老後の資産形成方法として注目されている「iDeCo(イデコ)」は、優れた税制優遇による節税効果が大きなメリットだと言われています。
しかし、中には「iDeCoは節税にならない」といった声もあることから、「iDeCoって実際はどうなの?」と疑問に思う方もいるのではないでしょうか。
当記事ではiDeCoの概要や節税効果、シミュレーターを活用した簡単なシミュレーション、iDeCoの節税効果が嘘かどうかの考察などを解説します。
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは?簡単におさらい
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、厚生年金や国民年金などの公的年金とは別枠で実施されている私的年金です。2022年7月時点では、全国で約256.2万人が加入しています。
iDeCoは積立が基本の公的年金とは違い、拠出したお金で自分が購入した投資信託や元本確保型商品(定期預金や保険商品など)を運用する制度です。その運用益+掛金の合計額を、年金形式や一時金として受け取れます。
iDeCoの商品を買ったり管理したりするのは、iDeCoの取り扱いが認められた運営管理機関の金融機関です。メガバンクから地方銀行、ネット証券まで、さまざまな金融機関がiDeCoに対応しています。
iDeCoの主な特徴は次のとおりです。
・毎月の掛金は「5,000円」~「公的年金保険・企業型確定拠出年金の加入状況ごとで決まった金額」までの範囲で設定できる
- 拠出額は1,000円単位で設定できる
- 掛金額は1~12月の間で1回だけ変更できる
- 原則として65歳になるまで積立と運用ができる
- 60歳になるまでは原則として積立・運用分を引き出せない
さらにiDeCoの大きな特徴として挙げられるのが、掛金を支払うときや積み立てた金額を受け取るときなどに、さまざまな税制優遇措置が適用される点です。大きな節税効果が期待できます。
→iDeCoに対応している金融機関一覧 iDeCo公式サイト
iDeCoの節税効果って?税金が安くなる3つの優遇措置
iDeCoの節税効果とは、具体的には以下3つの税制上の優遇措置のことです。
- 【積立時】毎月支払う掛金分が全額所得控除となる
- 【運用時】発生した運用益はすべて非課税になる
- 【受取時】退職所得控除や公的年金控除が適用できる
以下では、具体的な節税効果をみていきましょう。
【積立時】毎月支払う掛金分が全額所得控除となる
毎月支払うiDeCoの掛金は、その全額が所得控除の対象です。この控除を小規模企業共済等掛金控除と呼びます。この控除分を適用した後に税金を計算するため、所得税・住民税のどちらも安くなります。
例えば毎月2万円拠出している場合は、2万円×12ヵ月=24万円分の所得控除の適用が可能です。適用前の課税所得が300万円だとすると、以下の違いが生まれます。
【小規模企業共済等掛金控除なし】 | 所得税 | 300万円×10%-9.75万円=20.25万円 |
---|---|---|
住民税 | 300万円×10%=30万円 | |
【小規模企業共済等掛金控除あり】 | 所得税 | (300万円-24万円)×10%-9.75万円=17.85万円 |
住民税 | (300万円-24万円)×10%=27.6万円 |
※復興特別所得税は考慮しない
所得税・住民税を合わせて4.8万円分の節税効果が出ました。これが10年、20年と続いていくと、数百万レベルの節税が見込めるでしょう。
なお、iDeCoの拠出限度額は次のとおりです。
加入資格 | 月額 | 年額 | |
第1号被保険者・任意加入被保険者 | 6.8万円 | 81.6万円 | |
第2号被保険者 | 会社に企業年金がない会社員 | 2.3万円 | 27.6万円 |
企業型DCのみに加入している会社員 | 2万円 | 24万円 | |
DBと企業型DCに加入している会社員 | 1.2万円 | 14.4万円 | |
DBのみに加入している会社員 | |||
公務員等 | |||
第3号被保険者 | 2.3万円 | 27.6万円 |
※ 企業型DC:企業型確定拠出年金
※ DB:確定給付企業年金、厚生年金基金、石炭鉱業年金基金、私立学校教職員共済
小規模企業共済等掛金控除を適用するには、自営業者は確定申告、会社員は年末調整で対応します。
