会社設立において資本金をいくらにすべきかお悩みではありませんか。
資本金とは、会社設立に向けての事業資金のことです。100万円〜300万円程度の資本金で会社設立をする経営者が多いです。
しかし、資本金が低すぎると融資をしてもらえなかったり、取引先と契約が結べなかったりという事態に陥ることもあり得ます。
本記事では、妥当な資本金の金額の決め方について、わかりやすく解説します。振込方法についても説明しているので、会社設立の手続きの参考にしてください。
適切な資本金の金額を理解し、余裕を持って経営をしましょう。
会社設立で欠かせない!資本金とは?
資本金とは、会社設立に向けて払い込まれた事業の軍資金のことです。
経営者自身の手元資金だけでなく、他の株主や投資家から調達した資金も資本金に含められます。
会社法第445条では、以下のように定められています。
株式会社の資本金の額は、設立又は株式の発行に際して株主となる者が、当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。
資本金は、会社が発行した株式と交換に株主から受け取ったお金の総額です。つまり、株式発行と交換に株主から預かった事業の元手ともいえます。
株主に対して、出資してもらったお金を返済する必要はありません。資本金が多いほど、会社の資金繰りは楽になると考えましょう。
資本金の振込みは定款認証の後に行おう
資本金は、定款にて額を定めます。定款とは、会社運営における基本的な規則を定めたものです。
たとえば、会社の名称や事業内容、目的、役員についてを定款で定めます。定款で定めた資本金の額の通り、資本金を1つの口座へ振り込まなければなりません。
定款の認証を受けた後に資本金の入金を行うことになっているので、順序に従いましょう。
会社設立時の資本金に最低額はない!金額の決め方
「資本金はどれくらいの額にしたら良いんだろう?」と悩む経営者は多いです。
資本金は、いくらに設定しても問題ありません。1円からでも会社を設立することができ、最低額は定められていません。
とはいえ、低い資本金で会社を設立する人は少ないです。おおよそ100万円〜300万円程度の資本金をする方が多いです。
だからといって、資本金の額を周りに合わせる必要はありません。
具体的には、以下のような4つの観点から金額を決定することをおすすめします。
- 運転資金の3か月分以上にする
- 取引先の与信審査基準に合わせる
- 許認可事業の要件を確認する
- 節税できる金額に設定する
運転資金の3か月分以上にする
最低でも、3ヶ月分の運転資金は用意しておきましょう。
なぜなら、法人を立ち上げてすぐは売り上げが立ちづらいからです。そのため、売り上げがなくても3か月〜6か月分の固定費・経費を支払える程度の資本金があると安心です。
逆に、3か月程度の費用がなければ売り上げがないまま倒産することになりかねません。
最低限、3か月程度の運転資金を準備しましょう。
取引先の与信審査基準に合わせる
取引先として契約を交わしたい会社があるのであれば、相手の与信審査基準に合わせることも必要です。というのも、資本金の額で取引先を選定する会社は少なくありません。
倒産する可能性のある会社と取引をしないよう、資本金の額を見てから契約を交わすのです。
たとえば、「契約金の6か月分以上の資本金」などと定めているケースがあります。万が一、与信審査が通らなければビジネスが成立しないかもしれません。
仕入れや輸入などで大きな取引を継続的に行うつもりがあるのなら、相手の会社の与信調査の項目を聞いておきましょう。
許認可事業の要件を確認する
許認可事業を開始する場合、事業内容によって資本金の要件が定められているケースがあります。
許認可事業 | 資本金要件 |
---|---|
建設業 |
|
旅行業 | 基準資産額(※)+保証金の金額以上 (基準資産額)
|
労働派遣業 | 2,000万円以上 |
有料職業紹介業 | 500万円以上の基準資産額(※) |
貸金業 | 5,000万円以上 |
※基準資産額とは旅行業法上の用語で、資産から繰延資産や営業権、負債の額などを差し引いた残りの額を指します。処分可能な残り財産額のようなイメージです。
