東京都にある事業者が利用できる「テレワーク促進助成金」の申請期限が、2022年2月28日まで延長となりました(予算範囲を超えた場合は終了)。テレワーク促進助成金とは、テレワークを導入・運用した事業者に対し、最大250万円の助成を行う制度です。
東京商工会議所の「中小企業のテレワーク実施状況に関する調査」によると、中小企業や小規模事業者はテレワーク導入に苦戦していると結果が出ています。金銭的にテレワーク導入が難しい事業者は、本助成金やその他の助成金・補助金制度の活用も検討してはいかがでしょうか。
当記事ではテレワーク促進助成金の概要や、その他テレワークが関係する助成金・補助金制度、テレワークを導入するメリット・デメリットを解説します。
※当記事は2022年1月時点での情報を記載しています。
【東京限定】テレワーク促進助成金とは?対象事業者や支給額
テレワーク促進助成金とは、新型コロナウイルス感染拡大防止と経済活動の両立に向けてテレワークを定着させる目的で、2021年5月10日よりスタートした東京都独自の助成金制度です。
以下ではテレワーク促進助成金の対象事業者・費用・支給額などの概要を解説します。
テレワーク促進助成金の対象事業者
テレワーク促進助成金を受けるには、「テレワークの実施環境を整える目的で、在宅勤務・モバイル勤務などを可能にする情報通信機器等を導入すること」が必要です。もともとテレワークが可能な設備を整える事業者は、原則として本助成金の対象にはなりません。
加えて本助成金は、以下の条件に合致する事業者のみが対象です。
- 常用する労働者が2人以上~999人以下
- 都内に勤務する常時雇用の労働者が2人以上
- 対象にしたい本社または事業所が東京都内に設置
- 過去の5年間に重大な法令違反等が一切なし
- 都税の未納付額がゼロ
- 最低賃金未満での雇用や残業代の未払いなどの労働関係法令の違反なし
- 作成した就業規則を労働基準監督署に届出済
- 東京都実施の「2020TDM 推進プロジェクト」に参加済み(2020年9月6日以降の申請事業者は不要) など
実施すべき事業計画と実績報告
テレワーク促進助成金の金額は、事務局へ提出した事業計画書に沿った事業活動を実施し、活動中に支出した経費に応じたものになります。そのため本助成金を受け取るには、本助成金制度の要件に合う事業計画の策定が必要です。
本助成金の対象になる事業計画の概要は次のとおりです。
- 対象となるテレワーク環境整備の取組が、他の整備(生産性向上や業務改善など)と明確に区別できるもの
- 支給が決定したから3ヶ月以内にテレワーク環境を整備し、テレワーク実施対象者がテレワーク勤務を行った実績が6回以上となるもの
- テレワーク実施対象者が都内事務所勤務の常用雇用の労働者であること
事業計画実施後は、支給決定日から4ヶ月以内に活動実績を報告します。実績報告書および添付書類を提出しましょう。事務局は活動報告書を正式に受領した後、最終的な助成金額を決定します。
なお、実績報告後には必要に応じて立ち入り調査や、追加の書類提出を求められる場合があります。
テレワーク促進助成金の支給額
テレワーク促進助成金の支給額は、支出した経費に助成率を乗じて決定します。助成率と支給上限額は次のとおりです。
事業規模 | 助成金の上限 | 助成率 |
---|---|---|
2人以上30人未満 | 150万円 | 1/2 |
30人以上999人以下 | 250万円 | 2/3 |
テレワーク促進助成金の対象経費|パソコン・タブレットも対象
テレワーク促進助成金の対象となる経費は、テレワーク実施を可能にする情報通信機器等の購入・リース・レンタル・保守管理の委託・システム導入時の運用サポートにかかる費用全般です。対象経費以外の支出は助成金額には反映されません。
対象経費の一部を以下でご紹介します。
対象経費 | 例 |
---|---|
税込単価1,000円以上~10万円未満の消耗品 | パソコン・タブレット・スマートフォン・周辺機器やアクセサリ |
税込単価10万円以上の業務用ソフトウェア | 財務会計やCADなどのソフト関連 |
設置・設定・保守委託・運用サポートなどの委託費 | VPN関連やシステム取り扱いの研修関係費用 |
機器関連のリース・レンタルの賃借費 | パソコンのリース・レンタル料 |
ソフトウェアの使用料 | ソフトウェア関連のライセンス使用料 |