【運用時】発生した運用益はすべて非課税になる
金融商品を運用して一定以上の利益を得た場合、本来は運用益に対して一律20.315%の税金がかかります。しかしiDeCoで出た利益だと、運用益がすべて非課税となります。
つまり、引かれるはずだった20.315%分の税金を、すべてiDeCo商品への再投資に回せるのです。
【受取時】退職所得控除や公的年金控除が適用できる
60歳以上になってiDeCoの積立・運用分(老齢給付金)を受け取るとき、年金形式で受け取るか、一時金として受け取るかを選択できます、
どちらを選択した場合でも、受取方式に応じた控除が適用可能です。受取方式による控除額の違いを解説します。
年金形式なら公的年金等控除
年金形式での受け取りなら、他の公的年金と同じく公的年金控除の対象になります。
公的年金等控除は、iDeCoと公的年金を合算した後の所得金額・年齢に応じて、40万円~195.5万円の範囲で適用される所得控除です。
一時金で一括受け取りなら退職所得控除
一時金で一括受け取りなら、退職金と同じく退職所得控除の対象となります。退職所得控除の計算式は次のとおりです。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数(※1、2) |
20年超え | 800万円+70万円×(勤続年数-20万円) |
※1 退職金とは別でiDeCoに退職所得控除がかかる場合は、勤続年数ではなくiDeCoの加入年数
※2 iDeCoと退職金を同時に受け取るときは、勤続年数とiDeCoの加入年収のいずれか長い方を適用
もし退職金とiDeCoを同時に受け取る場合は、双方を合算した後に退職所得控除を差し引きます。ただし、次のいずれかに当てはまる場合は、それぞれに退職所得控除が適用されます。
・先に退職金を受け取った後、iDeCoの一時金受け取りまで15年以上経過している
以上のことから、iDeCoの一時金と退職金は5年以上ずらして受け取るようにすると、より大きな節税効果が得られるでしょう。
一部年金・一部一時金という受け取りも可能
iDeCoの受け取りは、「1,000万円だけ一時金でもらって、1,500万円は年金形式で受け取る」といった、一部年金・一部一時金という形でも可能です。
このケースだと、1,000万円には退職所得控除、1,500万円には公的年金等控除が適用されます。
例えば、全額一時金での受け取りだと退職所得控除が使い切れないケースの場合、退職所得控除で控除しきれる分だけ一時金とし、残りは公的年金等控除で対応するという節税方法があります。
iDeCoの節税効果シミュレーション
「iDeCoへの加入を考えているけど、大体どれくらいの節税効果になるか調べてから検討したい」という方は、事前にiDeCoの節税効果に関するシミュレーションを行うとよいでしょう。
シミュレーションと聞くと難しそうではありますが、現在では入力するだけで誰でもシミュレーションできる、iDeCo節税シミュレーターがWeb上で公開されています。
また、総合的なプランを提案してくれるIFA・FPサービスを利用すれば、より正確なシミュレーションも可能です。
iDeCoの節税シミュレーターを出している企業
iDeCoの節税シミュレーターをWeb上で公開している組織や企業は、主に次のとおりです。
シミュレーターによっては、ふるさと納税やつみたてNISAのシミュレーションができるものもあります。
iDeCoの節税効果シミュレーション例
今回は楽天証券が提供している節税シミュレーションを用いて、iDeCoでどれくらいの節税効果が期待できるかを計算しました。
今回使用した条件は次のとおりです。
- 25歳から65歳の40年間加入
- 年収は500万円
- 掛金は毎月2.3万円
- 年利は3%
なお、シミュレーションでは昇給や将来的な税制変更などは考慮されていません。年収額も500万円で40年間計算します(生涯の平均年収が500万円のイメージ)。
掛金分の節税効果
小規模企業共済等掛金控除40年分だと、所得税110万4,000円、住民税110万4,000円の合計220万8,000円の節税効果が出るというシミュレーション結果が出ました。最終的な掛金の積立額は1,104万円です。
運用時の節税効果
前述した1,104万円を元本とし、年利3%で40年間運用したとすると、運用益は1,025万9,369円にもなります。元本と合計すると、iDeCoによる積立総額2,129万9,369円にも上ります。
