2020年度の制度改正によって、現行のNISA制度(少額投資非課税制度)全般が見直されています。2024年度より、現行の「一般NISA」に変更を加えた「新しいNISA」がスタートします。2階建て制度への変更や、非課税投資枠の増額などが行われました。
当記事では、新しいNISA制度の概要や、現行の一般NISAからの変更点などを解説します。
なお、当記事では現行制度を「一般NISA」、2024年より始まる改正後の制度を「新しいNISA」と呼び名を統一します。
2024年から始まる新しいNISAとは?
2020年度の税制改正大綱からの一部抜粋によると、NISA制度の変更には「人生100年時代にふさわしい安定的な資産形成を支援するため、少額からの積立・分散投資をさらに促進する」との目的があるとされています。
今回の改正では、より多くの人に投資を体験してもらい、将来や老後に向けた資産形成を促したい意図があると考えられます。
2022年現在における金融庁や日本証券業協会の調査結果を見ても、各NISA制度の利用者は右肩上がりです。
出典:日本証券業協会|NISA口座開設・利用状況調査結果(2021年9月30日現在)
とくに、20~30代を中心とした若い世代の投資家が増えているとの結果も出ています。
これまでNISA制度を使っていない投資未経験者は、今回の制度改正を機に始めてみるのも、よいきっかけとなるのではないでしょうか。
新しいNISAの具体的な変更点は|何がどう変わる?
新しいNISAと一般NISAの違いを比較した表は次のとおりです。
新しいNISA | 一般NISA | |
---|---|---|
対象年齢 | 日本在住の18歳以上 | 日本在住の20歳以上 (2023年1月以降は18歳以上) |
非課税保有期間 | 5年間 | |
年間の非課税投資枠 | 1階部分:20万円 | 120万円 |
2階部分:102万円 | ||
投資可能商品 | 1階部分:つみたてNISAと同じ | 上場株式、ETF、公募株式投信、REITなど |
2階部分:一般NISAと同じ(一部除く) | ||
買付方法 | 1階部分:積立投資 | 通常の買付け・積立投資 |
2階部分:通常の買付け・積立投資 | ||
払い出し制限 | 制限なし | |
適用期間 | 2014年~2023年 | 2024年~2028年 |
その他 |
|
参考:金融庁|NISAとは? より
具体的には税法・民法改正の影響によって、以下の点が変更されています。
- 非課税投資枠が122万円へ引き上げかつ2階建て構造になる
- 投資可能期間が5年間延長される
- 対象年齢の下限が20歳から18歳へ引き下げられる
以下では、2024年からの変更点について、詳細を解説します。
非課税投資枠が122万円引き上げかつ2階建て構造になる
非課税投資枠(以下、非課税枠)とは、購入した株式・投資信託に関する値上がり益(譲渡益・売却益)や配当金・分配金などによる利益が、非課税になる投資額の上限のことです。
例えば、購入した株式20万円が値上がりして100万円の価値になった場合、本来は売却益80万円に対して金融所得税20.315%が課せられます。
しかし、元本となる株式20万円は新しいNISA(一般NISA)において非課税枠以内の金額です。20万円からいくら利益が出ようとも、発生した利益に対しては税金が課せられなくなります。
一般NISAでは、非課税枠は年間120万円(5年間で600万円)で設定されていました。改正後は、非課税枠が年間122万円(5年間で610万円)と年間2万円引き上げられています。
さらに今回の改正によって、非課税枠が2階建て構造に変更されました。改正によるもっとも大きな変更点です。
1階部分の非課税枠は年間20万円で、つみたてNISAと同じ銘柄のみが投資対象になります。2階部分の非課税枠は年間102万円で、原則としてこれまでの一般NISAと同じ銘柄が投資対象です。
