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「タイムマシン経営」とは?起業の成功確率を高める経営手法を紹介!

「タイムマシン経営」とは?起業の成功確率を高める経営手法を紹介!

ソフトバンクグループ創業者の孫正義氏が発案、自ら実践して大きな成果を出したタイムマシン経営。先行するニュービジネスを海外に見つけ、タイムラグを利用して日本へ持ち込むタイムマシン経営とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。タイムマシン経営について、事例とともに解説します。また、タイムマシン経営をするためのおすすめの領域や、成功させるポイントなどについても考察します。

タイムマシン経営とは何か?

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タイムマシン経営の発案者

タイムマシン経営とは、ソフトバンクグループ創業者の孫正義さんが発案した経営メソッドで、主にアメリカなどの海外で先行しているビジネスを日本に持ち込み、事業として立ち上げるものです。特にインターネットやITといった分野では、アメリカと日本との間に数年のタイムラグがあるとされていて、そのタイムラグを使って各種のニュービジネスを日本へ持ち込むのです。アメリカに行けばそういったニュービジネスが見えることから、まるでタイムマシンで未来を見るイメージでタイムマシン経営と名付けたのでしょう。

タイムマシン経営の始まり

孫さんがタイムマシン経営を始めたのは1990年代とされています。1994年にアメリカでSoftbank Holdings Inc.を設立し、日本でソフトバンク株式会社の株を店頭公開すると、それで得た資金をもとにアメリカの有望なベンチャー企業に投資を始めます。

孫さんが早期に投資した会社は、当時まだ勃興期だったインターネット系の企業が多く、その中には設立間もないYahoo!も含まれていました。スタンフォード大学の二人の学生が立ち上げたYahoo!は、現在のYahoo!と比べると恐ろしく原始的なものでしたが、インターネット時代の到来を予感した孫さんはスタートアップして間もないYahoo!に投資。その翌年に日本でヤフー株式会社を設立、日本でインターネット検索ビジネスを開始しました。孫さんのタイムマシン経営の本格的な第一号といっていいでしょう。

その後は、ネット証券会社イー・トレード株式会社、金融情報配信企業モーニングスターといったインターネット系の企業をタイムマシン経営で次々と日本で立ち上げています。なお、筆者は孫さんがアメリカでインターネット系企業に投資をしていた1990年代にアメリカで仕事をしていましたが、数人で起業したばかりの小さなベンチャー企業にまで投資をしていることを知り、驚いた記憶があります。タイムマシン経営のネタになりそうなビジネスを探索し、見つけ出すその能力に驚いたものです。

孫さん以前にもあったタイムマシン経営

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ところで、これまでにタイムマシン経営を実施したのは何も孫さんだけというわけではありません。孫さん以前にも、実質的にタイムマシン経営と呼ぶべき方法でビジネスを立ち上げたケースは少なくありません。特に高度経済成長期の日本は、多くのビジネスをアメリカから持ち込んで立ち上げています。その例を見てみましょう。

タイムマシン経営の例①コンビニエンスストア

日本のタイムマシン経営の良い実例のひとつは、コンビニエンスストアでしょう。コンビニエンスストアは、1927年に米テキサス州の氷販売店「サウスランドアイス」という店が工場労働者に食料品や日用品の販売を開始したのが始まりとされています。やがてセブン-イレブンの屋号でアメリカ全土へ拡大し、アメリカでコンビニエンスストアは一般的な存在になってゆきます。

さて、日本でコンビニエンスストアをタイムマシン経営した企業の筆頭は、イトーヨーカドーでしょう。イトーヨーカドーは1973年に株式会社ヨークセブンを設立、アメリカのサウスランド本社とライセンス契約を締結します。翌年には東京都江東区豊洲にセブン-イレブン第一号店を開店させ、日本におけるコンビニエンスストアの歴史をスタートさせます。セブン-イレブンの日本でのその後の展開についてはあえて記す必要はないでしょう。

