会社の収益が上がり会社の規模が大きくなってくると、従業員の数も増えてくるので、待遇改善についても検討しなければいけなくなってきます。そこで着目したいのが福利厚生費です。社内環境をアップするための費用が「福利厚生費」として認められれば、全額損金算入することで節税にもつながります。従業員の満足度を上げることは職場への定着率を高めるとともに、生産性の向上やサービスの質の向上など、従業員だけでなく、会社としても嬉しい結果に繋がります。
この記事では、下記のような疑問に答えていきます。
- どのような出費が福利厚生費として認められるのか?
- 社員の満足度を上げる福利厚生とは?
- 福利厚生費を使った節税のやり方?
- 従業員だけでなく役員にとっても所得税非課税となる?
まずは、「そもそも福利厚生費とは?」という素朴な疑問や、福利厚生費として認められるものについてもご説明します。
福利厚生費を使った節税を行う前に知っておきたいこと
福利厚生費とは、給与、交際費以外で、従業員の生活向上を目的として支給されるものです。福利厚生費には2種類あり、法律で定められた「法定福利厚生費」と、その企業独自で任意に支給できる「法定外福利厚生費」があります。
法定外福利厚生費は、任意で支給するものですから、支給しなくても法律違反にはなりません。しかし、ほとんどの企業で法定外福利厚生費が支給されているのも事実です。なぜなら、法定外福利厚生費というのはその企業独自の内容で支給できるので、会社のイメージアップにも使用することができるからです。人材募集の時にもこの法定外福利厚生費の内容を充実させることによって求職者の目に留まりやすくすることができます。
福利厚生費として認められるものとは
ここでは、法定外福利厚生費として認められるものと認められないものをご紹介していきます。たとえば、社員に支給される通勤費は基本的に1か月分の定期代が支給されますが、会社として支給できる通勤費のひと月の限度額は15万円となります。15万円までは福利厚生費で認められるが、それ以上は福利厚生費としては認められないのです。他にも福利厚生費には認められる部分と認められない部分が存在します。
社員旅行や研修旅行ってどこまでが福利厚生費?
まず、社員旅行に関する規定は次の通りです。
- 日程は、4泊5日以内であること
- 職場全体の50%以上の参加
この2つの要件を満たせば、社員旅行として認められ、福利厚生費として計上することができます。
ただ、自己都合で社員旅行へ参加しなかった従業員に、参加した社員にかかった費用と同等の現金を支給した場合、その社員旅行自体にかかった費用すべてが給与として支給されたことになり、福利厚生費とは認められないことに注意が必要です。
次にあげるような旅行は社員旅行には認められず、交際費として計上されてしまいます。
- 役員だけの旅行
- 取引先との旅行(接待が目的となるため)
これらの旅行は、従業員が楽しみとする、仕事へのモチベーションを上げるための旅行にはなりにくいと考えられます。
研修旅行に関しては、会社の業務を遂行するために必要な知識や技術を身に着けるための研修が目的の旅行ならば、福利厚生費として認められますが、次の項目では研修旅行とは認められず福利厚生費にはなりません。
- 社員を伴うが、海外への旅行(内容に関しては研修を含めてはいる)
- 観光が目的の団体旅行への参加
祝い金、香典など慶弔見舞金
従業員、役員に支払われる慶弔見舞金は、福利厚生費として計上できます。 慶弔見舞金に含まれるのは、結婚、出産などの祝い金、親族の葬儀があった際の香典、入院したときのお見舞金などが含まれます。
この祝い金、香典に関しても、社内規定をきっちり決めておく必要があります。また額についても社会常識に合った金額を設定すべきです。
定期健康診断にかかる費用
全社員を対象として、診断料に関しても社会的な常識内であれば福利厚生費として認められます。診断機関へ会社が支払うようにすることも気を付けたいポイントです。従業員に診断料を支給して、従業員から診断機関に支払うことでは福利厚生費としては認められません。
この項目で説明してきた内容は、すべて社内規定、就業規定でしっかりと設定しておく必要があるものばかりです。
従業員が退職するときや健康診断費用、社員旅行を行う時期など、様々なケースを想定して適切な社内規定を設定するためには、社内だけで検討して決めることは少なからず難しい部分もあるため専門家からアドバイスをもらうことをおすすめします。
税理士ならば、正確な費用の負担額、どのくらいの節税になるかなどのアドバイスをもらえます。就業規定と併せて正しく設定するために税理士へ相談してみてください。
福利厚生費がなぜ節税対策になるのか
ここまでどんな出費が福利厚生費となるのかを説明してきました。 今度は、なぜ節税対策になるのかを解説します。
福利厚生費の定義とは
福利厚生を目的として、従業員、役員に対して給料、交際費以外で、間接的な給付を行うための費用ということになります。
前項で、さまざまな福利厚生費として認められる範囲について紹介した内容は、すべてこの福利厚生を目的とした従業員対象の間接的給付ということです。
法人税課税の対象が、収入から経費を差し引いた残りとなりますので、福利厚生費として認められれば経費となり、差し引くことで税額が低くなります。
また、従業員からすれば、給与以外に利益を受け取れ、その上それらには所得税、社会保険料がかからないことになりますので、会社側、従業員側と両方に節税対策になります。
もっと福利厚生費として節税効果のあるものは?
