オープンイノベーション促進税制は、2020年からスタートした比較的新しい税制です。オープンイノベーションを行うスタートアップやベンチャー企業へ投資した際、取得した株式の25%の金額を所得控除できます。
当記事ではオープンイノベーション促進税制の概要や条件、手続きの方法などをわかりやすく解説します。
オープンイノベーション促進税制とは?
オープンイノベーション促進税制とは、事業会社やCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル、自社の事業内容と関連性があるベンチャー企業に出資・支援を行う企業)が、オープンイノベーションを行うスタートアップ企業へ出資するときに受けられる税制優遇制度です。
第四次産業革命とも言われる現在において、革新的な経営・開発を行うスタートアップ企業の成長や、オープンイノベーションの促進による新製品・サービスの誕生を後押しする制度として、2020年4月1日から2022年3月31日までを目処にスタートしました。
2022年度の税制改正によって、2024年3月31日まで適用期間の延長が決まっています。
控除金額と出資要件
オープンイノベーション促進税制を適用すると、出資した法人は出資先の株式取得価額の25%を、課税所得から控除できます。
所得の控除上限額は、出資1件当たり25億円以下です。出資先の法人1社・1年度当たり125万円以下と定められています。
制度を受けられる出資額の下限については、大企業1億円・中小企業1,000万円・海外企業(事業規模問わず)5億円と規定されています。その他の出資要件は次のとおりです。
- 現金出資であること(発行済株式の取得は対象外)
- 純投資ではないこと
- 取得株式を5年以上(2022年3月31日以前の出資は3年以上)保有する予定であること
ただし、海外へのスタートアップ企業へ出資する場合、海外CVCや海外子会社を経由することは認められていません。
オープンイノベーション促進税制は一定以上の金額の出資を、対象法人へ積極的かつ継続的に行うことで適用されます。また、50%超の株式取得をするM&A(新規取得のみ)や、資本金の増加に伴う金銭の払込みによってスタートアップ企業の株式を取得する場合も、オープンイノベーション促進税制の対象となります。
オープンイノベーションの意味
オープンイノベーション促進税制は、オープンイノベーションに向けた取り組みを進めようとする、スタートアップ・ベンチャー企業へ出資する際に適用できます。
オープンイノベーション(Open Innovation)とは、技術や知見などのリソースを企業内だけでなく、企業外のリソースも組み合わせて新しいイノベーションを達成することです。創り出した価値も、企業内・外問わずオープンに展開します。
自社リソースのみにこだわって行う、クローズドイノベーションの対になる手法です。オープンイノベーションのメリットは次のとおりです。
- 企業外の技術や知識を得たり利用したりできる
- 研究開発のスピードが加速する
- 中長期的に低コストでの開発などができる
- 他社との連携により多様化するニーズへ対応できる
- 新しく生まれた自社のイノベーション公開による関係会社および業界全体の成長につながる
近年、各先進国と比べて遅れているものの、日本でもオープンイノベーションが広がりつつあります。
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構や経済産業省など、政府機関主導で取り組みが進められており、オープンイノベーション促進税制もその1つです。
大企業によるオープンイノベーションの実例は次のとおりです。
取組企業 | 取組例 |
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積水化学工業株式会社 |
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中部電力株式会社 |
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株式会社デンソー |
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オープンイノベーション促進税制が設立された目的
オープンイノベーション促進税制はその名前の通り、日本企業によるオープンイノベーションを促進させることにあります。