ローソンもセブン-イレブンと同様のタイムマシン経営を行っています。ローソンは米オハイオ州の牛乳販売店ローソンが原点で、牛乳とともに食料品などを販売するコンビニエンスストアとして発展してゆきます。日本では、当時のダイエーがローソンを展開するアメリカのコンソリデーテッド・フーズと業務提携し、1974年に大阪府豊中市に第一号店をオープンさせています。ローソンの日本でのその後の展開については、セブン-イレブンと同様、あえて記す必要はないでしょう。なお、日本のローソンのタイムマシンの元となったアメリカのローソンはすでに存在していないそうです。

タイムマシン経営の例②ファストフード

ファストフード業界もタイムマシン経営が多く見られる業界です。ファストフード業界におけるタイムマシン経営の事例の筆頭はマクドナルドでしょう。

マクドナルドは、1940年に米カリフォルニア州サンバーナーディノにマクドナルド兄弟が開いたハンバーガー店が原点です。1950年代に、ミルクシェイクミキサーのセールスマンだったレイ・クロックがフランチャイズ化し、瞬く間に全米に拡大しました。日本には当時の藤田商会創業者の藤田田(ふじた・でん)氏がアメリカのマクドナルド本社とフランチャイズ契約を締結し、1971年に東京の銀座に第一号店をスタートさせました。マクドナルドのその後の躍進についてはあえて記す必要はないでしょう。

ところで、アメリカのマクドナルド本社は日本での事業展開を検討した際、藤田さんと話をする前に、ダイエー創業者の中内功(なかうち・いさお)さんのところに相談に行ったそうです。フランチャイズ契約の締結を持ち出された中内さんは、「俺に経営ノウハウを教えるというのか」と憤り、話はお流れになったそうです。

マクドナルドと並んでタイムマシン経営で成功したケースの第二はケンタッキー・フライド・チキンでしょう。ケンタッキー・フライド・チキンは、1930年代にハーランド・サンダースが経営するガソリンスタンドの飲食スペースでフライドチキンの提供を開始したのが原点です。1940年までにフライドチキンのオリジナルレシピを完成させたサンダースは、1950年代に入るとレシピのフランチャイズ化を進め、1952年に米ユタ州ソルトレイクシティに初のケンタッキー・フライド・チキンの屋号のフランチャイズ店をオープンします。

日本では三菱商事が1970年にアメリカのKFC本社と合弁で日本ケンタッキー・フライド・チキンを設立し、名古屋市に第一号店をオープンさせます。日本ケンタッキー・フライド・チキンのその後の展開についても、あえて記す必要はないでしょう。

タイムマシン経営の新たなネタはどこにある?

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Yahoo!、コンビニエンスストア、マクドナルド、ケンタッキー・フライド・チキンと、タイムマシン経営の事例をいくつかご紹介しました。いずれもすでに完成したタイムマシン経営の事例ですが、これからタイムマシン経営を行う場合、その新たなネタはどこにあるのでしょうか?筆者は、ネタの探索先として以下の領域をおすすめします。

タイムマシン経営のネタ①フィンテック・インシュアテック

ネタの探索先としておすすめの筆頭はフィンテック・インシュアテックです。フィンテクとはFinance + Techからできた造語、インシュアテックとはInsurance + Techからできた造語です。

今、金融システムが世界規模のパラダイムシフトに直面しています。インターネットの普及やブロックチェーン技術などの台頭により、これまでの常識が通用しない金融の世界が誕生しています。銀行なども、新興のフィンテック・スタートアップ企業の台頭により、業務に大きな影響が出始めています。ネット専用銀行などの誕生で、既存の銀行は店舗数を減らし、業務の縮小を余儀なくされています。

融資の審査なども人間に代わってAIが行うようになりつつあり、銀行業そのものを完全にアウトソースするBaaS(Banking as a Service)と呼ばれる新しいビジネスも生まれています。そのような新たなビジネスの多くは、今後の日本でタイムマシン経営される可能性が高いでしょう。

保険の世界も同様です。従来型の保険ビジネスとは一線を画す、全く新しい保険ビジネスが立ち上がっています。保険を必要なものに必要な分だけかけるオンデマンド保険と呼ばれるものが出現し、無店舗保険会社にネットインフラをクラウドベースで提供するインシュアテック企業なども出現しています。インシュアテック企業の中にも将来日本でタイムマシン経営が可能なものが少なくなく、ネタの探索先として非常に有望です。

