仮払金は日々の経理処理をするときに一時的に振替できる便利な勘定科目です。出張旅費や取引先の接待交際費など仮払金勘定を使う場面は多々あります。ただ、気になるのは決算のとき。仮払金勘定が決算書上にあってもいいのかどうかは、気になるポイントでしょう。
決算前に仮払金がきちんと精算できているかについて、経理担当者はチェックする必要があります。この記事では仮払金勘定の基本的な考え方や仮払金に関する仕訳、決算書作成時に気をつけるべき点などを解説します。
仮払金は一時的に使う勘定科目
仮払金の基本的な考え方や、財務諸表上での位置づけ、仮払金勘定を使うメリット・デメリット、経理でおこなう実際の仕訳、注意すべき点についてみていきます。仮払金の支払いおよび精算時の入出金のときに、経理担当者がおこなう仕事の理解につながるので、まずはご覧になってください。
仮払金とは
仮払金は社員が自費で立て替えるのではなく、会社が前もって概算で渡した金額を振替するときに使う勘定科目です。会社では社員の出張旅費や顧客接待費、慶弔費、消耗品の購入など、使途や金額が事前に確定しない場面は多々あります。経理担当者は出金伝票を起票しますが、相手科目は出金時点では不明なため仮払金とするのです。
財務諸表上での仮払金は?仮受金との違い
財務諸表のなかで、仮払金は貸借対照表の「資産の部」の内、「その他の流動資産」に分類されます。経理上、短期貸付金としての性格があり、短期間の内に現金化されるものとして扱われます。
よく似た科目に仮受金がありますが、仮払金とは反対の短期借入金としての性格を持ちます。勘定科目が不明なときに使い、あとで本科目への振替が必要な点は仮払金と同じです。預り金と似ており、従業員の給料から社会保険料や源泉徴収税、住民税を天引きするときなどに使われます。
仮払金勘定を使うメリットとデメリット
仮払金は経理上よく使う勘定科目ですが、メリットとデメリットがあります。仮払金はあくまでも「仮」である、という観点に立って考えなければなりません。
仮払金のメリット
社員にとっては、必要な経費を立て替えずにすむため、お金のことを気にせず安心して業務に専念できる点がメリットです。また経理担当者も現金勘定を一日の最後に確定させなければならないため、出金した際には必ず仕訳が必要で、一時的に使う科目としてすみやかに計上できる便利さが最大のメリットです。
仮払金のデメリット
社員は仮払金を受け取るために、職場の上長や経理に申請をする必要があります。また、経費の金額が確定したときにも承認を得なければならないため、事務処理が二度手間になる点はデメリットといえるでしょう。同じことは経理担当者にもいえます。出金時と精算時の両方でお金のやりとりがあるため、事務量は倍になるからです。
さらに、社員と経理担当双方にいえることですが、精算を忘れてしまい決算前までそのままといったケースもあります。使い込みといった不正に繋がる場合があるかもしれません。経理担当者は精算漏れがないかどうかチェックして、忘れている場合は社員に促しますが、お互いにあまり気持ちのよいものではありません。
仮払金の支払時と精算時の仕訳と注意点
たとえば社員が出張したときに仮払金を6万円渡したときと、帰社後精算したときの仕訳は以下のようになります。
仮払金支払時
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
仮払金 | 60,000 | 現金 | 60,000 |
仮払金精算時
社員が交通費と宿泊費を5万円と顧客との食事代を8000円使ったときの仕訳です。
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
旅費交通費 | 50,000 | 仮払金 | 60,000 |
接待交際費 | 8,000 | ||
現金 | 2,000 |
顧客との食事代が1万2000円かかってしまい、仮払金が足りなかった場合の仕訳は、以下の通りです。
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
旅費交通費 | 50,000 | 仮払金 | 60,000 |
接待交際費 | 12,000 | 現金 | 2,000 |
仕訳時の注意点
仮払金の仕訳をおこない、会計ソフトに入力するときには、備考に「誰に」「何の目的で」支払ったのかを明記します。仮払金の精算は現実に支払ったあと、すみやかにおこなうべきですが、忘れてしまうことは誰にでも起こりうるからです。
経理担当者は、できれば月次決算前には総勘定元帳の仮払金勘定を見直し、精算漏れがないことを確認します。毎月精算することで、半期決算前や年次決算前に慌てなくてすみます。確認するとき、備考にきちんと情報が記載されていれば簡単に仮払金を渡した人に精算を促せます。
決算前には仮払金勘定の残高をチェックする
仮払金はひとつの会計期間の期中に、一時的に使う勘定科目です。できれば毎月決算前に残高がない状態にしておけば何も問題はありません。ですが、出張などの場合は月をまたいでしまうことも多いです。場合によっては、期末をはさんでしまうこともあります。もしも仮払金として決算書に計上されたままの場合のデメリットや、決算前におこなうべきことについて説明します。
決算書に仮払金勘定があるとどうなる?
決算書に仮払金の未精算残高があるとさまざまなデメリットがあります。会社が決算書を開示する主な相手は、税務署と金融機関です。それぞれについて、仮払金の未精算分に対する見方やそこから派生するデメリットについてみていきます。
税務署は正しく税金を納めているかを調べる
税務署は正しく収益や費用が計上されているか、すなわち適性に税金が支払われているかを調べるために、仮払金の未精算分については、「社員への給与や貸付金ではないか?」という観点で調査します。もし給与としてみなされれば、源泉所得税の徴収漏れとして扱われるのです。また、貸付金とみなされると、受取利息の計上漏れ、すなわち収益の過少申告となります。
金融機関は融資した資金の使途を調べる
金融機関から借入をしている場合に決算書の提出が求められます。金融機関は融資を回収しなければならないためです。「資金が正しく使われているか、粉飾がないか?」という観点で調査します。
もし仮払金残高が多額であれば、社外の人や役員など個人への資金の流出が疑われるでしょう。また、赤字決算が続けば融資がストップする可能性があります。赤字決算を避けるため、研究開発費や宣伝費などを経費として処理せず、仮払金のままにしていないかについても調べます。
実態を的確に説明できなければ、金融機関は「資産」とみなさず修正して実態に即したものとします。ここまでいくと「うっかり」ではすまされません。仮払金の未精算残高は疑いをもたれ、信用失墜に繋がる可能性もあるのです。
決算前に仮勘定科目を精査
大切なことは、仮勘定科目、すなわち仮払金だけでなく仮受金も決算前に未精算残高のチェックをおこなうことです。精算忘れがあれば、期末までに精算しましょう。精算できずに期をまたいでしまう場合は、必ず「日次」「名前」「目的」がわかるように明細表を作成します。もし税務署や金融機関の調査があっても、適正なものであることが証明できれば問題ありません。
決算前の仮払金チェックは重要
経理業務にとって、仮払金という勘定科目はなくてはならないものですが、使うことのメリットやデメリットもあることをみてきました。とくに決算前には注意が必要です。仮払金勘定をうまく使いこなし、実態を明確に把握するだけで、税務署や金融機関の調査に耐えうる健全な経理に近づいていきます。