2階部分の非課税枠を利用するには、1階部分を先に利用する必要があります。ただし2023年までにすでにNISA口座を開いている、または投資経験がある人が上場株式のみを購入する場合に限り、2階部分のみの利用が可能です。
以下では、階層ごとの対象銘柄を詳しく見ていきましょう。
1階部分はつみたてNISAと同じ銘柄が投資対象
新しいNISAの1階部分の対象になる銘柄は、つみたてNISAと同じく「少額からの長期・積立・分散投資に適した、公募投資信託とETF(上場株式投資信託)」のみです。株式は、1階部分の対象になりません。
例えば、公募投資信託の場合は、以下の条件をすべて満たした銘柄になります。
- 販売手数料が0円のノーロードであること
- 信託報酬(商品保有中に発生する経費)が一定の水準以下であること
- 顧客1人ひとりに、当該顧客が過去1年間に負担した信託報酬の概算金額を通知すること
- 信託契約期間が無期限まあは20年以上であること
- 分配頻度が毎月でないこと
- デリバティブ取引による運用を行っていないこと(ヘッジ目的などを除く)
より具体的な銘柄名などについては、各証券会社の商品一覧や、金融庁のつみたてNISAの対象表品のページをご覧ください。
1階部分を利用するには、対象銘柄の買付けを積立投資(一定の金額・量の商品を一定期間で少しずつ購入する手法)で行わなければなりません。20万円分をすべて使う必要はないので、少しでも購入すれば2階部分が使えます。
2階部分は一般NISAと同じ銘柄が投資対象
2階部分の対象になる銘柄は、原則として一般NISAと同じです。上場している株式やETF、REIT、投資信託などが投資対象になります。
ただし一般NISAからの変更点として、新しいNISAでは「レバレッジを効かせている投資信託」や、」整理銘柄(上場廃止が決まっている銘柄)・監理銘柄(上場廃止基準に該当する恐れがある銘柄)」が対象外となりました。
非課税期間が5年間延長される
2023年末に終了予定だった一般NISAですが、新しいNISAへの改正によって、投資可能期間が5年間(2028年末まで)延長されました。2028年に投資した商品の運用益は、2032年まで非課税になります。
対象年齢の下限が20歳から18歳へ引き下げられる
民法の改正により、2022年度から成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。その影響で新しいNISAやつみたてNISAを利用できる年齢も、2023年1月より18歳になります(口座を開設する年の1月1日現在の年齢)。
年齢的には高校を卒業した辺りで、親の同意なしでの投資活動が可能になります。若いうちからの投資は魅力的な一方でリスクもあるので、本人および周囲の大人は十分に注意しましょう。
新しいNISAのロールオーバーについて
ロールオーバーとは、非課税期間が終わったNISA口座で保有している金融商品を、翌年の他の非課税枠に移行することです。ロールオーバーによって、実質的に非課税期間を6年以上に伸ばせます。
以下では、新しいNISAのロールオーバーについて解説します。
一般NISAから新しいNISAへのロールオーバー
一般NISAから新しいNISAへのロールオーバーは、原則として2階部分の非課税枠102万円を使います。ロールオーバーできる金額に上限はありません。
102万円を超過した場合は、1階部分の非課税枠20万円を使用できます。ただし、新しいNISA制度の対象外となる銘柄はロールオーバーできません。
新しいNISAからつみたてNISAへのロールオーバー
新しいNISAの非課税期間が終了した後に、つみたてNISAへのロールオーバーができます。対象銘柄は新しいNISAの1階部分で購入したもの、つまりつみたてNISAと同じ銘柄のみです。金額は、新しいNISAで購入した当初の簿価(購入価格)で行われます。
一般NISAや新しいNISAが終わった後の資産運用について
2023年末まで一般NISAを継続した場合、制度終了後は新しいNISAへと自動的に変更されます。変更の際にマイナンバーや本人確認書類の提出といった、別途の手続きは必要ありません。