この項目では、もっと他に福利厚生費として認められるものはないかを検証していきます。
忘年会、新年会、歓迎会にかかる費用は?
これも一定の条件を満たせば、福利厚生費として認められます。全社員対象で、会社の負担額が一律、金額が社会常識の範囲内という条件となります。あまりに高額な飲み会を複数回行うということは認められません。
ただ、昨今の働き方改革もあり、飲み会への参加が負担と感じている社員が多く存在しますので、いくら経費計上できるといっても開催を検討する余地はあります。福利厚生費というのは、社員の生活向上、仕事環境の整備が目的ですから、社員の気持ちを考えて開催を検討してください。
食事支給は?
食事は、一定額を満たさないならば、給与には含まれないことになります。
しかし、食事支給を福利厚生費として認める大前提として、
- 給与から従業員負担分を天引きすること
この要件が必要なのです。
また、会社側が負担できる金額は、1か月3500円までとなります。 年間で、一人当たり42,000円です。従業員が20人いれば、年間で840,000円となり、経費として使える項目ではあります。
いつも外食などで昼食をとっている社員であれば、かなりお得な福利厚生費となります。1か月あたり3500円を引いた差額は、従業員負担となりますが、自分で購入するよりは安上がりです。また、負担分は給料から天引きなので、社会保険料、所得税がその分安くなります。
サラリーマン、OLにランチ代は大きな出費ですから、負担分天引きであったとしても喜ぶ従業員は少なくないのではないでしょうか。
残業や夜勤での食事代は、全額「福利厚生費」として認められます。 現金支給する場合は、1食300円までが福利厚生費となります。
作業服、ユニフォームを支給した場合は?
次の場合は、制服として認められ、かかった費用はすべて福利厚生費となります。下記がその条件です。
- 社内でのみ着用
- 社章や会社ロゴなどが入っている
- 社員が全て着用するもの(現場、工場などでの着用する作業服など同じ部署ですべての社員が着用するものであること)
あまり高級なものでなければ、福利厚生費として認められるので取り入れることを検討してみる余地はあります。
福利厚生費以外で節税効果のある従業員にメリットがある費用
ここでは、福利厚生費ではないのですが、従業員、役員が仕事をする上で必要な節税対策になる費用について説明します。
日当について
出張が多い会社ならば、日当を支払うことを検討してみてください。 費用としての科目は、「旅費交通費」となりますが、これも全額、経費計上できて経理処理も簡単です。
出張にともなう費用には、交通費と宿泊費は旅費交通費として実費精算ですが、これらの費用のほかに、食事代や雑費がかかります。
この交通費、宿泊費以外の費用を「日当」として旅費交通費で計上できるのです。領収書の添付もなしで、経費計上できます。これも社内規定で、役職に伴った日当の金額を決めておく必要はあります。
役員で5,000円、一般社員で2500円程度の日当を設定している企業が多くなります。社員は、出張ごとに日当を受け取れて、会社側は経費として計上できると両方にとってメリットがあります。
従業員、会社も両方にメリットがある損金算入が理想
今まで、ご紹介してきた福利厚生費と社員にメリットのある経費計上ですが、大切な会社の収益を使うのですから、会社のためにも、従業員のためにも使えることが理想です。手厚い待遇があれば、社員のモチベーションが上がり、会社のために頑張ろうという気持ちが必ず出てきます。
経費というのは、会社の事業価値を成長させるための出費なのです。この事業価値には、従業員も含まれていて、技術力、知識力、その他事業に合ったあらゆる力量を持った従業員が多い会社ほど、その事業価値も高まってきます。
優秀な従業員を確保するためにも、手厚い福利厚生を検討して、そのことにかかる費用は惜しみなく使うべきなのです。
福利厚生費で効果的な節税を行うために
福利厚生費を使った節税対策で気を付けたいことは、今回紹介した方法のすべてに出費が伴うことです。会社側の負担が大きくなることもあります。
その使った分は経費として計上できますが、収益が多かった年度では大丈夫でも、収益が悪い時期もあります。一度従業員に福利厚生費として支給してしまうと今後も経費計上していくことになり、負担になる年もあることも想定しておく必要があるのです。
会社の負担が大きすぎて、資金繰りが厳しくなり給与が払えない事態になっていしまっては、本末転倒です。経費配分については、税務のプロである税理士への相談してみてください。