出張旅費規程とは、出張手当や宿泊費、交通費など出張で必要な経費のルールのことです。出張手当や宿泊費、交通費を実費精算せずルールに応じて一律で精算できます。
そのため、節税効果や管理の簡素化が期待できるでしょう。
しかし、出張旅費規程は注意点に気をつけながら、株主総会を経て決定しなければなりません。
今回は出張旅費規程のメリットや作り方について、初心者向けに分かりやすく解説します。注意点や費用の目安についても説明しているので、参考にしてください。
会社で出張旅費規程を作成し、上手に節税や管理簡素化に役立てましょう。
出張旅費規程とは?
出張旅費規程とは、出張に関する旅費についての取り扱いについて定めた規程です。
会社ごとに規程の内容は異なります。たとえば、以下のように定めることが可能です。
日当 |
|
---|---|
宿泊費(一泊) | 8,000円 |
交通費 | 実費 |
出張に関係する経費を一律で支払うことができます。
法人のみに適用されるルールで、個人事業主やフリーランスには適用されません。
出張旅費規程のポイントは、3つあります。
- 全従業員を対象とする
- 国内・海外など距離を問わず支給できる
- 株主総会を経て規程する必要がある
それぞれ順番に見ていきましょう。
全従業員を対象とする
出張旅費規程は、役員を含む全従業員を対象にしましょう。
社長や役員だけに適用させることはできません。ただし、階級・役職によって支給額を変動させるといったルールを決めることは可能です。階級・役職によってルールを決める場合は、出張旅費規程に内容を記載しましょう。
たとえば、以下のように定められます。
役員 | 日当 |
|
---|---|---|
宿泊費(一泊) | 12,000円 | |
交通費 | 実費 | |
役員以外の従業員 | 日当 |
|
宿泊費(一泊) | 8,000円 | |
交通費 | 実費 |
もちろん、部長・課長などの役職ごとに費用を設定することも可能です。
国内・海外など距離を問わず支給できる
国内・海外、短距離・長距離、日帰り・宿泊など、どのような出張でも支給の対象になります。
もし、規定しておけば支給額を変えることも可能です。以下のように規程をしましょう。
国内出張 | 長距離(100km以上) | 日当 | 2,000円 |
---|---|---|---|
宿泊費 | 8,000円 | ||
短距離(40km〜100km未満) | 日当 | 3,000円 | |
宿泊費 | 8,000円 | ||
海外出張 | アジア圏 | 日当 | 5,000円 |
宿泊費 | 10,000円 | ||
アメリカ・ヨーロッパ圏 | 日当 | 8,000円 | |
宿泊費 | 12,000円 |
出張先のエリアや距離ごとに規程内容を変えることができます。
株主総会を経て規程する必要がある
出張旅費規程は会社の規程なので、株主総会で承認を得る必要があります。
そのため、人事部や役員だけで規程を作っても適用させることはできません。株主総会で承認を得ていない場合、出張旅費規程通りの費用を精算しても税務署に認められないので注意しましょう。
企業が出張旅費規程を作る3つのメリット
なぜ株主総会を開いてまで出張旅費規程を定めるのでしょうか。
企業が出張旅費規程を作るメリットは、3つあります。
- 出張の多い会社では管理が楽になる
- 実費精算より節税できる
- 従業員間の不公平感をなくせる
メリットを知れば、自社でも出張旅費規程を作りたいと思うはずです。
出張の多い会社では管理が楽になる
「1回の出張で○円」と規定しておくことで、管理が楽になります。なぜなら、ルールに従って当てはまる条件の費用を支払うだけだからです。
実費精算であれば、領収書ごとに会計処理をしなければなりません。出張の多い社員は、出張のたびに計算する手間を省くことが可能です。
社員は規程に従って申請し、管理部門が個人に対して支払い手続きをするだけで済みます。
実費精算より節税できる
実費精算をするよりも、節税できる可能性があります。
というのも、出張旅費規程で定めた日当や宿泊費は非課税(所得税)だからです。つまり、企業にとっても従業員にとっても節税になります。
なぜ実費精算よりも節税できるのか、企業、従業員それぞれの立場から確認していきましょう。
企業にとっての節税
支給額は経費として全額落せるので、法人税・消費税・住民税の節税対策になります。とくに、社長一人の企業や家族経営、少人数の従業員しかいない会社では節税効果が高いです。
一度出張に行くと実費では精算できないものを購入するケースもあります。
たとえば、歯ブラシや化粧品などを購入することがあるでしょう。出張がなければ、あえて購入する必要がないケースが多いですよね。
しかし、毎回経費として落とすことは難しく、「少額だし…」と実費で購入している方は多いのではないでしょうか。経費を上乗せした手当を出張旅費規程で定めておくことで、実質経費として扱えます。
