2020年から2021年頃には、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響により、都道府県をまたぐ移動を自粛するように要請されました。予定されていた出張のキャンセルを余儀なくされたビジネスパーソンも多いでしょう。
また、それ以外でも急な予定変更や日程変更などにより、予約していた出張を中止することがあります。出張にかかる費用をすでに支払っていた場合にはキャンセルの手続きが必要です。
その際に発生するキャンセル料の仕訳、正確にできていますか?間違っている人が多いのですが、支払った時の反対仕訳をするだけでは正しくありません。
ここでは、正しい仕訳方法を詳しくご紹介。消費税の正しい取り扱いも確認しておきましょう。
出張の数が少ないこの時期だからこそ、出張旅費規程を見直しておきたいという方は「【初心者向け】出張旅費規程とは?節税や管理簡素化に活用しよう」の記事を参考にしてみてください。
キャンセル料の会計処理の正解は?全額返金の場合
キャンセルにより旅費等が全額返金になった場合は、シンプルに予約時の反対仕訳を入れます。次のように仕訳をおこないましょう。
借方 | 貸方 |
現金(普通預金、等) | 旅費交通費(出張旅費、等) |
※出張費用を支払った時の仕訳は以下の通りです。
借方 | 貸方 |
旅費交通費(出張旅費、等) | 現金(普通預金、等) |
一方で、一部のみ返金があり、キャンセル料として費用を徴収された場合には、反対仕訳だけでは仕訳できません。具体的な仕訳については次章でご紹介します。
一部・全額キャンセル料として徴収された場合の会計処理
出張のキャンセルにともない、一部または全額をキャンセル料として徴収されることがあります。このような場合には、予約時の反対仕訳だけでは仕訳できません。
また、いくつかのチェックポイントがあるため、順番にみていきましょう。
出張のキャンセル料を徴収された際に使う勘定科目
キャンセルのためにかかった費用を計上する場合、使用できる勘定科目はいくつかあります。具体的には以下のような科目を使うことが多いです。
- 支払手数料
- 雑費
- 雑損失
どの勘定科目を使うかは企業、または取引内容によって変わります。自社の経理ではどれを使ってきたのか確認しておきましょう。もし、初めての出来事であれば今後の仕訳では統一することを忘れずに。
キャンセル時に確認すべき支出内容とその理由
キャンセルのためにかかった費用を計上する場合、支払った費用が以下のどちらによる支出なのかを明確にする必要があります。
- 解約にともなう事務手数料
- 逸失利益に対する損害賠償金
まず、解約にともなう事務手数料とは、解約手続きをするうえで必要になる事務に対する対価のこと。解約(キャンセル)の時期にかかわらず一定額を徴収される場合は事務手数料に該当します。
逸失利益に対する損害賠償金とは、本来得られたはずの利益がなくなったことに対する補填金です。たとえば、出発日の何日前のキャンセルかによって変動するキャンセル料は損害賠償金に該当します。
また、事業者がどちらかをはっきりさせずにキャンセル料を徴収している場合には、損害賠償金として全額取り扱うこととされています。
(参考:「No.6253 キャンセル料|国税庁」)
なぜこのように徴収された理由を明確にする必要があるかというと、課税パターンが変わってくるから。キャンセル料に関する仕訳で使う消費税の取り扱いは2パターンあります。
- 課税処理
- 不課税処理
解約にともなう事務手数料は課税処理をおこない、損害賠償金としてのキャンセル料の場合は不課税処理です。このように、どちらによる支出なのかによって消費税の取り扱いが変わってきます。
おざなりな処理をおこなってしまうことで、税務調査等で指摘される可能性も。不適切会計として指摘されることがないように、しっかりと判別して処理をおこないましょう。
不適切会計について押さえたい方は「不適切会計の事例や防止策とは?不適切会計はミスでも罪に問われる!?」の記事も確認してください。
出張中止でキャンセル料を支払った場合の仕訳方法
それでは、具体的な仕訳方法をご紹介しましょう。
使用する勘定科目は先ほどもお伝えしたように次のようなものがあります。
- 支払手数料
- 雑費
- 雑損失
課税処理をする取引の場合には、支払手数料や雑費を使うことが多いです。不課税処理の場合には雑費または雑損失を使います。
この点をおさえたうえで、一部返金があった場合と全額支払った場合の2パターンの仕訳方法をみていきましょう。
一部返金があった場合の仕訳
まずは一部返金があり、差額をキャンセル料として徴収された場合をみていきましょう。
例として、10万円の旅費のうち、3万円だけ返金になり、残りをキャンセル料として支払った場合をご紹介します。
<解約にともなう事務手数料=課税処理>
・税抜方式の場合
借方 | 貸方 | ||
現金(普通預金、等) | 30,000 | 旅費交通費(出張旅費、等) | 100,000 |
支払手数料・雑費【課税】 仮払消費税 |
63,637 6,363 |
・税込方式の場合
借方 | 貸方 | ||
現金(普通預金、等) | 30,000 | 旅費交通費(出張旅費、等) | 100,000 |
支払手数料・雑費【課税】 | 70,000 |
<逸失利益に対する損害賠償金=不課税処理>
借方 | 貸方 | ||
現金(普通預金、等) | 30,000 | 旅費交通費(出張旅費、等) | 100,000 |
雑損失【不課税】 | 70,000 |
全額キャンセル料として支払った場合の仕訳
次にすべてをキャンセル料として徴収された場合をみていきましょう。
10万円の旅費のすべてキャンセル料として支払った場合は次の通りです。
<解約にともなう事務手数料=課税処理>
・税抜方式の場合
借方 | 貸方 | ||
支払手数料・雑費【課税】 仮払消費税 |
90,910 9,090 |
旅費交通費(出張旅費、等) | 100,000 |
・税込方式の場合
借方 | 貸方 | ||
支払手数料・雑費【課税】 | 100,000 | 旅費交通費(出張旅費、等) | 100,000 |
<逸失利益に対する損害賠償金=不課税処理>
借方 | 貸方 | ||
雑損失【不課税】 | 100,000 | 旅費交通費(出張旅費、等) | 100,000 |
なお、事務手数料に当たるのか損害賠償金に当たるのか、事業者がはっきりさせずにキャンセル料を徴収している場合には、全額不課税として処理して問題ありません。
出張がキャンセルになったら徴収された理由を明確に
感染症の拡大が落ち着いたとしても、急な予定変更や日程変更などで出張がキャンセルになることはあるでしょう。そのような場合、安易に反対仕訳を入れてはいけません。
まずは、キャンセル料として徴収された費用の目的をはっきりとさせましょう。解約にともなう事務手数料であれば課税処理、損害賠償金としてのキャンセル料の場合は不課税処理となり、目的によって消費税の取り扱いが変わるからです。
間違った処理をすることにより、消費税の申告に影響してきます。うっかりミスで、脱税疑惑や不正会計の疑いをかけられることがないように、しっかりと確認しましょう。
仕訳自体はそれほど難しい内容ではないので、消費税の取り扱いだけ気をつければ問題なく処理できるはずです。
消費税の取り扱いについて不安を覚えたら税理士に相談してみるのも手。相性のいい税理士選びをしたいなら「税理士選びで失敗しない6つのポイントとは?契約前に選び方を確認!」の記事をチェックしてください。