従業員の職業訓練やキャリアアップに活用できる制度として、人材開発支援助成金があります。人材育成には多少なりとも費用がかかるものですが、助成制度を利用すれば、従業員の職業能力開発を促進する場合、かかる経費や賃金の一部の支給を受けられます。費用負担を押さえつつ、従業員のスキルアップを図ることができるでしょう。また、人材開発支援助成金にはいくつかコースが用意されています。この記事では、人材開発支援助成金の概要や各コースの助成率、助成額などをご紹介します。なお、新型コロナウィルス感染拡大により、人材開発支援助成金にも執筆時点(2020年5月13日)以降、変更が出る可能性があります。申請時は税理士等外部専門家にも相談しつつ準備を進めましょう。
人材開発支援助成金の概要
人材開発支援助成金は、企業の生産性や経済の活性化を図るため、職業能力開発の促進を目的とする助成制度です。対象者は、中小企業の事業主や事業主団体、または中小建設事業主団体、および雇用保険の被保険者です。この場合の被保険者は、正規雇用の従業員が該当し、非正規雇用の従業員は含まれません。
この助成金では、職務に関連する専門知識や技術などを、従業員に対し机上研修(OFF-JT)や実施研修(OJT)等を通して習得させるときに会社が負担する、訓練費用や賃金の一部の支給が受けられます。助成対象となる職業訓練・人材育成制度は、7つのコースに分かれています。
【人材開発支援助成金のコース】
- 特定訓練コース
- 一般訓練コース
- 特別育成訓練コース
- 教育訓練休暇付与コース
- 建設労働者認定訓練コース
- 建設労働者技能実習コース
- 障害者職業能力開発コース
特定訓練コース
特定訓練コースは、職業能力開発促進センターなどが実施する職業訓練や、事業分野別指針に定められた事項に関する訓練に対して助成されます。また、専門実践教育訓練や、特定一般教育訓練、生産性向上人材育成支援センターが実施する訓練なども対象になります。OJT(実地研修)とOFF-JT(机上研修)にかかった費用の、それぞれに助成金が支給されます。
対象 | 中小企業、中小企業以外の企業、事業主団体等 |
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助成内容 | 10時間以上の人材育成訓練 |
助成内容例 |
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助成額(中小企業の場合) |
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一般訓練コース
一般訓練コースとは、特定訓練コース以外の訓練が該当するコースです。通信制等(e-ラーニングを含む)によって実施される訓練が対象となるため、助成金はOFF-JT(机上研修)のみに支給されます。
対象 | 中小企業、事業主団体等 |
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助成内容 | 他のコースに当てはまらない人材育成訓練(20時間以上)の実施 |
助成額(中小企業の場合) | OFF-JT(机上研修)を行った場合:経費助成30%、賃金助成380円/時・人 |
教育訓練休暇付与コース
教育訓練休暇付与コースは、事業主が有給教育訓練休暇制度や、120日以上の長期教育訓練休暇制度を導入し、労働者が当該休暇を取得して訓練を行った場合に助成されるコースです。なお、有給教育訓練休暇制度は、労働者が教育訓練を受けるために一定期間職場を離れることを認め、さらに訓練中の給与を支払う休暇制度です。
対象 | 中小企業 |
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助成内容 | 有給教育訓練休暇制度の導入を行い、それを利用して労働者が訓練を受けた場合 |
助成額(中小企業の場合) | 定額助成30万円 |
特別育成訓練コース
特別育成訓練コースとは、以前はキャリアアップ助成金の人材育成コースとして行われていたコースです。有期契約労働者等の人材育成に取り組んだ場合に助成されます。OJT、OFF-JTともに助成の対象となります。
対象 |
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助成内容例 |
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助成額(中小企業の場合) |
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建設労働者認定訓練コース
建設労働者認定訓練コースは、以前まで建設労働者確保育成助成金だったコースです。建設関連の認定職業訓練や、指導員訓練を行った場合が対象となります。
対象 | 中小建設事業主、中小建設事業主団体(経費助成のみ) |
