税金・税務

赤字決算への対策法|デメリットや費用計上などの具体案について解説

赤字決算への対策法|デメリットや費用計上などの具体案について解説

企業の経営状態によっては、ときに赤字決算となるケースも珍しくありません。赤字決算による信用低下やキャッシュ減少などのデメリットが大きい場合は、赤字決算に対する対策を講じる必要があります。

当記事では赤字決算への対策方法について具体的に解説します。

赤字決算とは?

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赤字決算とは、ある一定期間(事業年度など)の支出が収入を超えてしまい、利益が一切発生していない状態のことです。逆に利益が出ている場合は、黒字決算と呼びます。

赤字は単純費用・損失が売上を上回る不健全な経営状態を表すこともありますが、創業時の初期費用や設備投資などの影響で、一時的に赤字であるケースもあります。赤字だから必ず倒産する、債務超過に陥るというわけではありません。

東京商工リサーチや国税庁の調査によると、日本の赤字法人の割合は60~70%で推移しています。例えば2021年度の「国税庁統計法人税表」では、赤字法人の割合が61.7%となっています。

このように、赤字決算自体は珍しくありません。むしろ費用計上や設備投資を税法の範囲内で工夫し、法人税節税や赤字繰越制度の活用などを行うことで、翌年以降の経営に備える戦略もあります。

とはいえ決算が赤字のまま放置していると、キャッシュフローの悪化や信用低下などの悪影響により、経営悪化や倒産につながるリスクが高くなります。意図せずに赤字決算が続くようであれば、早急な改善が必要になるでしょう。

赤字決算のデメリット|回避すべきケース

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一時的な支出や創業赤字、計画的な赤字などではなく、経営状態の悪化による慢性的な赤字を放置していると、さまざまなデメリットが発生します。以下に紹介するデメリットを誘発する赤字決算が見込まれる場合は、事前に対策を講じましょう。

金融機関や取引先・顧客・従業の信用低下

1つ目のデメリットは、金融機関や取引先・顧客からの信用が大きく低下する点です。理由のない継続的な赤字による信用低下は、企業にとって非常に大きなダメージになります。

特に金融機関からの信用が失われると、融資審査の通過や追加融資の申し込みなどに支障をきたす可能性があります。融資が打ち切られ、返済を求められるケースもあるでしょう。株式会社の場合、投資家の株主が資金を引き上げるリスクもあります。

従業員からも「自分は赤字の会社で働いているんだ」と判断されることで、モチベーションの低下による生産性低下や、離職者の増加などのトラブルにつながる可能性が高くなってしまいます。

キャッシュの枯渇による倒産リスク

2つ目のデメリットは、キャッシュの枯渇による債務超過・倒産のリスクです。赤字によって直ちに倒産するわけではないものの、企業のキャッシュがマイナス収支になっていることが倒産のリスクであることは間違いありません。

経営においてキャッシュは非常に重要です。一度でも取引先への不渡り・報酬未払いや、従業員への給与未払いが発生すると、倒産や労働基準法違反などにつながる可能性があります。

赤字決算の対策1|費用計上額を減らす

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赤字決算の具体的な対策として、費用計上額を減らす方法が挙げられます。「過剰に計上している経費はないか」「債務の状態はどうなっているか」などを見直し、適切な経理処理を行うことで、収支のバランスを整えられます。

ただし、粉飾決算・架空の利益計上などの違法行為は避けましょう。あくまで正しい会計・税務処理によって費用計上額の見直しを行います。以下では、比較的減らして計上しやすい費用を解説します。

前払費用を適切に計上する

前払費用とは、継続的なサービスの提供などに関する契約を行った際、まだ提供されていない役務を先払いした金額のことです。

保険料やサービスの年会費を支払う場合、事業年度にまたがった料金をまとめて支払うケースが多いです。例えば3月決算で8月末に年会費を支払い、全額費用計上したと仮定します。この場合、9〜3月は役務の提供を受けていますが、翌事業年4〜8月の役務を受けていない部分まで計上する状態になります。

そこで4~8月分の金額を、前払費用の勘定科目を使い資産として貸借対照表に計上することで、前払費用分の資産を利益として申告が可能です。

年会費が24万円と仮定すると、9~3月の14万円は当期の費用、来期分の4~8月の10万円は当期に限り資産として処理します。来期に入った時点で、資産に計上した前払費用を、あらためて費用に振替えます。