ただし、本助成金の支給決定日以前に新しく導入したツールやシステムは助成対象外です。また用途・単価・規模の区別や確認ができない経費、テレワーク導入に関係ない経費、既存システムの再構築・改修にかかる経費なども対象になりません。
助成対象外経費の詳細は、公式サイトの公募内容をご確認ください。
テレワーク促進助成金の申請の流れと必要書類
テレワーク促進助成金を申請する流れを大まかにまとめました。
申請の流れ | 概要 |
---|---|
必要書類の準備・申請 |
|
事務局の審査・事業活動実施 |
|
実績報告書類提出・審査・支給額確定通知 | 支給請求時の必要書類を郵送にて事務局へ提出(申請時と同じ方法にて) |
助成金額の請求 | 支給申請額と確定支給額が異なる場合もあり |
指定口座へ助成金振込 |
|
本助成金は委任状を添付することで、社労士や行政書士、その他代理人による代行申請が可能です。
申請時に必要な書類は次のとおりです。
- 事業計画書兼支給申請書
- 本社・事業所の住所や常用雇用の労働者数が載っている事業所一覧
- 誓約書
- 雇用保険被保険者資格取得等確認通知書
- 就業規則
- 会社案内または会社概要
- 商業・法人登記簿謄本
- 法人都民税および事業税の納税証明書
- 2020TDM推進プロジェクトへの参加に関する資料(必要な場合のみ)
- テレワーク環境構築図
- 見積書
- 導入製品等の資料
- 開業届・住民票記載事項証明書(個人事業主のみ)
- 個人都民税および個人事業税の納税証明書(個人事業主のみ)
実績報告時に必要な書類は次のとおりです。
- 実績報告書
- 事業所一覧
- テレワーク実施状況(稼働実績)報告書
- テレワークに関する規程
- テレワーク東京ルール実践企業宣言制度への登録に関する資料
- 見積書・発注書・契約書・領収書などの経費関連の支払い証拠書類
- 購入物品の写真・委任の成果物・テレワーク実施状況の確認資料
テレワーク・IT技術関係の助成金・補助金などまとめ
テレワーク導入やIT分野の技術関係の助成金・補助金には、テレワーク促進助成金以外にもさまざまな種類が存在します。
以下では2022年1月時点で利用できる制度を解説します。
テレワーク推進強化奨励金
テレワーク推進強化奨励金とは、テレワーク推進期間である2021年12月6日~2022年2月28日の間にテレワークに取り組む事業者を対象にする制度です。テレワーク東京ルール実施宣言企業宣言において、テレワーク推進リーダーに登録する必要があります。
本奨励金の上限額は50万円です。テレワークの実施期間と実施人数で金額が変動します。
【公式サイト】
公益財団法人 東京しごと財団|テレワーク推進強化奨励金
小規模テレワークコーナー設置促進助成金
小規模テレワークコーナー設置助成金とは、自社店舗や事務所の空きスペースに、自社社員以外の一般の人もテレワークできる場所を設置する事業主が受け取れるお金です。設置場所は東京都内の施設に限ります。
本助成金の上限額は50万円です。テレワークコーナーの設置に関する工事費や業務用什器購入費などの経費額によって金額が変動します。
【公式サイト】
公益財団法人 東京しごと財団|小規模テレワーク設置促進助成金
人材確保等支援助成金テレワークコース
人材確保等支援助成金テレワークコースとは、テレワークによる勤務体制を新規導入、または試験導入した事業者を対象にした制度です。
テレワーク導入後の対象期間中に、「テレワーク実施対象労働者の全員が1回以上テレワークを実施する」、または「テレワーク実施対象労働者が週平均1回以上テレワークを実施する」のどちらかを満たしたとき、最大100万円が助成されます。
【公式サイト】
厚生労働省|人材確保等支援助成金(テレワークコース)
IT導入補助金
IT導入補助金とは、現在抱えている問題やニーズに合うITツールを導入することで、業務の効率化や売上アップを狙う事業者を対象にした制度です。
IT導入補助金の場合、テレワークの導入については、通常枠の補助率1/2から補助率3/4に拡充した特別枠(C・D類型)が利用できます。
本補助金の上限額は450万円です。導入するITツールに関係する経費に応じて金額が変動します。
【公式サイト】
IT導入補助金
テレワークマネージャー相談事業
テレワークマネージャー相談事業とは、総務省が実施するテレワークに関する相談窓口です。
テレワークに関する情報提供や就業規則作成補助など、テレワークに関するコンサルティングを無料で利用できます。
【公式サイト】
総務省|テレワークマネージャー相談事業
各都道府県・市区町村が設立したテレワーク助成金