実費だと認められない出費を経費とできるため、節税対策になるのです。
ただし、海外出張への旅費や宿泊費、日当は、原則として消費税の対象外なので注意が必要です。
従業員にとっての節税
所得税法第9条4項の規程により会社から支給された出張旅費は、非課税です。
給与とは別で支給され、年収に含まれません。そのため、所得税・住民税などの課税対象にならないのです。
たとえば、所得税率10%の方なら住民税と合わせて20%の節税となります。つまり、支給された出張旅費はまるまる懐にしまうことが可能です。
従業員間の不公平感をなくせる
出張に行く従業員間の不公平感をなくすことができます。というのも、実費精算にすると高級レストランでご飯を食べた人と安い定食屋でご飯を食べた人とで不公平になるからです。
ほかにも、宿泊施設のランクが人によってバラバラだと不満が出るでしょう。
どんな食事をしてもどんな宿泊施設を予約しても一律の手当を出せば、不満はなくなります。従業員は、自分で安い宿を探せば残ったお金はお小遣いにできます。
一方、良いサービスを受けたい人は自分で費用を補填して、良いホテルに泊まることが可能です。
従業員間の公平感をなくすために、出張旅費規程を活用できます。
出張旅費規程を作る2つのポイント
メリットを知れば、「早速、出張旅費規程を作ろう!」と思う方もいるかもしれません。
出張旅費規程を作る前に、以下の2つのポイントを確認しましょう。
- 目的を明確にする
- 定める範囲を明確にする
出張旅費規程を作る前にポイントを押さえれば、出張旅費規程を効果的に活用できます。
目的を明確にする
出張旅費規程を導入する目的を明確にしましょう。というのも、目的によって設定する料金が変わるからです。
たとえば、多額の実費精算をする従業員がいることで経費がかさんでいたとしましょう。「出張旅費規程で経費を削減したい」と考えているのなら、最低限出張で使うと想定される手当の料金を設定することになります。
一方、節税目的であれば多少社員の取り分が余っても問題ないはずです。
出張旅費規程を導入する目的を明確にした上でルールを決めましょう。
定める範囲を明確にする
あらかじめ出張旅費規程の範囲を明確にしましょう。
というのも、以下のような3つのパターンが考えられるからです。
- 交通費・宿泊費・日当のすべてを規定する
- 交通費は実費、宿泊費・日当を規定する
- 交通費・宿泊費は実費、日当だけを規定する
出張旅費規程を作る目的に合わせて範囲を定めましょう。
出張旅費規程を作成するための5つの流れ
ポイントを確認できたら、早速出張旅費規程を作る準備を始めていきましょう。
しかし、「どうやって作成すれば良いの?」と戸惑う方もいるかもしれません。
出張旅費規程は、以下の5つの流れに沿って作成していきます。
- 出張旅費規程のルールを作る
- 交通費・日当料金・宿泊料金を決定する
- 全従業員に伝達する
- 株主総会の決議決定をする
- 定期的に規程内容を見直す
全体の流れを把握し、早速出張旅費規程を作る準備を始めましょう。
出張旅費規程のルールを作る
まずは、出張旅費規程のルールを決めましょう。
具体的には、以下のようなことを決定していきます。
- 国内・海外、長距離・短距離など出張区分
- 役員・部長など役職区分
- 出張報告書や領収書の提出のフロー
- 出張旅費の精算方法や振込日
もちろん、出張区分や役職区分を作らなくても問題ありません。しかし、一般的に国内より海外の方が高い料金設定にするケースが多いです。
自社に適したルールを設定しましょう。
交通費・日当料金・宿泊料金を決定する
続いて、交通費・日当料金・宿泊料金を決定しましょう。
料金を設定するときは、多すぎず・少なすぎず、相場に合わせて設定しなければなりません。低い価格に設定すると、従業員から不満が出るかもしれません。
たとえば、都心部と地方都市の宿泊料を一緒にすると、都心部へ出張する従業員の手出しが多くなってしまう可能性があります。
一方で、高い価格に設定するとキャッシュアウトが発生するでしょう。キャッシュアウトとは、出張旅費規程がなければ支払わなくても良い経費のことです。
実際に従業員が使った経費より多くの手出しを会社が背負うことになりかねません。
料金設定は難しいため、事前に過去の出張経費を分析する必要があります。
全従業員に伝達する
出張旅費規程の内容が決まったら、全従業員に伝達しましょう。出張旅費規程は、全従業員が対象です。
そのため、役員を含めた全員にルールを伝達しなければなりません。内容を周知すると同時に、報告フローや管理部門の役割決めも早急に行いましょう。
株主総会の決議決定をする
株主総会を開き、出張旅費規程の承認を得ましょう。
出張旅費規程は会社の規程なので、議決にて承認を得られて初めて効力を発揮します。