一般NISAで保有していた金融商品については、「新しいNISAへロールオーバーする」「特定口座といった課税口座へ移行する(時価で払い出し)」「売却する」のいずれかを行います。
さらに新しいNISAが終了した後は、1階部分と2階部分それぞれで以下の対応が必要です。
- 1階部分:つみたてNISAへのロールオーバー、課税口座への移行、売却のいずれかを行う
- 2階部分:課税口座への移行、売却のいずれかを行う
【制度改正】つみたてNISAは延長|ジュニアNISAは廃止
NISA制度改正に伴い、つみたてNISAとジュニアNISAも見直されました。つみたてNISAは期間延長のみで仕組み変更はなし、ジュニアNISAは制度自体が廃止となっています。
つみたてNISAは2042年まで延長
2037年で終了予定だったつみたてNISAは、2042年までの5年間の延長が決定しています。2042年に購入した金融商品であれば、2061年までが非課税期間です。対象銘柄や仕組み自体に変更はありませんでした。
つみたてNISAの概要は次のとおりです。
対象年齢 | 日本在住の20歳以上(2023年1月移行は18歳以上) |
非課税保有期間 | 20年 |
年間の非課税投資枠 | 40万円 |
投資可能商品 | 新しいNISAの1階部分と同じ |
買付方法 | 積立投資 |
払い出し制限 | なし |
適用期間 | 2018年~2042年 |
つみたてNISAについては、「つみたてNISAとは?非課税になる仕組みやメリット・デメリットを解説!」の記事にてわかりやすく解説しています。
廃止が決定したジュニアNISAが注目される理由
ジュニアNISAとは、未成年を対象にしたNISA制度です。例えば子どもの名義で親が資産運用を行い、教育費用の捻出やその他子どもの資産形成などを実施します。
ジュニアNISAの概要は次のとおりです。
対象年齢 | 日本在住の未成年 |
非課税保有期間 | 5年 |
年間の非課税投資枠 | 80万円 |
投資可能商品 | 一般NISAと同じ |
買付方法 | 一般NISAと同じ |
払い出し制限 | 2024年以降はなし |
適用期間 | 2016年~2023年 |
ジュニアNISAは制度改正によって、2023年に廃止となります。しかし、廃止が決まってから徐々にジュニアNISAが注目されているのをご存じでしょうか。
2023年でストップするのは、新しい口座の開設や金融商品の新規購入のみです。非課税枠自体は残り、口座内の金融商品の運用は続けられます。つまり、2022~2023年中に金融商品を購入しておけば、そのまま5年間運用できます。
仮に2023年にジュニアNISAを始めると、2023年中に購入した金融商品の運用益は、2027年までは非課税です。
そして注目すべきは、2024年1月1日以降の払出しは自由に可能となった点です。
従来のジュニアNISAには、口座開設者が18歳になるまでお金が引き出せないという重い制限がありました。しかし、制度廃止に伴って払出し制限が撤廃となったため、口座開設者が未成年でも運用益を引き出せます。
現在では、廃止によってむしろ使い勝手がよくなったジュニアNISAを活用する人も増えています。
制度変更をきっかけにNISAを利用した投資を始めてみよう
2024年以降に適用される新しいNISAは、少し仕組みがややこしくなったものの、これまでの内容と大きくは変わりません。非課税枠が少し増えたり、リスクある銘柄を避けられたりなどのメリットもあります。今回の制度変更をきっかけに、NISA制度での投資を始めるのもよいでしょう。
NISAでの投資を始めるには、対応している金融機関にてNISA口座やつみたてNISA口座を開設し、対象銘柄を購入するのみです。大手の証券会社や銀行であれば、大方は対応しています(一部不対応のところあり)。
2022年現在ではオンラインで手続きが完了する金融機関も多く、自宅に居ながらパソコンやスマホでの口座開設も可能です。もしこれから投資を始めたい人は、ぜひNISA制度を利用してみてはいかがでしょうか。