厚生労働省・総務省・東京都の助成金や補助金制度以外にも、各都道府県や市町村区が独自に設立したテレワーク関係の制度が存在します。たとえば次のとおりです。
千葉県君津市:中小企業者等テレワーク導入支援補助金
京都府京丹後市:京丹後市サテライトオフィス設置等支援補助金
富山県魚津市:魚津市テレワーク支援助成金
新潟県燕市:燕市オンライン環境整備補助金
神奈川県厚木市:厚木市テレワーク導入支援補助金
自社の周辺地域独自のテレワーク導入支援がないかどうか、一度商工会議所や役所へ問い合わせてみてください。
また独立行政法人 中小企業基盤環境整備機構が運営する「J-Net21」でも検索できます。
過去に募集していた助成金・補助金一覧
2022年1月現在では募集が終了・停止している助成金・補助金制度をまとめました。今後、募集再開や類似制度の新設が行われる可能性もあるので、一通りチェックしておくことをおすすめします。
- テレワーク定着促進助成金
- テレワーク・マスター起業支援奨励金
- 事業継続緊急対策テレワーク助成金
- 働き方改革推進支援助成金
- はじめてテレワーク(テレワーク導入促進整備補助金)
- テレワーク活用・働く女性応援助成金
中小企業がテレワークを導入するメリット・デメリット
テレワーク導入に関する助成金・補助金制度があるとはいえ、実際に中小企業がテレワークを導入するのは金銭面・環境面ハードルが高いのが現状です。
事前にテレワークを導入するメリットとデメリットを確認しておき、自社で本当に導入すべきかを検討しましょう。
テレワーク導入のメリット
テレワークを導入するメリットは次のとおりです。
- 不必要な対面商談・会議を減らすことで営業効率が向上する
- 事務所家賃やその設備のリース・レンタル料などの固定費を削減できる
- 優秀な人材の確保や既存従業員のモチベーションアップなど人事面でプラスになる
- ペーパーレス化やオンラインのやり取り実現によって業務効率向上が期待できる
- デジタルトランスフォーメーション導入企業としてステークホルダーにアピールできる など
テレワーク導入のデメリット
テレワークを導入するデメリットは次のとおりです。
- 労務管理・人事体制の変更や運用に多大な労力と時間がかかる
- テレワーク関連の設備導入・運用・保守管理費がかかる
- 従業員の長時間労働化やタスク管理の難度化によって生産効率が下がる可能性がある
- セキュリティリスクが上昇する
- コミュニケーション不足により従業員同士の連携が取りづらくなる など
2022年度以降のテレワーク関連の助成金・補助金の動き
厚生労働省・総務省ともに、令和3年度の補正予算案にて、テレワークやIT化の定着・推進について言及しています。計上予算額や制度要求などのおおまかな情報は次のとおりです。
<厚生労働省>
人材開発支援助成金の高率助成:216億円
良質なテレワークの定着促進のための企業支援として、対象事業者や対象経費の見直しの制度要求
<総務省>
「テレワークや遠隔教育などを支える情報通信基盤の整備」:256.8億円
「新しい働き方・暮らし方の定着・デジタル格差対策の推進予算」でのテレワークの推進:6.1億円
「地方への人の流れの創出・拡大」でのテレワーク推進:6.1億円
その他情報セキュリティやデジタル環境に関する予算案多数
テレワークにも使用するサテライトオフィスの整備に関する軽減措置の創設を税制改正要望 など
上記のように、2022年以降もテレワークに関連する予算が投入される予定です。今後も既存のテレワーク関連の助成金・補助金拡充や、新しい制度の設立が推測されます。
常に最新情報を手に入れられるよう、厚生労働省・総務省・各自治体の公式サイトをチェックしたり、助成金に強い社労士に相談したりなどの活動をおすすめします。
テレワーク促進助成金やその他の制度でテレワーク導入を検討しよう
テレワーク促進助成金は、東京都にある事業者のテレワーク導入にかかる費用を、最大250万円まで助成する制度です。また、本助成金以外にもテレワーク導入関連の助成金・補助金は数多く揃っています。テレワークに移行したい事業者は、自社の事業計画や経営状態に応じて、必要な制度をご活用ください。
どの助成金・補助金制度を利用すればよいかわからないときは、助成金制度の専門家である社労士や財務関係に強い税理士へ相談しましょう。適切な助成金・補助金制度の選定や、事業計画書の作成補助などの、専門的なサポートを受けられます。事務局による審査に通過する可能性も上がるはずです。