節税効果としては、205万1,874円です。
より正確なiDeCoシミュレーションはIFAやFPなどへ相談
各社が提供するiDeCoの節税シミュレーターは、あくまで簡易的な計算結果のみを表示します。
「昇給に応じて掛金額を少しずつ上げたい」「運用商品も様子を見ながら変更したい」など、各個人の計画に応じたiDeCoのシミュレーションを行いたいときは、資産運用に詳しい第三者への相談をおすすめします。
例えば、資産運用のプロであるIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)や、お金に関する総合的な相談ができるFP(ファイナンシャルプランナー)などです。
ただし、IFAやFPは各人で対応できる領域が異なります。相談先を選ぶときは、年金やiDeCoを得意分野としているかもチェックしましょう。
iDeCoの節税効果が嘘って本当? シチュエーション別で考察
iDeCoに関する書籍や記事の中には、「iDeCoの節税効果は嘘である」と解説しているものがあります。
では実際のところ、この情報が真実かどうかといえば、「iDeCoは状況によって得する場合と損する場合に分かれる」と当記事では結論付けています。
以下ではシチュエーション別で、iDeCoの節税効果が嘘かどうかを考察しました。あくまで考察の範囲であるため、参考程度にご覧いただけると幸いです。
掛金の控除は課税の繰り延べ? 今使えるお金が減る?
iDeCoで支払った掛金分は、小規模企業共済等掛金控除として所得控除の対象となります。しかし見方を変えると、「今持っている資産を減らして、未来へ繰り延べている」とも言えます。
所得税が控除されたり運用で年金の増額が期待したりができるとはいえ、毎月5,000円以上の出費が確定しているのは間違いないのです。
現在の資産が減るデメリットは次のとおりです。
- 結婚式や教育資金、自己投資、その他プライベート用に回すお金が少なくなる
- iDeCoはすぐに引き出せないので流動性が著しく低くなる(緊急時でも即座に換金しづらい)
- 受け取るiDeCoの金額が増えても、受取時点で課税される金額も増える(所得が増えると税率が10%→20%以上になる可能性もあり)
老後の生活を重視するあまり、現在のライフイベントや人付き合いが疎かになるのも考えものです。
今の生活や勉強へ投資するほうが、結果的に収入が上がって貯蓄額も増える可能性もあります。
毎月の掛金額やiDeCoを始めるタイミングなどは、自分のライフプランや資産状況と相談した上で決めるのがよいでしょう。まずは余剰資金の一部だけを使った少額運用から始めてみるのもおすすめです。
働いていない人はちょっと損?
所得控除である小規模企業共済等掛金控除は、言い換えれば収入がないときはいくら掛金を支払っても控除分が無駄になります。
現在働いていない方や専業主婦の方、他の所得控除だけで課税所得がゼロになる方などは、小規模企業共済等掛金控除の恩恵が受けられません。節税効果は少し低くなると言えます。
運用益によっては掛金分の投資に見合わない?
iDeCoは国が主導する公的な制度ですが、あくまで金融商品の運用なので元本保証はありません。商品の運用成果によっては、支払った掛金に見合わない積立額になる可能性もあるでしょう。
iDeCoで商品を購入する際は、投資の基本である長期・積立・分散の基本を意識しての運用をおすすめします。
なお、万が一の運営管理機関が破たんしても、iDeCoの場合は全額が守られます。また、購入した商品の販売会社や運用会社が倒産した場合も同様です。
iDeCoの活用や資産運用についての相談は専門家へ
iDeCoを最大限活用するには、自分の資産状況や意思に応じた掛金額の設定・金融商品選びなどが重要です。漠然と掛金を支払うのではなく、事前シミュレーションや資産運用の目標設定などを行いましょう。
iDeCoについての相談や、iDeCoを活用した資産運用プラン・ライフプランの作成などを行いたい方は、IFAやFPといったお金の専門家への相談がおすすめです。iDeCo活用のコツや最適なプランなどを、顧客目線でアドバイスしてくれます。
また、金融機関の営業員と比較して長期的なパートナーシップを結びやすいのもメリットです。無料相談から受け付けているIFA法人・FP事務所も多いので、ぜひご活用ください。