政府がオープンイノベーションを広めようとする目的の1つとして、第四次産業革命への対応が挙げられます。第四次産業革命とは、IoTやビッグデータ、AIなどの技術革新を使ったオートメーション化やデータ化といった技術革新のことです。
経済産業省では、第四次産業革命の本質を「『デジタルからリアル』、『リアルからデジタル』への進出・融合が急激に進展し、『データ利活用モデル』が付加価値の源泉になること」としています。
第四次産業革命により、これまでにない新しいビジネスモデルが急速に創出されています。そのような中で日本政府は、第四次産業革命に対応するためのコアビジネスの強化や変革に、革新的かつフットワークが軽いベンチャー企業とのオープンイノベーションが重要になると示しました。
とはいえ、当時から日本におけるオープンイノベーションの実施率やベンチャー企業への投資の現状は芳しくなく、欧米企業と比較して低い数値となっています。
出典:経済産業省(成長戦略実行計画などより抜粋)|
令和2年度(2020年度)経済産業関係 税制改正について
このような背景もあり、日本はオープンイノベーション促進税制などをはじめとする施策・戦略を進めています。2020年度の税制改正では、「さらなる投資促進に向けた国内設備投資要件の強化」や、「5G投資促進税制」なども行われました。
今後も、スタートアップ・ベンチャー企業の支援に関する、さまざまな施策が設立される可能性はますます高くなると予想されます。
オープンイノベーション促進税制の対象法人・出資先の条件
オープンイノベーション促進税制を適用するには、「出資する法人」「出資先の法人」「出資先の法人が行うオープンイノベーションの内容」などについて、それぞれ条件が定められています。特別勘定による経理も必要です。
いずれも、クリアしなければオープンイノベーション促進税制を受けられない条件なので注意しましょう。
対象法人(税制が受けられる法人)の条件
スタートアップ企業などへ出資後、出資額に応じて実際に所得控除を受けられるのは、次の条件に当てはまる法人です。
- 青色申告書を提出している法人
- スタートアップ企業とのオープンイノベーションを目指している法人
- 株式会社、相互会社、中小企業等協同組合、農林中央金庫、信用金庫、信用金庫連合会のいずれかに該当する法人
特別な要件はほとんどなく、オープンイノベーションの対象になる企業の範囲は非常に広いです。
上記法人が、「対象法人の出資比率が過半数を占める」「投資事業有限責任組合(LPS)や、民法上の組合などの特定の類型に該当する」という条件に当てはまる主体のCVCを経由し、スタートアップ企業へ出資する場合も対象になります。具体例として次のようなケースが挙げられます。
- 完全子会社がファンド(GP)となり、親会社(LP)からの出資割合が過半数→親会社が対象
- ある会社のファンド(GP)に対して、単独のLPからの出資割合が過半数→過半数出資会社が対象
※GP(ジェネラルパートナー)とは原則として無限責任組合員のことで、ファンドの運営に責任を負う組合員
※LP(リミテッドパートナー)とは原則として有限責任のもと、GP出資後の残りの出資部分を拠出する経営に参加しない組合員
出資先法人の条件
オープンイノベーション促進税制を受けるには、条件に関係なくただスタートアップ・ベンチャー企業に出資すればよいという訳ではありません。出資先法人となるためには、次の9つの条件すべてに当てはまる必要があります。
- 株式会社
- 設立10年未満
- 未上場・未登録
- すでに事業を開始している
- 対象法人とのオープンイノベーションを行っているまたは行う予定
- 1つの法人グループが株式の過半数を有していない(法人グループにおける出資割合の算定対象は、子会社、孫会社、曾孫会社まで)
- 法人以外の者(LPS、民法上の組合、個人等)が3分の1超の株式を有している(LPSや民法組合、個人投資家など、法人以外の者による出資割合が合計3分の1超である必要あり)
- 風俗営業又は性風俗関連特殊営業を営む会社でない
- 暴力団員等が役員又は事業活動を支配する会社でない
オープンイノベーションと認められる事業
オープンイノベーション促進税制において、オープンイノベーションと認められる事業の要件には、「対象法人がスタートアップ企業の革新的な経営資源を活用し、高い生産性が見込まれる事業・新たな事業の開拓を目指す事業活動」と記されています。