前払費用の対象になる費用は、保険料、家賃、従業員のセミナー料金、信用保証料などです。

消耗品にかかった金額を費用以外で計上する

消耗品を購入した場合、本来は消耗品費として費用計上します。もし消耗品費以外で計上できるものがあれば、費用の金額を減らすことができます。

例えば、未使用の消耗品は在庫として資産計上が可能です。また、10万円以上の物品を工具器具備品で資産計上した場合は、減価償却によって数年にわたり減価償却費で処理することも可能です。

債務関係をチェックする

企業が計上している債務関係のうち、支払う必要がないものや過大に計上しているものをチェックし、整理しましょう。例として次のものが挙げられます。

  • 未払金や買掛金などの中で、支払う必要がなくなったものがないかを確認し、伝票削除、外注費の逆仕訳などの振替を行う(取引先の確認が必要)
  • 仮の金額として計上していた預かり金や仮受金のうち、支払う必要がないものについて雑収入への振替を行う
  • 役員からの借入金を免除してもらうなど、債権者が無償で債券を消滅させる債務免除益を計上できないか検討する

減価償却費の計上をストップする

企業が計上する減価償却費は、償却限度額の範囲内において計上するかしないかを任意に選択できます。減価償却費の計上をストップすることで、費用分を利益として処理できます。

赤字決算の対策2|すぐに利益として計上できる方法を実行する

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赤字決算の対策として、費用の計上額を減らすだけでなく、直ちに利益として計上したり負債を減少させたりできる方法を実行しましょう。例えば、次の方法が考えられます。

  • 不動産などを売却し、経常利益として計上する
  • リースバック(物件を売却し、その後リース契約で売却した物件に住むこと)を利用する
  • 資本性劣後ローン(純資産として扱うローンのこと)などを利用し、債務超過を防ぐ
  • まだ回収していない売掛金や受取利息を確認し、回収期限を早めたり未回収分を受け取ったりできないか確認する
  • まだ支払っていない買掛金や支払利息を確認し、支払期限を遅くできないか交渉する
  • ファクタリング(要している債権を売却し、資金調達を行う)によって、未回収分の債権を現金化する

赤字決算の対策3|あえて赤字決算のメリットを活かす

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原則として赤字決算は、周囲のステークホルダーからの評価を低下させます。しかし、赤字は企業にとってデメリットばかりではありません。あえて赤字決算で申告することで、税制面でのメリットを受けられる可能性があります。具体的な対策は次のとおりです。

  • 赤字だと課税所得が発生しないので、原則として法人税や所得税の納税額を抑えられる
  • 繰越欠損金控除の制度を利用し、最大で10年間赤字を繰り越すことで、翌事業年度以降の黒字と相殺できる
  • 欠損金の繰戻しによる還付の制度により、赤字を繰り戻すことで前年度に納めた法人税の還付を受けられる

前年度以前が大幅黒字でかつ経営に余裕がある場合は、赤字になった期に経費や損失などのマイナス要素を出し尽くし、繰越制度や法人税節税によって来期以降の黒字転換対策を行うのも1つの戦略になります。

ただし、税負担を逃れる目的で故意に赤字を仮装していると認められた場合は、修正申告や追徴課税などの措置を取られる可能性があります。赤字申告法人に対する税務調査は少ないと言われているとは言え、実際には行われているのが実情です。違法行為やグレーゾーンでの節税による赤字決算は避けるべきでしょう。

また、赤字決算のメリットを意識しすぎてキャッシュ・信用不足による経営難となるのは本末転倒です。赤字決算による税制度を利用する場合は、自社の経営状態やキャッシュフローとの兼ね合いを分析しておいてください。

根本的な赤字決算の改善は日々の経営見直しが大切

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赤字決算への対策によって、一時的にキャッシュフローや貸借対照表・損益計算書のバランスを改善できます。しかし、もし根本的な経営難による売上減少や経費増加などがある場合は、今回紹介した赤字決算対策だけでは問題の解決は困難です。

意図しない赤字が続く場合は、赤字決算の見直し以上に日々の経営見直しが重要になります。中小企業診断士・税理士などの専門家や、経営コンサルティング会社などに経営の相談を行い、黒字化のための経営戦略・生産計画を練り直すことをおすすめします。

企業の教科書
高桑 哲生
記事の監修者 高桑 哲生
税理士法人 きわみ事務所 所属税理士

税理士法人きわみ事務所の所属税理士。
「偉ぶらない税理士」をモットーに、お客さんに喜んでもらえるサービスを提供。
税務処理だけでは終わらない、プラスアルファの価値を提供できる税理士を目指す。

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