決算開示とは、社内・社外に対して経営状態や財務状態などをまとめた決算情報を公表することです。
決算開示には、「45日ルール」というものが制定されています。45日ルールは中小企業や小規模事業者にとって関わりが薄いものですが、上場企業・大企業の動きを見る上では知っておきたい情報です。
当記事では決算開示の45日ルールの詳細や、45日ルールに関係する決算短信・有価証券報告書・四半期報告書などについての概要を解説します。
決算開示の45日ルールとは?
決算開示の45日ルールとは、1事業年度における決算結果の速報的な役割を持つ「決算短信」と、四半期(1年の4分の1、3ヶ月)ごとの決算結果を報じる「四半期報告書」の2つの開示について適用される規程です。
決算短信と四半期報告書は、企業の経営・資産状態を発表する目的で作成される決算書(決算報告書)とも呼ばれることもあります。
45日ルールは45という名称のとおり、「決算期末日から45日以内に決算書を開示せよ」という意味合いです。この規程は、東京証券取引所の「決算短信・四半期決算短信作成要領等」にて定められています。
ただし決算短信に関しては早期開示を取引所は求めており、できるだけ30日以内(翌月以内)での開示が望ましいとしています。
とりわけ、事業年度又は連結会計年度に係る決算については、遅くとも決算期末後45日(45日目が休日である場合は、翌営業日)以内に内容のとりまとめを行い、その開示を行うことが適当であり、決算期末後30日以内(期末が月末である場合は、翌月内)の開示が、より望ましいものと考えられます。
四半期報告書に関しては、30日以内の早期開示は定められてはいません。金融商品取引法(以下、金商法)にて、法廷提出期限が45日と決まっていることを踏まえているからであると、東京証券取引所は公表しています。
45日ルールで提出する開示書類の場所や罰則について
決算開示の45日ルールで提出が必要な決算短信と四半期報告書などの決算書は、提出先や提出遅れによる罰則などが決まっています。決算書の提出先や開示場所、提出遅れによる罰則について解説します。
決算短信・四半期報告書を提出する場所
決算短信の提出先は証券取引所です。適時開示情報閲覧サービスTDnetへ、決算短信のデータ(XBRL形式)を送信し提出します。
四半期報告書の提出先は財務局(金融庁)です。金商法に基づく開示書類に関する電子開示システムEDINETを通じて提出します。
決算短信・四半期報告書が公開される場所
決算短信が公開される場所は次のとおりです。
- TDnet
- EDINET
- 企業公式サイトのIR情報
次に、四半期報告書が公開される場所は次のとおりです。
- EDINET
- 企業公式サイトのIR情報
提出が遅れた場合の罰則
45日以内に決算短信が提出できなかった場合でも、法的な罰則はとくに設けられていません。決算短信の作成・開示はあくまで取引所規則に基づいており、法律による規程はないためです。
とはいえ何度も決算短信の提出が遅れる企業だと、ステークホルダーからの信用は大きく低下していると考えられるでしょう。取引先として選ぶ場合は注意が必要かもしれません。
一方で四半期報告書の提出が遅れた場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金という刑事罰が科される可能性があります。さらに一定日数以上遅れるときは、証券取引所から監理銘柄(上場廃止になる恐れがある銘柄)に指定される可能性もあります。
万が一90日以内に提出できなかった場合は、整理銘柄(取引所の上場廃止基準に該当して上場廃止が決まった銘柄)に指定され上場廃止になるかもしれません。四半期報告書などの金商法にて定められている書類の提出は、とくに注意が必要になります。
決算開示の45日ルールに遅れる場合の対処法
経営状況や人員の数、その他止むを得ない理由によっては決算開示の45日ルールを遵守できないケースもあります。決算開示の45日ルールに遅れる場合の対処法について解説します。
提出が遅れる場合は報告する
もし決算期末日後の45日以内に決算短信を開示できず、さらに50日を超えるときは、決算短信を開示した後にその旨の報告を行います。開示する報告内容は次のとおりです。
- 50日を超えての開示となった事情
- 翌年以降の決算内容の開示時期の見込みまたは計画
四半期報告書の提出については、遅延自体が認められていません。金商法に則り、原則として45日以内に必ず提出します。
45日目が休日であれば翌営業日までに書類を提出
もし決算短信の提出日となる45日目が休日だと、提出期限は翌営業日までになります。四半期報告書についても同様です。
新型コロナウイルス感染症に伴う延長について
原則として設けられている決算開示の45日ルールですが、新型コロナウイルスウイルス感染症の影響で、提出が困難な企業も出てきました。
そうした状況を踏まえ、東京証券取引所や金融庁は45日ルールを一旦は保留としたことがありました。決算短信は確定次第の開示、四半期報告書は提出期限の延長としています。
2022年現在では延長措置等はなくなっているものの、こうした日本全体に影響を及ぼす災害やその他止むを得ない理由があるときは、緊急的な提出期限の変更がなされることがあります。
決算短信とは? 有価証券報告書との違い
45日ルールの対象となる決算短信とは、企業の決算結果の要点をまとめた書類です。また、同じく企業の決算結果を報告する書類には有価証券報告書もあります。こちらは金商法に基づき、45日ルールではなく90日以内の提出が義務付けられています。
決算短信の概要と、有価証券報告書との違いについてみていきましょう。
決算短信は決算の速報的な役割
決算短信とは、上場企業や大企業などが四半期および期末時点での決算結果を報告するための書類です。企業概要や決算書(財務諸表)などがまとめられています。
決算短信の目的は「投資家へいち早く企業情報を提供し、投資判断の参考としてもらうこと」です。そのため、決算短信は有価証券報告書のような監査やレビューを必要とせず、まとまり次第すぐに開示できます。
