけがや死亡などのこと)であるか否か」を判別できるようにしているのです。
労働者名簿には、この9つの要点が記されます。
労働者名簿のテンプレート
下記にわかりやすく労働者名簿のテンプレートを記載しておきます。参考にしてください。
労働者名簿の管理と更新
労働者名簿に「従業員の履歴」があることからわかるように、労働者名簿は「一度作ってしまえば終わり」というものではありません。必要に応じて更新する必要があります。また、「退職した日と退職事由」を書く欄がある通り、労働者名簿は「職場から去ったらすぐに捨ててよいもの」でもありません。
労働者名簿の更新のタイミングについて
労働者名簿は、基本的には「変更があったら、そのときにすぐに更新するべきもの」です。これは労働基準法によって定められています。
「一定の期間が過ぎたら見直しを行う」「定期的に見直しをし、変更があった場合に書き直す」とした方が楽だ……と感じる人もいるかもしれませんが、実際には「変更があったときには遅滞なく更新する必要があるもの」なのです。また、毎回きちんと更新することで、「更新を忘れていた」「更新の落とし」も生じにくくなります。
労働者名簿は、パソコン(電子データ)で保存することもできます。印刷するための機械があり、かつ労働基準監督署に求められた場合はすぐに提出できるようにしておくことが条件ですが、パソコンで管理しているのであれば更新は容易です。
ただ、現在も労働者名簿を紙で管理している会社もあるでしょう。
その場合は紙に訂正阡(二重線)を引き、更新情報を書き加えます。この際には、訂正印も忘れずに押さなければなりません。
いったいいつまで? 労働者名簿の保管期限
労働者名簿の保存期間は、法律によって「3年間」と明確に決められています。
注意してほしいのは、この「3年間」は「従業員が会社に入ってきてからの3年間」ではなく、「従業員が退職(あるいは死亡)してから3年間」です。つまり、2020年に退職した従業員の労働者名簿は、2023年まで保管しておかなければならないのです。
この「3年間の保管期間」は、法定三帳簿で共通した数字です。ただし「3年間」の意味は、それぞれの帳簿で異なります。賃金台帳については「その従業員の給与についての記載を行ってから3年間」となっていて、労働者名簿とはまた「3年間」の定義が異なります。混同しないようにしたいものです。
また、退職した人の労働者名簿は、現在働いている人の労働者名簿と分けて保存するとよいでしょう。
労働者名簿の目的
労働者名簿は、「一人ひとりの分を作成しなければならない」「変更があったらすぐに更新しなければならない」「辞めた(亡くなった)後でも3年間は保管しなければならない」ということから、非常に面倒なものに思われがちです。
しかし労働者名簿には、「適切な労務管理を行えるようにする」という目的があります。
労働者名簿により、それぞれの従業員がどこに住んでいてどのように働いているかがわかります。それによって通勤のための交通費を算出しやすくなります。また、「会社に来る最中に事故にあった」と主張する場合、その従業員の住んでいるところと会社までの経路と照らし合わせ、労災にあたるかどうかを判断することもできます。
労働者名簿は、労務管理のあらゆるところに関わってくる重要な書類なのです。
労働者名簿はフローを決めて作成・管理を
労働者名簿は、1人以上の従業員を持つ会社が作らなければいけない法定三帳簿のうちの一つです。従業員の名前や住所、性別や過去事由や死亡事由、業務内容や履歴を記したこの書類は、適切な労務管理を行うために欠かすことのできない書類だといえます。
労働者名簿は、テンプレートに添って書いていけばそれほど難しいものではありません。なおテンプレートはその内容を統一し、労務課(など)で作成するようにします。変更があった場合は速やかに更新し、常に最新の情報が書かれているようにしなければなりません。また労働者名簿は、「その事業所を(退職や死亡というかたちで)去った場合」であっても、3年間の保存義務があります。
この点に留意し、労働者名簿を適切に管理しましょう。