自分で起業した場合、社長であるご自身の給料額をいくらに設定すればいいのか悩むでしょう。あまりにも少ないとモチベーションが上がりませんし、高すぎても会社の経営を圧迫することにつながります。
この記事では社長の給与相場や具体的な決め方を紹介。社長の報酬額は設定したら1年間は基本的に変更できません。注意点もおさえたうえで適切な金額設定をおこないましょう。
【従業員数別】社長の給料相場はいくら?
社長に支払う給与は、厳密にいうと「役員報酬」といいます。社長自身で決めることもできますが、いくつかの注意点があるので注意が必要です。
具体的な設定方法や注意点をお伝えする前に、社長の報酬相場をご紹介します。
ここでは、労務行政研究所が毎年発表している調査まとめ「役員報酬・賞与等の最新実態」の2020年度版を参考に、従業員数別に見ていきましょう。
この調査は全国の上場企業と非上場企業3,738社のうち、回答した141社を集計したものです。会社規模が大きくなればなるほど、社長の年収相場も高くなる傾向が結果に出ています。
ご自身の会社と比較しながら参考にしてみてください。
従業員数 | 年収相場 |
従業員1,000人以上 | 6,166万円 |
従業員300人以上999人以下 | 4,167万円 |
従業員300人未満 | 3,334万円 |
社長の給与を決める際にやってはいけない6つの方法
社長が自分で設定できる社長の役員報酬。設定する際にやってはいけない方法があるので注意しましょう。ここでは以下の6つの点についてお伝えします。
- 生活費をもとに設定する
- 前職の給与額を参考にする
- ゼロ円で働く
- 月によって変動させる
- 従業員を犠牲にして高く設定する
- 社長へのボーナス支給
順番に見ていきましょう。
生活費をもとに設定する
社長自身で決められることから、自分の生活費を参考にして報酬額を設定することがよく見られます。たとえば、生活費が月に30万円かかるから社長報酬も30万円に設定するというようなパターンです。
しかし、これは避けたほうがいい報酬の設定方法。生活水準は会社とまったく関係ありません。一度決めた報酬額は最低1年間は変更できませんし、会社規模によっては株主総会が必要になる場合もあります。
生活費だけで給料額を決めるのではなく、経営面や具体的な理由をもって設定しましょう。
前職の給与額を参考にする
前職の給与額を参考に社長報酬額を決めるパターンもよく見られますが、こちらも避けたほうがいい設定方法。生活費と同様で、前職の給与額も現在の会社とは関係がありません。
また、前職とまったく同じことをするわけでもなく、会社員から社長になった場合は業務内容自体が変更になります。論理的に説明がつきませんし、変更には株主総会が必要になる可能性もあるため、社長報酬の決め方としては好ましくありません。
ゼロ円で働く
会社創設したばかりで利益が多くないからと、報酬を受け取ることなく働くケースもあるでしょう。一見すると、報酬を受け取っていないのだから問題ないように感じるかもしれません。しかし、このような対応も社長報酬の決め方としてはNGです。
これから事業を拡大していくのであれば、それ相応の報酬を受け取るのは当たり前のこと。報酬額を0円にして黒字になったとしても、健全な経営ができているとは言えません。
役員報酬を適正価格で受け取ったうえで、次年度以降に黒字化できるように営業活動をしていきましょう。
月によって変動させる
社長へ支払う給与は、給料ではなく「役員報酬」です。一般的に役員報酬は毎月固定額に設定する必要があり、月によって変動させることはできません。
たとえば、たくさん利益が出そうな月だけ利益を調整するために役員報酬を増やすことは認められません。
毎月の役員報酬を変動させる方法もありますが、あらかじめ届出をする必要があります(事前確定届出給与)。そのため、多くの企業では毎月定額の役員報酬を支払っており、業績悪化など、特別な事情がない限り月によって変動させることは認められていません。
なお、月の途中で役員に就任・退任した人のために役員報酬を日割りしたい場合には「役員報酬を日割りで支給できるか|退任や役職変更時の対応」の記事を確認してください。
従業員を犠牲にして高く設定する
コスト削減の面から従業員の報酬をおさえているのに、自分自身の報酬は高く設定するのは絶対に避けるべきこと。従業員から見たら、自分たちだけが苦労を強いられてモチベーションが下がってしまいます。