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助成内容 | 職業能力開発促進法による認定職業訓練または指導員訓練のうち、建設関連の職業訓練 |
助成額(中小企業の場合) |
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建設労働者技能実習コース
建設労働者技能実習コースも、以前は建設労働者確保育成助成金でしたが、新設されたコースです。このコースでは、労働安全衛生法による教習および技能講習、特別教育、職業能力開発促進法に規定する技能検定試験のための事前講習、建設業法施行規則に規定する登録基幹技能者講習が助成対象となります。
対象 | 中小建設事業主および事業主団体、中小以外の建設事業主および事業主団体(※支給対象は女性労働者に限る) |
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助成内容 | 労働安全衛生法による教習や技能講習、特別教育、職業能力開発促進法による技能検定試験のための事前講習、県セグ業法による登録基幹技能者講習 |
助成額(中小企業の場合) |
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障害者職業能力開発コース
障害者職業能力開発コースは、障害者職業能力開発訓練施設等の設置や、障害者職業能力開発訓練運営の人件費、教材費等が助成対象となるコースです。該当します。
対象 | 事業主、事業主団体 |
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助成内容 | 障害者職業能力開発施設設置にかかる費用等 |
助成額(中小企業の場合) |
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人材開発支援助成金の手続きの流れ
人材開発支援助成金の申請から受給の流れは、各コースによって異なるものの、基本的には以下のように進んでいきます。
- 訓練計画書を提出する
- 訓練を実施する
- 支給申請書を提出する
- 助成金を受給する
まずは訓練計画を作成し、提出します。提出は訓練を開始する1か月以上前に行いましょう。提出先は各都道府県の労働局です。ただし、特定訓練コースについては、訓練計画書を提出する前に、厚生労働省へ計画書の認定申請をしてから、労働局へ訓練計画書を提出する必要があります。なお、労働局へ提出する書類は、厚生労働省のサイトからダウンロードが可能です。
計画書を提出したあとは、訓練計画書等に則り、訓練を実施します。訓練が終了したら、終了日から2ヶ月以内に支給申請書と必要書類を各都道府県の労働局へ提出します。その後、支給審査が行われます。審査の結果支給が決定すれば、助成金が事業主の指定した口座へ振り込まれます。
人材開発支援助成金申請時の注意点
人材開発支援助成金を申請する際はいくつか注意したいポイントもあります。スムーズな申請をするために、不明点を含め税理士や各種専門家等に相談しつつ、準備を進めましょう。
申請は最低適用人数に達していることが必要
人材開発支援助成金の申請は、最低適用人数に達している必要があります。最低適用人数は、雇用保険の被保険者数によって異なるため、訓練計画書を提出する前に確認しましょう。
被保険者数 | 最低適用人数 |
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20人未満 | 1人 |
20人以上30人未満 | 2人 |
30人以上40人未満 | 3人 |
40人以上50人未満 | 4人 |
50人以上 | 5人 |
なお、申請時には、雇用保険の被保険者数分の雇用契約書も提出する必要があります。また、複数のコースを申請することは可能ですが、支給対象者が重複する場合、どちらか一方のみの受給となります。
職業能力開発支援推進者の選任が必要
人材開発支援助成金は、職業能力開発推進者の選任も必要です。職業能力開発推進者は、訓練計画書の作成や実施、相談、指導などを行う役割があります。担当者の選任にあたって、厚労省のサイトでは、教育訓練部門の部課長、労務人事、総務担当部課長等が望ましいとしています。
助成金の支給は研修終了後
助成金全般に共通することですが、人材開発支援助成金は研修が終了後、所定の手続きを終えてからでないと受給できません。その間、従業員への給料等は先に支払うことになることも留意しておきましょう。
まとめ
人材開発支援助成金は、従業員のキャリアアップを目指す中小企業や事業主にとって、メリットのある助成金といえます。従業員が専門的な知識や技術を身に着けることで、会社としても生産性や成長性の向上を期待できるでしょう。人材開発支援助成金の制度には、さまざまなコースがあります。細かい支給要件はそれぞれ異なるので、申請の際は税理士等外部専門家にも相談しながら準備を進めていきましょう。