資本金要件を満たさなければ許可・認可を受けられないため、あらかじめ確認しておきましょう。
節税できる金額に設定する
資本金の額によって、税額が大きく変わるので注意して設定しましょう。
資本金1,000万円を超えると、以下の税金に影響が出ます。
- 消費税の納付義務
- 法人税の均等割
消費税の納付義務
資本金1,000万円以上で会社設立をすると、事業初年度から消費税の納税義務が発生します。
消費税は8%〜10%なので、所得に対して8%〜10%の税金を支払わなければなりません。
一方、資本金1,000万円未満の事業主は会社設立後2事業年度は原則、免税事業者として取り扱われます。そのため、会社を設立してしばらくの間は、消費税を払う必要はありません。
消費税の納税義務の有無が資本金の額で判断されることを覚えておきましょう。
ただし、資本金が1,000万円未満であっても、一定の条件に当てはまる場合は消費税の納税義務が生じるのでご注意ください。
法人税の均等割
法人税の均等割とは、法人の住民税の1つで都道府県と市町村にそれぞれ納める税金です(東京都は都にまとめて納付)。
法人税の均等割は、資本金の額と従業員の数で金額が決まります。
資本金の額 | 従業員数 | 市町村民税 | 道府県民税 |
---|---|---|---|
1,000万円以下 | 50人超え | 12万円 | 2万円 |
50人以下 | 5万円 | ||
1,000万円超え〜1億円以下 | 50人超え | 15万円 | 5万円 |
50人以下 | 13万円 |
資本金1,000万円以下で従業員が50人以下であれば、合計7万円の支払いで済みます。
しかし、資本金1,000万円を超えてしまうと従業員が50人以下であっても、合計18万円支払わなければなりません。たとえ、赤字であっても法人税の均等割を納付する義務があります。
ちなみに、東京23区は特別区なので市町村民税と道府県民税をあわせて「都民税」として都税事務所に納付します。
小規模な会社を設立するのであれば、資本金1,000万円未満で設立しましょう。
消費税は免税事業者かつ、法人税の均等割も最低限で済ませることができます。
会社設立時に資本金を低い額にするとデメリットが多い
「資本金に最低額はない」とはいえ、会社設立で低い金額を設定するデメリットは多いです。
主に、以下のような3つのデメリットが出てくるでしょう。
- 融資が受けづらい
- 取引先の与信審査に通らない
- 従業員の採用がしづらい
融資が受けづらい
金融機関の融資審査が通りづらいです。
なぜなら、資本金が少ないと貸したお金が返ってこないかもしれないからです。
たとえば、資本金が100万円しかない経営者に対して、2,000万円も融資する金融機関はありません。実際のところ、融資額は資本金の2〜3倍程度+α程度と言われています。
資本金が100万円なのであれば、融資額は300万円〜500万円程度となるでしょう。最低でも、受けたい融資金の半分の資本金を用意しておくことが望ましいです。
取引先の与信審査に通らない
資本金が低いと、取引先の与信審査に通らない可能性があります。
というのも、以下のようなリスクをなくすためです。
- 未払いが発生する
- 仕入れができなくなる
倒産するとこのようなリスクが発生するため、体力のある会社に限定して契約を交わす会社は多いです。
会社の体力の1つの指標として、資本金の額をチェックされることがあります。取引先の与信が通らなければ、良い商品やサービスを提供していても契約してもらえません。
逆に、自社が客としてサービスを利用したいと思っても、「未払いになるかもしれない」と判断されて契約できないこともあります。
あまりにも低すぎる資本金は避けることをおすすめします。
従業員の採用がしづらい
従業員を雇いたいと思っていても、資本金の少ない会社に勤めることをリスクだと考える人は多いです。
なぜなら、資本金が少なければ倒産のリスクが高いと考えられるからです。そのため、求人情報を掲載しても入社を希望する人を見つけることが難しいでしょう。優良な人材がいても、逃してしまうかもしれません。
安定した会社だと思ってもらうためにも、資本金の額は重要なのです。
会社設立時の資本金で気をつけるべき2つの注意点