社長も頑張ってはいますが、自社を守るのは経営者の務め。会社のために頑張ってくれている従業員のやる気を削ぐような報酬設定は絶対にやめましょう。
社長へのボーナス支給
社長へのボーナスは経費にならないことにも注意が必要です。ボーナスを支払うことはできますが、支払っても会社の経費として計上することはできません。
一方で、受け取った社長からすると所得扱いになります。当然、所得税や住民税、社会保険の支払いが発生するため、意味がないといっても過言ではないでしょう。
ボーナスについて詳しく知りたい方は「決算賞与とボーナスの違いとは?押さえておきたいポイントをまとめて解説!」の記事も参考にしてください。
社長の役員報酬を決める2つのやり方
社長の役員報酬を決めるには2つの方法があります。
何度もお伝えしていますが、役員報酬は一度決めると1年間は報酬額の変更ができません。また、会社規模によっては株主総会での変更決議が必要になるため、最初の設定をきちんとやっておく必要があります。
ここでは次の2種類ご紹介しましょう。
- 会社に利益を残さない額にする
- 会社に利益が残る額にする
会社に利益を残さない額にする
会社に利益を残さない額に設定する方法は、役員報酬を多く支払うことで会社経費を高くして利益を低くするやり方です。法人税の節約になる価格設定方法になります。
たとえば、売上高が50万円で20万円の社長給料を支払った場合、利益は30万円です。法人税は利益に対して課税されるため、この企業は30万円に法人税がかかってきます。
一方で、同じく売上高が50万円で、50万円の報酬を支払った場合、会社の利益は0円。法人税のかかる利益がないため、法人税の節約です。
しかし、デメリットもあります。銀行から融資を受けたい場合に担保や社長の個人保証が必要になったり、万が一のトラブルに現金不足で対応できない可能性があったりすることに注意しましょう。
また、報酬を受け取った経営者には所得税や住民税、社会保険の支払いが課せられます。これらは収入額に課税されるため、報酬額が高くなるほど、社長が支払う税額も増えることに。社長自身の節税にはなりません。
また、同業他社と比べて非常に高い部分の役員報酬は、経費として認められない可能性があります(法人税法36条)。会社に利益を残さないよう、あまりにも高額な報酬にするとリスクがあると覚えておきましょう。
法人税について詳しく知りたい方は「法人税法とは?種類や計算方法・気になる節税方法も紹介!」もチェックしてください。
会社に利益が残る額にする
会社に利益を残る額に設定する方法は、役員報酬を少なく支払うことで会社経費を下げ、利益を高くするやり方です。会社に現金が残るため、資金繰りの面でメリットがあります。
融資を受けていて月々の返済が必要であったり、リース代の支払いがあったりと、毎月決まって支払いが必要になる場合、現金がないことにより経営が苦しくなることも。キャッシュフローが滞ってしまうと、最悪のパターンで黒字倒産になる危険があります。
そのようなトラブルを避けるためにも、多少の現金は会社に残しておきたいもの。そのため、会社に利益が残るような価格設定をして社長の給料を決める方法があります。
会社に利益が発生するため法人税の支払いは必要です。しかし、銀行からの借り入れや融資を受ける際に担保を用意する必要がなくなったり、万が一、急きょ現金が必要になった場面でも慌てることなく対応できたりするメリットがあります。
また、報酬支払額が低くなるため、社長自身への所得税や住民税、社会保険の課税額が低くなるというメリットも。
黒字倒産について気になる方は「黒字倒産とは?倒産しない会社との違いと要因や予防法とは?」も合わせて読んでみてください。
社長の給与額の設定は慎重におこないましょう
社長の報酬額は、従業員数の多い企業ほど高くなる傾向があります。しかし、社長の給与は一度決めたら1年間は変更できません。自社の規模や状況に応じた報酬額の設定をおこないましょう。
自分の生活費や前職の給与を基準にしたり、月によって給与額を変えたりするのはNG。会社に利益を残すのか、残さないのかによって、報酬額は変わってきます。節税や将来の借り入れなど多方面から検討しましょう。
社長の給料の金額設定に迷ったら、税理士に相談するのがベターです。節税面など広い視野を持って正しい設定方法や報酬額をアドバイスしてくれます。
税理士について詳しく知りたい方は「税理士にはどんなことを頼める?顧問契約とスポット利用の費用相場とは」の記事も参考にしてくださいね。