45日ルールや決算発表の早期化の要請など規程も、投資家への早期情報開示を目的として設けています。このように、決算短信は正確な情報というよりも、速報的な役割を果たす書類だといえるでしょう。
株式市場においては、有価証券報告書ではなく決算短信が開示されたときのほうが、株価が大きく動く傾向があります。有価証券報告書より早く発表される分だけ、決算日とのタイムラグが発生しないためです。
日本企業は3月末決算が多いことから、決算短信が出る4月下旬~5月に株式市場全体が変動する傾向があります。
有価証券報告書は確報的な役割
有価証券報告書は、決算短信と同じく企業の決算情報を投資家へ伝える目的で作成する書類です。
決算短信との大きな違いは情報の確実性です。推測の内容も含まれる決算短信と異なり、有価証券報告書は必ず監査法人や公認会計士による監査を受け、内容の精査をしてから提出します。そのため、企業に関するより正確かつ豊富な情報量が記載されています。
例えば事業状況や将来的な展望、株式の変動や配当状況、資産情報や設備状況などについての詳細がチェック可能です。書類の枚数自体も、決算短信より枚数が多い傾向です。ただし作成・開示まで時間がかかるので、速報性としては劣ります。
有価証券報告書の提出期限は、決算期末日から90日以内(3ヶ月以内)です。提出先は内閣総理大臣となります。金商法によって提出が義務付けられているので、提出しなければ5年以下の懲役または500万円以下の罰金に処される可能性があります。
四半期報告書・四半期決算短信について|将来的な廃止について
決算短信と同じく45日ルールでの開示が義務付けられているのが、四半期報告書です。
四半期報告書とは、上場企業などが四半期(3ヶ月)ごとに作成・開示する報告書です。決算短信と同じく、企業の概要や事業の状況、報告時点での決算情報などがまとめられています。
作成後は、レビュー(監査より簡素なチェック)を受けなければ提出できません。
3月末決算の企業の場合だと、4~6月・7~9月・10~12月・1~3月の4セクションで作成されます。提出期限は、四半期会計期間経過後の45日以内です。4~6月分をまとめるのであれば、7月下旬~8月中旬あたりに出ると予想できます。
ただし、四半期報告書に関しては2022年10月時点で発行自体の廃止が政府にて検討されています。「事務負担が重い」「企業の短期的な利益追求につながる」などが理由です。
なお、四半期における決算短信のような役割を担う四半期決算短信については、45日ルーが設けられていません。廃止については、四半期報告書と同様に検討されている最中です。
また企業によっては、四半期報告書の代わりに半期報告書の提出が必要になる場合があります。提出期限は2四半期(事業年度開始日から半年)の決算期末日から3か月以内です。
非上場企業かつ株式会社の場合は決算公告
上場企業や一部の大企業以外の事業者は、決算短信や四半期報告書の作成の必要がありません。しかし非上場企業かつ株式会社の場合、代わりに会社法上で定められた決算公告を行う義務があります(一般社団法人・一般財団法人も決算公告の必要あり)。
決算公告とは、株主や債権者へ経営状態や財務状態を明らかにする目的で行う告知です。具体的には、貸借対照表を定められたところへ掲載します。有価証券報告書の提出義務がある企業の場合は、決算公告の義務は免除されます。
決算公告を提出・公開する場所
決算公告を行うときは、会社法などで定められている「官報」「日刊新聞紙」「電子公告」の公告方法のうち、いずれかを選択します。
官報
官報とは、法律・政令の制定・改正などの政府情報の公的な伝達手段として機能する機関誌です。休日を除いて毎日発行されています。官報をチェックする人が少ないため、決算情報をあまり公表したくない企業にとって官報での掲載はメリットとなります。
東京商工リサーチの調査(2021年)によると、83.1%の企業が官報での公告をしているという結果が出ていました。情報開示に消極的な企業が多いからだと予想されています。
日刊新聞紙
日刊新聞紙とは、いわゆる毎日発行される普通の新聞のことです。3つの方法の中では、もっとも多くの人の目につく公告方法となります。
日刊新聞紙で公告するメリットは、自社の経営状態を広く周知できる点です。しかし掲載費用の高さもあり、利用企業は全体の14.5%に留まっています。
電子公告
電子公告とは、自社の公式サイトや信用調査会社などの外部機関のサイトにて、公告データを掲載する方法です。
データさえあれば、官報や日刊新聞紙のように発行を待たずにすぐ公表できるのがメリットです。ただし、他の方法よりも長期間公表し続ける必要があります。利用企業は、全体の2.4%ともっとも低い数値となっていました。
決算公告の提出期限の定めはない
決算公告の提出期限については、とくに法律上の定めがありません。会社法440条には「定時株主総会の終結後に遅滞なく」とだけ記載されています。ただし、できるだけ早めの公告が推奨されています。
未公告による罰則は実質なし?
会社法や一般社団法人及び一般財団法人に関する法律においては、決算公告を行わなかった企業に対し100万円以下の過料に処すると定められています。
しかし実際のところ、決算公告を行わない企業に罰則が課せられるケースはほとんどないと言われています。そのため、決算公告を実施しない企業が多いのも事実です。
とはいえ、決算公告をしない限りは過料に処されるリスクは存在します。
決算開示の45日ルールを知っておこう
決算開示の45日ルールとは、決算短信と四半期報告書を対象にした開示についての規程です。決算短信のルールは取引所規則、四半期報告書は金商法において定められています。
性質上、45日ルールが課せられるのは上場企業や大企業のみですので、中小企業や小規模事業者が意識する必要はありません。
しかし経営者として決算に関するルールを知っておけば、設備投資や経済情報のチェック時のときなど、経営活動にて役に立つこともあるはずです。