具体的には、次の3つが挙げられています。
- 対象法人に高い生産性が見込まれる事業、または新たな事業の開拓を目指した事業活動を行うこと(既存事業の拡大のみで付加価値が上がらないものは対象外)
- 1の事業活動において活用するスタートアップ企業の経営資源が、対象法人にとって不足するもの、かつ革新的なものであること
- 1の事業活動の実施にあたり、対象法人からスタートアップ企業にも必要な協力を行い、その協力がスタートアップ企業の成長に貢献するものであること
事業の種類や業種などは問われていません。
特別勘定の経理などについて
オープンイノベーション促進税制による所得控除を受けるには、出資分(取得株式)の25%以下の金額を、特別勘定として経理します。例えば、繰越利益剰余金を目的積立金で仕訳するなどです。
本税制は「継続的なオープンイノベーション」が目的となっていることもあり、特別勘定も原則として5年間維持する必要があります。もし5年以内に特別勘定を取り崩した場合は、取り崩した金額を益金算入します。
また、オープンイノベーションが継続されていないと判断された場合は、特別勘定を取り崩して益金算入しなければなりません。
オープンイノベーション促進税制を受けるための手続き
オープンイノベーション促進税制を正しく適用するには、決められたフローに基づいて手続きを進める必要があります。
それほど複雑な手続きは必要ありません。
経済産業省への事前相談・要件確認
オープンイノベーション促進税制は手続きを行う前に、経済産業省に事前相談を行うことが可能です。
経済産業省の公式ページにある「制度利用の外形要件の確認」や電子申請サービス「gBiz FORM」上での、オープンイノベーション要件の確認申請などができるので、要件の確認が必要な場合は事前相談の活用がおすすめです。
出資前および出資後の申請前の相談に限り、メールでの相談も受け付けています。
経済産業大臣への継続証明書交付申請と交付
オープンイノベーション促進税制を申請することが決まったら、本申請を行います。事前に用意する書類などはありません。
電子申請サービス「gBiz FORM」上で経済産業省への継続証明書交付申請を行い、継続証明書の交付を受けます。
初年度申請・所得控除を受けた後の2〜5年目の継続申請ともに、事業年度終了後にまとめて交付されます。事業年度末にまとめて申請を行いましょう。申請から交付には最大60日かかります。
交付前の申請時には、前年度以前の出資に関する様式8と別表の提出も必要です。オープンイノベーションの継続を確認するために、追加書類の提出が求められる可能性もあります。
申請が通れば、継続証明書が交付されます。初年度の場合は証明書を用い、税申告を行いましょう。2年目以降は株式取得日から5年経過するまで、毎年同様の手続きを進めます。
今後のスタートアップ企業への投資は活発になる?
昔ながらの伝統を重んじる文化が根強い日本であるものの、経済産業省などを中心に新規事業やスタートアップを支援する動きが見られます。
政府は2022年をスタートアップ創出元年として位置づけ、5年10年倍増を視野に、2022年末にスタートアップ5か年計画を策定するなどを行いました。
オープンイノベーション促進税制以外にも、「スタートアップチャレンジ促進補助金」による人材育成促進、「ストックオプション税制」による人材獲得の促進などの支援策を実施しています。スタートアップへの投資やスタートアップ立ち上げなどに、チャレンジしやすい環境が整いつつあると言えるでしょう。
もしオープンイノベーション促進税制の他にも対象になる税制優遇制度や補助金制度がある場合は、適用できないか検討してみてください。
オープンイノベーション促進税制で積極的な投資と節税を
オープンイノベーション促進税制によって、スタートアップ・ベンチャー企業のよいところを取り込みつつ、さらなる事業展開を狙う企業は効率的に投資ができるようになりました。投資先がより成長できれば、投資額と節税額以上の効果が見込めるでしょう。
手続きも複雑ではないので、今後オープンイノベーションを見据えた投資を考えている経営者は、オープンイノベーション促進税制の利用を検討してはいかがでしょうか。
もしオープンイノベーション促進税制の適用や、投資先の事業について相談があるときは、税理士や中小企業診断士などの専門家へ相談することもおすすめです。