株主総会での議事録は、株主総会で承認を得たことの証拠となります。後々必要になることもあるので、必ず残しておきましょう。
定期的に出張旅費規程内容を見直す
定期的に出張旅費規程内容を見直す機会を設けましょう。というのも、一度妥当な金額に決めたつもりでも、数年経てば経済状況が変わっているからです。
物価や消費税率が変わっていることもありえるでしょう。
また、以下のようなことが課題になる場合も、見直しが必要です。
- 出張によって従業員が自費で宿泊費や飲食代をまかなっているケースが多い
- 出張旅費規程を作る以前と比べて出張旅費のコストが大幅に増えた
上記の課題がある場合、定めた出張旅費規程の料金が適切でないかもしれません。そのため、3〜5年に一度は定期的に料金の見直しをする機会を作ることをおすすめします。
出張旅費はいくらでも良い?規程の目安
出張旅費規程で定める費用は、妥当な費用でなければ税務調査で否定される恐れがあります。というのも、社長一人の会社や家族経営の会社で高い費用に設定することで、納税逃れができるからです。
いくら株主総会で決まった出張旅費規程とはいえ、妥当な費用でなければ税務署に認められません。
しかし、いくらに設定しようか悩む経営者は多いです。
目安として、内閣総理大臣・最高裁判所長官の日当や宿泊費を見ていきましょう。
内閣総理大臣・最高裁判所長官の1日あたりの日当 | |
---|---|
国内 | 3,800円 |
海外(指定都市) | 13,100円 |
内閣総理大臣・最高裁判所長官の出張1泊あたりの宿泊費 | |
---|---|
国内 |
|
海外(指定都市) | 40,200円 |
出張で滞在する場所によって異なる費用が設定されています。日本政府の代表である内閣総理大臣よりも高い費用を一般従業員に支給すると、「相場違い」「納税逃れ」とみなされる可能性が高いです。
会社の代表の費用は内閣総理大臣と同等にしておき、他の役職は同等以下に設定することが望ましいと言えるでしょう。
出張旅費規程を作るときの3つの注意点
出張旅費規程を作るときには、以下の3つの注意点に気をつけましょう。
- 領収書は残さなければならない
- 個人払いにする
- 旅費精算書を作成し残しておく
注意点を知らないままだと、税務調査で否定される可能性が高いです。正しい税務処理をするためにも、3つの注意点を確認していきましょう。
領収書は残さなければならない
出張旅費規程通りに支給したとしても、出張による経費の領収書は残しておきましょう。出張に行った事実が分からなければ、出張旅費として処理できないためです。
たとえば、宿泊代・食事代・交通費の領収書は出張の事実を証明してくれます。実際に出張をした証拠として、領収書を残しておきましょう。
なかには、領収書をもらえないケースもあるかもしれません。
- バスや電車代
- 先方が支払ってくれた食事代や宿泊代
出張に行ったことを証明できるような領収書がない場合、メモを残しておきましょう。メモを出張報告書や旅費精算書に残しておけば、税務調査で否定される心配はほとんどないと言えます。
個人払いにする
手当の対象となっている経費に関しては、個人払いをしましょう。なぜなら、出張旅費規程では「個人が出張のために支払った経費をあとで企業が出張旅費規程に従って定額支給する」ものだからです。
代表一人だけの会社だと、うっかり「仕事に関係することだから」と法人カードで払ってしまうかもしれません。
しかし、法人払いにしてしまうと定額支給ができなくなります。必ず現地では個人払いをして、後日手当などを支給するといったフローを守りましょう。
出張報告書・旅費精算書を作成し残しておく
出張報告書と旅費精算書を従業員に提出してもらいましょう。なぜ出張が必要だったのか、出張で何をしたのかの記録が必要だからです。
日当支給をする根拠を残すためにも出張報告書は欠かせません。
また、旅費精算書も同時に作成してもらいましょう。旅費精算書を作って残しておくことで、出張手当の根拠となります。
税務調査が入った場合でも、「この出張に対して、この手当を支払っている」と証明することが可能です。出張報告書や旅費精算書はまとめて置いておき、税務調査があってもすぐに証拠として見せられるようにしておきましょう。
おわりに
出張旅費規程とは、出張手当や宿泊費、交通費など出張で必要な経費のルールのことです。出張手当や宿泊費、交通費を実費精算せずルールに応じて一律で精算できるようになります。
会社で出張旅費規程を導入することで、以下の3つのメリットがあります。
- 出張の多い会社では管理が楽になる
- 実費精算より節税できる
- 従業員間の不公平感をなくせる
ただし、節税目的のためだからと、あまりにも高い料金を設定すると税務署から目を付けられる可能性があります。妥当な料金を設定し、賢く節税対策や管理の簡素化に役立てましょう。