会社設立時に資本金の額を安易に決められません。しかし、資本金を多く見せようと借入金や友人・知人のお金を一時的に入金することは禁止されています。
資本金において、以下の2つのことには注意しましょう。
- 借入金は資本金に算入できない
- 見せ金をすると違法行為になる
(1)借入金は資本金に算入できない
借入金は、資本金に算入することができません。
なぜなら、資本金は自己資金を示すものだからです。
- 金融機関の融資
- カードローン
- 家族や知人からの借り入れ
これらすべて返さなければならないお金なので、資本金として扱ってはいけません。借入金を資本金として算入すると、「見せ金」とみなされてしまいます。
(2)見せ金をすると違法行為になる
見せ金は、違法行為とされています。見せ金とは、資本金(自己資金)を多く見せるために一時的に銀行に入れたお金のことです。
実際にはないお金を資本金として見せかけており、債権者を欺く行為とされます。
金融機関は資本金を自己資金とみなして融資金を決定します。そのため、見せ金で希望融資を申請すると詐欺行為になるのです。
一見、「借金であれば自分で返すから良いのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、借金は後々返さなければならないので、会社の資本としてみなすことはおかしいです。
資本金はあくまでも株主が出資したお金の総額でなくてはならず、返す必要のないお金を提示する必要があります。
資本金の払い込みを証明するための4つの手順
資本金の額が決まり目標の金額が集まったら、資本金の払い込みを行いましょう。
以下の4つの手順で、資本金が確かにあることを証明します。
- 発起人名義の個人の銀行口座を用意する
- 個人口座から資本金入金用口座に資本金を振り込む
- 通帳のコピーを取る
- 払込証明書を作成する
(1)発起人名義の個人の銀行口座を用意する
発起人名義の個人の銀行口座を資本金入金用口座として1つ用意しましょう。
発起人とは、資本金を支払う人のことです。一人で会社設立をする場合、代表取締役一人が発起人です。
複数の発起人がいるのであれば、発起人の代表となる人の個人口座を使うことになります。そのため「どれだけの金額が」「誰から」振り込まれたかを証明するために、通帳が必要です。
通帳が発行されないネット銀行の場合、振込結果照会を発行してもらったり明細を印刷したりするなどの対応をしなければなりません。
あとで「どれだけの金額が」「誰から」振り込まれたかが分かる銀行で、資本金入金用口座を用意しましょう。
(2)個人口座から資本金入金用口座に資本金を振り込む
個人の口座から資本金入金用口座へ資本金を振り込みましょう。振り込みの際、「預入」ではなく「振込」をしないと誰がいくら入金したかわかりません。
お金を入れた人の名前が通帳に印字されるよう、注意しましょう。
(3)通帳のコピーを取る
払込証明書を作成するために、資本金入金用口座の通帳の以下の部分をコピーしましょう。
- 表紙
- 氏名・支店名・口座番号などが記載されているページ
- 入金額と振込人が印字されているページ
他の書類と止めるので、1ページごとにA4サイズの用紙にコピーしておきましょう。
ここまでできたら、資本金を使うことができます。事業のための資金なので、テナント料や仕入れなどに使うことが可能です。
(4)払込証明書を作成する
最後に、払込証明書を作成しましょう。
払込証明書とは、資本金の振り込みが各発起人から行われたことを証明するための書類です。
この証明書がなければ、会社設立の手続きができません。特にフォーマットの指定はありませんが、以下の項目を記載しましょう。
- 振り込みされた資本金の総額
- 振り込みがあった株式数
- 1株あたりの振込金額
- 振り込みの日付
- 会社の所在地
- 会社名
- 代表取締役の名前
代表取締役の名前の横と下部の余白部分に会社の代表印を捺印します。
さらに、通帳のコピーを以下の順番で綴じます。
- 表紙
- 氏名・支店名・口座番号などが記載されているページ
- 入金額と振込人が印字されているページ
左側を上下2か所を止め、各ページに割印をしましょう。会社の設立登記の際に払込証明書が必要なので、一緒に提出しましょう。
資本金は会社設立後増資や減資できる?