タイムマシン経営のネタ②AI

また、タイムマシン経営のネタを探す上で、AIは外せないでしょう。AIは今や、あらゆる産業で導入が始まっていて、関与していない領域を探す方が難しくなっています。筆者のおすすめの産業は、医療・介護、教育、小売り、不動産、飲食です。特に不動産と飲食では、AIを使った面白いニュービジネスが少なからず見られます。タイムマシン経営を目指す上では、ウォッチすべきでしょう。

タイムマシン経営のネタ③オープンソースソフトウェア

フィンテックやインシュアテック系のニュービジネスは、ある程度のまとまった資金が求められるケースが多く、小規模事業者や個人にとっては参入のハードルが高いのも事実です。そこで、比較的小資本で始められるニュービジネスとして、オープンソースソフトウェア関連のビジネスをおすすめします。

オープンソースソフトウェア、略してOSSは、インターネットの台頭とともに世界各地で同時多発的に勃興してきました。フィンランド人学生リーナス・トーバルズが開発したLinuxが有名ですが、OSSは今日までに無限に増え続け、今も数を増やし続けています。

例として筆者の友人のケースを挙げます。彼はあるインド人エンジニアが開発したセキュリティ対策用のOSSをインターネットで偶然見つけました。世界的なユーザー数の多さと、その優れた機能に驚いた彼は、メールで開発者に連絡し、日本語にローカライズさせてほしいと頼みました。ローカライズの許可をもらった彼は自らソースコードを開いてローカライズし、リリースしました。同時に彼は、それを使って企業のウェブサイトのセキュリティを守る仕事を立ち上げました。日本語版のユーザーがどんどん増えてゆく中、彼のその会社は順調に売上を伸ばしています。

オープンソースソフトウェアの場合も、すでに実績があるものを探し、それを日本へいち早く持ってくるのがポイントです。日々続々と生まれるオープンソースソフトウェアの中にも、タイムマシン経営のネタが多く含まれています。

タイムマシン経営を成功させるポイント

最後に、タイムマシン経営を成功させるポイントについて考えてみましょう。ポイントの第一は、なんといってもすでに実績のあるビジネスを持ってくることです。ここでいう実績とは、インターネットビジネスであればユーザー数、アクセス数、売上、フィンテックビジネスであればユーザー数、トランザクション数、運用資産額といったものです。Yahoo!に投資した孫さんは、立上げ間もないYahoo!のアクセス数の伸び率に注目したそうです。短期間で急激にアクセス数を伸ばすYahoo!を見て、日本でも同様の展開が可能であると判断したのでしょう。

ポイントの第二は市場です。先行する外国と同程度の市場が日本にあることが求められます。例えば、法律系のリーガルテック関連のニュービジネスを日本に持ってくる場合、訴訟大国のアメリカと同程度の市場が日本にあるのかを精査する必要があります。ちなみに、人口10万人あたりの弁護士数、いわゆる法曹人口は、日本はアメリカの2.3%に過ぎません。

ポイントの第三は革新性です。タイムマシン経営ですから、今までにない、未来のモノを持ってくる必要があります。さらには、多くの日本人を驚かすようなインパクトがあるものが望ましいでしょう。

以上、ポイントをまとめました。とはいうものの、儲かりそうなニュービジネスは多くの人が血眼になって探しているものであり、実際はそんなに簡単ではないでしょう。しかし、それでも探さなければ見つかることはありません。「探しなさい。そうすれば、見つかる」は、私の好きな聖書の言葉です。それを信じ、粘り強く探すことをおすすめします。幸運を祈っています。

企業の教科書
高桑 哲生
記事の監修者 高桑 哲生
税理士法人 きわみ事務所 所属税理士

税理士法人きわみ事務所の所属税理士。
「偉ぶらない税理士」をモットーに、お客さんに喜んでもらえるサービスを提供。
税務処理だけでは終わらない、プラスアルファの価値を提供できる税理士を目指す。

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