資本金は会社設立後、手続きを行えば増資も減資も可能です。
資本金を増資・減資する方法を順番に見ていきましょう。
増資する2つの方法
増資とは、資本金の額を増やすことです。
以下のような理由から、増資をすることがあります。
- 株主や投資家から事業資金を集める
- 株主を増やす
資本金の増資を行うには、大きく2つの方法があります。
- 無償増資(株式分割)
- 有償増資
(1)無償増資(株式分割)
無償増資とは、会社内の資産の一部を資本金に入れて新しく株式を発行する方法です。資金は増えていないため、資金調達にはなりません。
無償増資は、現在「株式分割」と呼ばれます。
たとえば、1株1,200円の株式を1:3で分割をし、株式数を3倍に増加させるのです。このとき3株3,600円となるわけではなく、3株で1,200円となります。そのため、資本状態の変化は何もありません。
しかし、株式分割をすれば株主の保有する株式数が増え、配当金が増加させられます。また、1株当たりの金額が下がるので、個人投資家が投資しやすくなることもメリットです。
公開株式の場合、売り手・買い手の取引を促すことにつながり、長期的に株価の値上がりが期待できます。
(2)有償増資
有償増資とは、新しく株式を発行して払い込みを受ける方法です。
増資した分の資金が会社に入ってくるため、財務状況が安定します。
他にも、以下のようなメリットがあります。
- 事業規模を大きく見せて社会的地位を確立させる
- 資本金を使って事業の拡大ができる
有償増資をするには、以下の2つの方法があります。
- 株主割当増資
- 第三者割当増資
株主割当増資
株主割当増資とは、株主の議決権割合を変更するために行う増資方法です。
既存の株主に対して、持ち株の割合に応じて新しく株を割り当てます。株主数を増やすことはできません。
第三者割当増資
既存・新規にかかわらず、特定の第三者に新株を割り当てて引き受けてもらう増資方法です。
中小企業の資金調達によく使われる増資方法で、一般的に取引先の企業や銀行、役員などに新しく株式を発行します。
これによって持ち株の割合が変動し、経営権が変更することもあるので注意しましょう。
減資する2つの方法
減資とは、資本金の額を減らすことです。
以下のような理由から、減資をすることがあります。
- 節税
- 経営の立て直し
- 株主への財産払い戻し
資本金の減資を行うには、大きく2つの方法があります。
- 無償減資
- 有償減資
(1)無償減資
無償減資とは、会社の欠損を補填するために資本金を充当する減資です。
貸借対照表の資本金と繰越欠損金を相殺することができます。
会社の財務状況が悪い場合、資本金を使って支払いを行うことがあります。資本金が減ってしまいますが、売り上げの見込みがない場合などに使えるでしょう。
また、資本金を1,000万円未満にして節税する場合にも、無償減資が使われます。
(2)有償減資
有償減資とは、減資手続きをすることで生じた余剰金を株主へ支払うための減資です。
株主へ配当を出す意思があっても、会社に金銭の財産がなければ配当することはできません。
そこで、資本金を下げることで余剰金を発生させて株主配当への財源とするのです。このとき会社からお金が株主へと流れ出ているため、事業規模は縮小してしまいます。
一時的な業績悪化の場合にのみ活用しなければ、資金繰りが悪くなった時に資本金すらない状況になるので注意しましょう。
おわりに
資本金とは、会社設立に向けての事業資金のことです。多くの創業者が100万円〜300万円程度の資本金を準備して会社設立しています。
資本金の額は、以下のようなポイントを考慮した上で決定しましょう。
- 運転資金の3か月分以上にする
- 取引先の与信審査基準に合わせる
- 許認可事業の要件を確認する
- 節税できる金額に設定する
資本金に最低額は設けられていませんが、社会的信用を得るためにある程度の額を準備しておくことが望ましいです。新しく設立する会社の適切な資本金の金額を理解し、余裕を持って経営をしましょう。